この記事では酒米とうるち米との違いや品種の種類、栽培のポイント、各地の取り組みなどをご紹介します。
酒米とは?一般的なうるち米との違い
酒米は正式には醸造用玄米、酒造好適米とも呼ばれる酒造りに適したお米のことです。一般的なうるち米との大きな違いは下記の3点があります。
草丈が長い
一般的なうるち米よりも草丈が20〜30cmほど長い品種が多いのが特徴です。また粒のサイズも大きい品種が多く、台風を含む悪天候では倒伏のリスクがとても高くなります。心白の有無
酒米には粒の中央部に白く濁った「心白」と呼ばれる部分があります。心白のあるお米は吸水時に亀裂が発生し、その亀裂から麹菌が入り込み、繁殖が活発になります。そのため、心白があるお米は良い麹を造ることができ、日本酒造りに適しています。粒の大きさ
粒の大きさは千粒の重さ(千粒重)で表されます。一般的なうるち米が20〜23gであるのに対し酒米は25g以上あり、大粒であることがわかります。例えば吟醸酒を造る場合、酒米は粒の外側を50%以上削り取ります。そのため、割れずに扱いやすいことが前提となり、大粒で張りのあるお米が求められます。酒米は造る日本酒の種類によって、下記の通り、精米歩合の規程が定められています。
特定名称別の精米歩合の規定
・純米酒:規定無し・本醸造酒:70%以下
・吟醸酒:60%以下
・大吟醸酒:50%以下
なぜお米を削るのか?
お米の表層部には、雑味の原因や日本酒らしい香りの妨げとなる、タンパク質や脂質が多く含まれているからです。また、精米歩合が低いほど、日本酒の色がきれいに仕上がります。
酒米の品種|酒米の王様「山田錦」、希少な「愛山」
うるち米の「コシヒカリ」や「あきたこまち」のように酒米にもたくさんの品種があります。令和元年産の酒米の種類別銘柄設定数は、223種類が設定されています。その中から、代表的な品種をいくつか紹介します!山田錦|育成:兵庫県農業試験場(昭和11年)
山田錦は兵庫県のみならず広い地域で生産されており、誕生から80年を超える現在でも生産量日本一を誇る品種です。特徴としては心白が大きく、雑味の原因となるタンパク質が低い傾向にあります。また、吸水が良いため酒造りに適しています。しかし、耐倒伏性やいもち病耐性は低いため、生産には高度な技術が必要です。五百万石|育成:新潟県農業試験場(昭和32年)
五百万石は、新潟や北陸を中心に広く生産されている酒米です。大粒で心白の発現率が高く、粘り気が少ないため機械を使った麹造りにも適しています。しかし、耐冷性や耐倒伏性が低いため、栽培には注意が必要です。美山錦|育成:長野県農業試験場(昭和53年)
美山錦は東北から北陸、関東甲信地方での栽培に適した酒米です。吟醸酒などに使われることも多く、山田錦と五百万石に次ぐ生産量があります。耐倒伏性はやや低いものの、寒さに強く中山間地域でも生産が可能です。心白が比較的小さいため精米歩合を低くすることができます。雄町|育成:岡山県の農家が発見(安政6年)
雄町は大半が岡山県で栽培されている酒米で、山田錦や五百万石のルーツとなった品種でもあります。収量の少なさや栽培の難しさから、一時は生産が著しく減少しました。しかし、今では全国の酒蔵からの強い要望により生産が復活しています。愛山|育成:兵庫県農業試験場(昭和16年)
愛山は雄町や山田錦の遺伝子を継ぐ酒米です。山田錦よりも粒が大きく、草丈も長いので栽培が非常に難しい品種です。収穫量が少なく希少な酒米といえます。愛山で仕込んだ日本酒は独特の香りがあるとされ、幻の日本酒といわれる「十四代」でも使われています。新品種
ここ数年、下記のように各都道府県で特色ある品種の育成が進められています。・一穂積(いちほづみ 秋田県)
・百万石乃白(ひゃくまんごくのしろ 石川県)
・Hyogo Sake 85(兵庫県)
・さかほまれ(福井県)
・縁の舞(えにしのまい 島根県)
酒米の現状と地域での取り組み
近年の日本酒ブームの影響もあり、酒米の生産は増加傾向にあります。しかし、水稲全体の作付け面積に対する酒米の割合は3%程度です。農家・酒蔵・地域が一体となったストーリー性のある取り組み
米どころである東北6県の酒蔵で自県産の酒米を使用している割合は7割程度とのデータがあります(参考:東北農政局東北地域における酒米の生産振興に向けて)。地元の酒米を使用したいという酒蔵に対し、生産が追いついていないという可能性も考えられ、需要が眠っているともいえます。酒蔵としても自県産の酒米を使用することで、ストーリー性のある商品を作り、差別化を図っていくことができます。酒蔵とタッグを組んだ生産をすることで双方にメリットのある取り組みができるのではないでしょうか。
新潟県の事例|新潟しゅぽっぽ
「新潟しゅぽっぽ」はJR東日本新潟支社が取り組む、地域連携プロジェクトによって誕生した日本酒です。地元の4つの酒蔵が、それぞれの味わいを楽しんでもらうために、地元で生産された「同じお米」を「同じ精米歩合」「同じアルコール度数」で醸造しています。また、パッケージは鉄道や切符、地元の情景などをイメージしてデザインされており、ほかの日本酒とは一線を画すラインナップになっています。
また、稲刈り体験や酒蔵見学、市内ツアーを実施するなど観光としての側面もあり、さまざまな人に新潟へ足を運んでもらうための施策になっています。
(参考:JR東日本 新潟支社 新潟しゅぽっぽ公式サイト)
京都府の事例|嵯峨酒造りの会
「嵯峨酒造りの会」は酒米のオーナー制度です。もともと地元の田園風景を守るために地域と酒蔵が連携して始めた企画で、田植えや稲刈り、かかし作り、酒蔵見学などにも参加できます。1口1万円でオーナーになることができ、最終的に自分たちが収穫した酒米を地元の酒蔵が仕込んで、その日本酒が自宅に届きます。酒米栽培のポイント
酒米は一般的なうるち米と比べ、粒が大きく、草丈が長いため倒伏のリスクが高いのが難点です。そのため、栽培には高い技術が必要です。栽培する際は、品種の特性や良い酒米の条件をしっかりと理解してから取り組みましょう!良い酒米とは?
良い酒米の条件としては大きく下記の3点があげられます。・心白が中央にはっきりとあること
・大粒で粒の張りが良く、大きさがそろっていること
・タンパク質や脂質の含量が低いこと
栽培のポイント
適した農地の選定
心白の発現率を高めるためには、なるべく寒暖の差がある場所を選ぶのがいいでしょう。大粒の酒米は、外側は高温になり、デンプンの集積が進みます。一方で、内側は低温になり、デンプンの集積が不十分になるので、白く濁った心白が発生します。このように米の外側と内側の温度差により心白が発生するため、より寒暖差がある場所の方が良い酒米を作るのに向いています。土づくり
稲わらを中心とした有機物を施用することで、穂ぞろい、粒の肥大化、心白の発現を促すことができます。また、ケイ酸の施用は、いもち病に対する抵抗力を高め、倒伏防止にもつながります。ただし、堆肥は生育が旺盛になり過ぎたり、倒伏を助長したりする可能性があるため、施肥する時期と量に注意してください。そのほか、一般的なうるち米と同じように、深耕により根域を拡大し、健全な生育を促すことが大切です。作期の選定
酒米の出穂期は遅い方が望ましいとされています。酒米は、低温で登熟することで千粒重が大きくなり、心白が鮮明に発現するためです。また、タンパク質含量が下がる傾向にあります。ただし、遅すぎた場合は乳白粒の発生等により品質が下がるため注意が必要です。施肥と乾燥調整
良い酒米を栽培するためには、施肥設計と施用時期が非常に重要です。窒素は収量に対しては良い影響を与えますが、品質に対してはマイナスの影響があるためバランスをしっかりと見極めることが重要です。ケイ酸石灰、魚粕、油粕、堆肥の施用は心白の発現率を高めるといわれています。一方、リン酸とカリは生育初期に欠乏すると心白の発現を低下さます。地域や土壌条件により適切な施肥設計を心がけましょう。
そのほか、乾燥調整については胴割れを防ぐために低温で時間をかけて乾燥させることが重要です。
酒米で収益向上と地域振興!
酒米は粒が大きく、草丈が長いため栽培面では高い技術力が求められます。また、販売先を事前に確保する必要があるため、ハードルが高いという側面もあります。しかし、自治体や酒蔵、近隣農家と連携した取り組みができれば収益を向上させることも可能です。さらに、地域ぐるみの取り組みとしてストーリー性のある日本酒を販売して、広い意味で地域振興を進めることにもつながります!酒米の特徴や注意点をしっかりと学び、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。