猿の駆除に必要な基礎知識
はじめに、猿の生態や駆除に関する法律・規制等について見ていきましょう。猿の生息地域と行動の特徴
猿は北海道以南に広く生息しています。群れで行動する動物で、メスの家系で構成された10~100頭ほどの集団を形成しています。一つの群れは数平方~10数平方kmの範囲内で行動し、ほかの群れと行動範囲が重なることはほとんどありません。
一生を同じ群れで過ごし、メス1頭が生む子の数は1回につき1頭。野生では隔年、農作物に依存して生きる猿は毎年1回出産する場合もあります。学習能力は幼児程度ですが記憶力と運動能力が高く、視覚、聴覚、味覚などは人間とほぼ同じ、さらに痛みや寒さには強いとされています。
雑食性で、野菜や果物、虫も好んで食べます。寿命は長生きしても20年ほど。成長したオスは群れを離れてオスの群れを作るか、「ハナレザル」として単独で行動することもあります。
農作物の被害額
農林水産省の調査「全国の野生鳥獣による農作物被害状況」によると、平成30年度の猿による農作物被害額は8億2,300万円。この金額からも、多くの農家が被害を受けていることがわかります。猿は群れで行動し、一つの圃場にある農作物を広い範囲で採食します。
学習能力が高いことから、人や家、機械にもすぐに慣れてしまい、さらには人に向かって威嚇するなど危険をおよぼす行動が増えていきます。家や倉庫に侵入してしまうことも。これら問題行動が多い個体・群れは駆除などの対策を行わなければ被害は止みません。
猿対策の基本(一例)
・農作物に被害を与える猿の群れまたは個体を特定して捕獲する・出産経験が豊富なメスを捕獲すると、群れが分断して被害が拡大することがある
・群れ全体を捕獲しても、ほかの群れがやってくることもあるため、専門家の指導を受けるなど慎重に捕獲できるようにする
猿の駆除に関係する法律「鳥獣保護管理法」
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下、鳥獣保護管理法)によって、野生の鳥獣の捕獲は原則として禁止されています。ただし、農作物を荒らす害獣の捕獲は許可申請を行うことで認められています。鳥獣保護管理法とはどのような法律なのか、害獣の捕獲の際に必要な許可申請などについて詳しく見ていきましょう。鳥獣保護管理法とは
鳥獣保護管理法とは、鳥獣の保護・管理、狩猟の適正化を目的とした法律です。野生の鳥獣の捕獲や射殺はこの法律によって原則として禁止されていますが、生活環境や農林水産業、生態系に害をおよぼす鳥獣については、許可申請を行った狩猟免許保有者の場合のみ捕獲可能です。捕獲の許可申請は、都道府県または市町村に行います。猿を捕獲・駆除したいのなら、鳥獣害対策の担当に連絡し、許可申請を行いましょう。
参考:鳥獣被害対策実施隊の設置等について|農水省
有害鳥獣駆除の報酬
各都道府県で金額は異なりますが、有害鳥獣を駆除すると報酬がもらえることがあります。猿の場合、成獣で1体2万円弱の報酬を受け取れることもあります。報奨金は国、県、自治体それぞれから支払われるので、事前に市町村のホームページ等で必要書類や金額について確認しておきましょう。猟銃を使わなければ狩猟免許のない人でも狩猟に参加できる?
鳥獣保護管理法の特例によって、狩猟免許を持たない人でも狩猟に参加できます。特例が認められる要件は次の通り。1. 有害鳥獣捕獲の許可を受けた法人による捕獲であること
2. 銃器以外の方法で捕獲すること
3. 捕獲従事者の中に猟法に応じた狩猟免許所持者が含まれていること
4. 有害鳥獣捕獲の許可を受けた法人が捕獲従事者に対して講習会等を実施し、捕獲技術・安全性等が確保されていると認められること
5. 狩猟免許を所持していない捕獲従事者は免許を受けている者の監督下で捕獲を行うこと
6. 有害鳥獣捕獲の許可を受けた法人が地域の関係者と十分な調整を図っていると認められること
また、銃器以外の狩猟免許の取得は各JAがサポートを行っていますので、狩猟免許を取得したい方はJAに確認してみましょう。
猿の駆除の具体的な方法と使えるアイテムは
猿を駆除する方法は捕獲だけではありません。ここからは、猿を撃退、駆除する具体的な方法と使えるアイテムをご紹介します。電気柵で作物を守る
捕獲せずに猿対策を行いたいのなら、圃場の周りに電気柵を張り巡らせるのも手です。猿は学習能力が高いので、1本ではなく複数本の電線を、高さを変えて張り巡らせるとよいでしょう。電気柵を設置した後は、「感電注意」の表示板を忘れずに掲示し、誤って電気柵に触れないようにします。一度柵を張れば無人でも圃場を守ってくれる優れものです。ただし、漏電や線の切断などの不具合が発生することもあるので、定期的に電気柵の保守作業を行う必要があります。
はこわな・柵で捕獲・駆除する
群れから離れて個体で活動するハナレザルや群れの個体数調整のために行う方法です。小型や大型のはこわな、囲いわなを使用します。ケージのようなわなを用意し、そこにエサを置くだけで設置が完了するとても簡単な方法です。ただし、はこわなは捕獲する個体を選べません。出産経験が豊富なメス(体格がよく乳首が長く伸長しているのが特徴)の猿を捕獲してしまった場合には群れの分裂が起こり、農作物への被害が拡大する恐れがあります。捕獲した場合は放しましょう。
足くくりわなで捕獲する
なるべく費用をかけず、手軽に捕獲したいのなら、わなを仕掛けて捕獲する足くくりわながあります。設置した罠の周囲にエサをまいておくと、動物がわなに足を踏み入れた瞬間に足首を縛り捕獲できます。無人で捕獲でき便利ですが、有効範囲が狭いので、設置場所に工夫が必要です。オオカミの尿の臭いで追い払う
動物が嫌がるオオカミの臭いを圃場の周囲に漂わせることで、猿を圃場に近づかせないようにします。オオカミの尿は多くの害獣が嫌がるので、猿だけでなく、イノシシやシカへの忌避効果もあります。ただしこの効果には個体差があり、オオカミの尿の臭いを嫌がらない個体もいる点に注意が必要です。とはいえ、簡単に設置・利用できるのは便利です。女性や高齢者でも簡単に設置・撤去できます。
エアガンで威嚇する
エアガンで威嚇して追い払う方法もあります。バイオBB弾を使用すると、2~3年で土に還るので安心です。圃場等で繰り返し使用して、近づいてはいけない場所であることを害獣に知らせましょう。エアガンによる威嚇のデメリットは、害獣を見つけた時のみしか行えない点にあります。定期的な見回りとエアガンの装備が必要になります。
動画でチェック!囲いわなの設置方法
「岐阜県型猿捕獲囲いワナ」は、低コストで設置、移動が自力で簡単に行えます。野生の猿を駆除・捕獲して圃場を守ろう
猿の駆除・捕獲を行う前に、猿の生態について理解する必要があります。むやみに捕獲を行うと、群れが分断してさらに多くの猿が圃場を荒らすかもしれません。知能が高い猿は、ほかの害獣とは異なる行動をとります。民家に侵入したり、倉庫に侵入したりと、被害は圃場だけにとどまらないことを知りましょう。また、猿対策のアイテムは数多くありますが、それぞれの特徴を知らずに利用しても効果が半減してしまいます。アイテム後のメリット・デメリットと使用方法を良く調べ、必要なアイテムを適切な場所に設置しましょう。