栽培方法への強いこだわりや特徴がなければ差別化は難しいですが、多くの農家が「コシヒカリ」や「あきたこまち」のような有名品種を作っているのであれば、特徴のある品種に取り組むのは逆にチャンスです!もし興味を持ってくれる売り先が見つかれば販路拡大・増収になるかもしれません。 この記事では、最も多くの銘柄が設定されているうるち米の品種や特徴について紹介します!
お米の種類と品種の数
日本で栽培されているお米の品種数をご存じでしょうか?メジャーな銘柄がいくつかすぐに思い浮かぶかもしれませんが、まだまだ知られていない品種もたくさんあるんですよ!お米の分類
まず、お米を大きく分類すると「うるち米」「もち米」「酒米」の3種類に区分できます。うるち米
「コシヒカリ」に代表される、毎日のごはんとして食べられるお米です。もち米
字の如く餅に適したお米。通常「うるち米」には20%前後含まれる、でんぷんのアミロースの含量が0%という違いがあります。酒米
日本酒の醸造に適しており、大粒で、粒の中心部に心白と呼ばれる白く濁った部分があるのが特徴です。お米の種類
日本では非常に多くの種類のお米が栽培されており、令和元年産の種類別銘柄設定数はうるち米で824種類、新しい品種も37種類もあるんです!この中で実際に主食用として栽培されている品種は300種類程です。ちなみに、もち米は132種類、酒米は223種類が設定されています(参考:農林水産省 令和元年産水稲もみ及び水稲うるち玄米の産地品種銘柄一覧)。お米の生産量と品種別作付け割合のランキング
平成30年産の収穫量は水稲で776万t。同年の品種別の作付け割合は下表の通りです。上位3品種で50%以上を占める割合となっており、名の知れた品種に作付けが集中しているかがわかりますね。この割合は近年「ゆめぴりか」の生産量が増えたために10位が入れ替わりましたが、平成25年頃からほぼ変動することなく推移しています。
順位 | 品種名 | 割合 | 主要産地 |
1 | コシヒカリ | 35.0 | 新潟県、茨城県、栃木県など |
2 | ひとめぼれ | 9.2 | 宮城県、岩手県、福島県など |
3 | ヒノヒカリ | 8.6 | 熊本県、大分県、鹿児島県など |
4 | あきたこまち | 6.8 | 秋田県、茨城県、岩手県など |
5 | ななつぼし | 3.4 | 北海道 |
6 | はえぬき | 2.8 | 山形県、香川県など |
7 | キヌヒカリ | 2.2 | 滋賀県、兵庫県、和歌山県など |
8 | まっしぐら | 2.0 | 青森県 |
9 | あさひの夢 | 1.6 | 栃木県、群馬県 |
10 | ゆめぴりか | 1.5 | 北海道 |
トップ10にランクインしている品種の多くは、「コシヒカリ」の遺伝子を引いており、日本人がいかにコシヒカリ系統の味わいを好むかがわかります。
こだわりの品種に挑戦するメリットと注意点
特徴のある新品種が多く登場し、これまで「コシヒカリ」が圧倒的王者であった⽶業界の様子も変わってきました。
従来なら各都道府県の主⼒品種(必須銘柄)を栽培するのが当たり前だったはずです。しかし、お⽶の消費は減っています。生産者が⼯夫して、お⽶を選ぶ楽しみを積極的に提案する必要があるのではないでしょうか?
こだわりの品種を栽培するメリット
栽培に関するメリットとして、異常気象に対応した品集改良も進んでいますが、併せて「コシヒカリ」を超える品質を目指して育成された新品種など「味」を意識した品種が多く登場しています。「コシヒカリよりもおいしい」というアピールポイントは販売に有利ですよね。さらに特徴のある品種の中には、さまざまな料理や使い⽅に合ったお⽶もあるんです。外⾷や中⾷においてはお⽶の⽤途も多様化してきているので、寿司やカレー、洋⾷など、地場産のお⽶で、料理に適したより良いお⽶が店舗に提案できれば販路拡大にもつながります。
こだわりの品種を栽培する際の注意点
都道府県により「必須銘柄」と「選択銘柄」の設定が異なり、設定が無い品種については等級検査を受ける際の品種名は「その他うるち玄米」となります。そのため、販売時のパッケージや精米表示については食品表示法に基づき、適切な表記をしてください。例えば、令和2年産の秋田県の必須銘柄は「あきたこまち」「ひとめぼれ」「めんこいな」の3種類で、選択銘柄は「コシヒカリ」など27種類ありますが、この設定に無い品種は検査を受けても品種名を記載できません。(参考:農林水産省 令和2年産農産物の産地品種銘柄設定等の状況)
また、特殊なお米については汎用性が低いため、事前に需要のリサーチをしながら導入することをおすすめします。
特徴のある品種|新品種からパエリアに適したお米まで
ここからは注目を集めている新品種やユニークな特徴を持った品種をご紹介します。近年、温暖化による高温障害への対策としても品種改良が進んでいます。栽培のしやすさに焦点を当てた品種の選択も重要ですが、味や用途など消費者に焦点を当て、特徴のある品種を選択するのも経営戦略として有効です。
注目の新品種
金色の風(こんじきのかぜ)
岩手県のオリジナル品種で「コシヒカリ」を超える品種を目指し、10年の歳月をかけて育成された品種です。作付けする地域や生産者も限定しており、栽培マニュアルに基づいた生産が行われ、岩手県の中では最高級品種に位置付けられています。ふんわりとした食感と豊かな甘みを楽しむことができるといわれています。
雪若丸(ゆきわかまる)
山形県の新品種で、すでにブランド米としての地位を確立している「つや姫」に続くブランド米を目指し開発されました。白さやツヤの外観品質が「つや姫」に似ていることから、弟をイメージさせる「雪若丸」と命名。やや硬めのしっかりとした粒感と粘りのバランスが取れた、これまでに無い新食感といわれています。いちほまれ
コシヒカリ発祥の地である福井県の新品種であり、味の観点だけではなく、高温や倒伏に強く、農薬や化学肥料の使用を抑えられる品種を目指して育成されました。品種名の公募に100,000件を超える応募があるなど、デビュー前から非常に多くの注目を集め、初年度は特に人気かつ希少なお米として扱われました。新之助(しんのすけ)
「新之助」はいわずと知れた米どころである新潟県で育成された品種です。新潟県では「コシヒカリ」の作付け割合が非常に多く、気象リスクも高くなるため、熟期が違う品種の開発が進められていました。また、近年の食の多様化に伴うニーズの変化に対し、「コシヒカリ」とは違う新たなおいしさを目指して選定され、美しいツヤと上品な粒感、弾力ある食感が特徴的といわれています。ほかにも「だて正夢」「里山のつぶ」「ひゃくまん穀」「富富富(ふふふ)」「くまさんの輝き」など次々と新品種がデビューしています。
低アミロース米
通常のうるち米には20%前後のアミロースが含まれていますが、その含量が低いお米のことを低アミロース米といいます。もち米のアミロース含量は0%であることからもわかるように、光沢があり、粘りが強く、モチモチとした食感を楽しむことができます。代表的な品種としては「ミルキークイーン」や「夢ごこち」などがあります。
玄米食向きの品種
健康意識の高まりから女性を中心に白米ではなく玄米を積極的に食べる方が増えています。ただし、一般的なうるち米の品種では、長時間の浸水などの手間がかかるほか、ボソボソとして食べづらいという声が多く聞かれていました。そんな中、登場したのが玄米食向けの「金のいぶき」「はいごころ」などの玄米食に向く品種です。両品種ともに胚芽が大きく、ギャバが豊富に含まれているうえに、玄米特有の煩わしい手間無しでプチプチとした特徴的な食感の香ばしい甘さを楽しむことができます。
さまざまな料理に合うお米
料理ごとに適した品種も多く登場しています。従来の品種でも地域や栽培方法により、特徴あるお米が生産されていますが、料理に特化した品種という視点はまた違ったニーズをつかめる可能性を秘めています。寿司|笑みの絆
寿司用に適するお米として育成された品種です。粘りが強過ぎず、ほぐれやすいのが特徴で、酢と合わせた時によくなじむといわれています。また栽培的な観点では高温や倒伏に強いという特性があります。リゾット・パエリア|和みリゾット
その名の通りリゾットに適した品種です。硬めの食感で煮崩れしにくい特徴があります。イタリア料理で使われる「カルナローリ」という現地の品種に非常に近い評価で、日本でも栽培しやすいように品種改良されています。大粒で粘り気が少ないためパエリアなどの料理にも適しています。カレー|華麗舞(かれいまい)
細長い形状で粒表面の粘り気が少なく、カレーとの相性が良い品種です。日本人の嗜好に合わせ、インディカ米とジャポニカ米を掛け合わせ、硬めの食感で粘りが少ないのに内部は一般的なお米に近い軟らかさという特性を持っています。多様化する「食」に対応した生産を
お米には800を超える品種があり、ここで紹介した以外にも面白い特徴を持った品種がたくさんあります。栽培しやすさや収量だけではなく、どのように活用されるかを考え、差別化を図るために従来の品種以外にも作付けを検討してみてはいかがでしょうか。食が多様化しているこの時代に選ぶ楽しみを提供し、販路拡大・安定的な販売先を確保することで、収益の安定化につなげていきましょう。