稲の高温障害とは?障害症状別に解説【写真あり】
高温障害とは、読んで字の如く稲が「高温」により「生理障害」を起こしてしまうことをいいます。地球温暖化の影響から、ここ数年では夏になると日最高気温35℃以上の「猛暑日」が当たり前のようになってきました。
人が倒れる程に暑いということは「稲」にとっても過酷な状況であり、場合によっては、収量や外観品質を低下させる要因になります。
また、農産物検査法に基づく等級検査では、外観によって格付けされるため、高温障害は収量を下げるだけでなく、等級を下げ、収入の低下に直結してしまう恐れもあります。
ここからは高温障害の代表的な症状について説明します。
白未熟粒(しろみじゅくりゅう)
白未熟粒とは米粒が白く濁った状態を指し、その発生部位により、乳白粒、背白粒、腹白粒、基部未熟とさまざまな呼称があります(写真右側が白未熟粒)。通常、デンプンが正常に蓄積された粒は透明感のある外観となりますが、高温による生理障害でデンプンの蓄積が正常に行われず、米粒の内部に隙間が生じるために白く濁ったような外観になってしまいます。
胚乳内のデンプンは中心から腹部→背部→基部の順番で蓄積が進むとされており、どの時期に高温による障害が発生したかで、白濁する部位が異なるといわれています。
不稔(ふねん)
不稔とは籾の中にお米が実っていないカラの状態を指します。多くの研究機関からさまざまな見解が示されていますが、一般に開花期および出穂前の気温が35℃以上になった場合、籾の不稔割合が増えるといわれています。これは高温により、花粉が入っている葯(やく)の開きが悪くなり、正常に受粉が行われないために不稔の割合が高くなると考えられます。
不稔籾が多いと当然、収量が少なくなってしまいますので、注意が必要です。
胴割れ米
米粒の内部にヒビが入った状態を指します。胴割れ米の発生要因に関しては刈遅れや過乾燥なども考えられますが、米粒が固くなる出穂期以降の高温により胴割れの発生が多くなるとされています。
米粒は、周囲の湿度に反応し、水分を吸収・放出する性質を持っており、その際に粒自体が膨張・収縮するため、高温環境下では急激な水分変化が起こり胴割れが発生します。
精米時には、砕米の発生により歩留まりが低下し、炊飯した際の食味低下にもつながります。
その他、直接的な被害ではありませんが、高温によりカメムシ等の害虫が多発し被害粒が増加する可能生があるので、あわせて対策が必要となります。
カメムシの防除についてはこちらの記事で紹介しています。
代表的な高温耐性品種
ここからは高温環境下でも品質が低下しにくい、「高温耐性」を持った品種の一部をご紹介します。※品質や収量に関する記述は地域や栽培方法により差がありますので、参考までに。
栽培する品種については、各都道府県ごとに「必須銘柄」「選択銘柄」の定めがあるため、事前に確認してから導入することをおすすめします。
にこまる
・育成:九州沖縄農業研究センター・熟期:中晩生
・産地:長崎県、大分県、岡山県など
「にこまる」は九州のブランド米「ヒノヒカリ」に代わる品種として開発された品種であり、良食味として定評のある「きぬむすめ」と倒伏耐性のある「北陸174号」との交配で育成されました。
粒の張りが良く、高温環境下でも白未熟粒の発生が少ないうえに、平坦地や中山間地等の地域条件にかかわらず、ヒノヒカリよりも品質が安定しているとされています。また、収量に関しても5~10%多収とされており、精米歩留まりも高くなる傾向があります。
あきさかり
・育成:福井県農業試験場・熟期:晩生
・産地:福井県、広島県、徳島県など
福井県で育成された「あきさかり」は「コシヒカリ」の孫にあたる品種で、暑さに強く草丈が短いため、比較的栽培しやすい品種です。
人為的に高温ストレスを与えた試験では、白未熟粒発生率がコシヒカリの半分以下との論文もあり、高温に対する耐性があるといえます。
また、晩生のため、ある程度気温の上昇が落ち着いたタイミングで熟期を迎え、収穫適期を分散させることができることもこの品種を選ぶ利点となります。
こしいぶき
・育成:新潟県農業総合研究所作物研究センター・熟期:早生
・産地:新潟県など
新潟県では作付けがコシヒカリに集中していたため、作期を分散させる目的で品種改良が行われ、良食味かつ異常気象にも強い「こしいぶき」が誕生しました。
「ひとめぼれ」と「どまんなか」の交配により育成された、草丈の短くコシヒカリよりも約10日早く収穫できる品種です。
また、新潟県では全国平均と比べ、一等米の比率が高く推移している結果もあり、外観品質の安定したお米ができるといえます。
つや姫
・育成:山形県農業総合研究センター・熟期:晩生
・産地:山形県、島根県など
山形県で育成された「つや姫」は、短稈(たんかん:草丈が短いこと)で粒ぞろいが良く、大きさ(粒厚)が2mm以上の割合がコシヒカリよりも多いとの試験結果もあります。
名前の通りキラキラとした「ツヤ」が出やすい品種といわれ、外観品質が高い傾向にあります。また、寒冷地北中部のみならず温暖地西部においても高温登熟性が高いとの試験結果もあり、島根県や大分県での栽培も広まり、晩生の品種となるため、作期を分散させる意味合いで導入する産地もあります。
管理による高温障害の対策とポイント
ここからは技術的に高温障害と向き合っていくための対策やポイントをご紹介します。移植時期を遅らせる
最適な移植時期の選定には日射量や気温等の条件を十分に考慮する必要がありますが、移植時期を遅らせることで、最も懸念すべき梅雨明けの異常高温のリスクを避けることができます。また籾数を制御するとされ、高温への耐性を高める効果があるとのことで、導入を前向きに検討する産地が増えています。ただし、用水の管理など地域全体での対応が必要となるため、地域ぐるみで効果を検討することが大切です。
栽植密度の調整
過剰分げつや籾数過多、登熟期の活力不足を防ぐためには、株間を広げて植える疎植栽培が有効とされています。しかし、過剰な疎植は穂が大きくなり過ぎることで籾数過多となり、不稔や白未熟粒の発生を助長してしまうため、極端な疎植は避ける必要があります。地域毎に日射量・気温を考慮して適切な栽植密度(単位面積当たりの植え付け株数)を設定することが重要です。なお、北陸地方では18株/平方メートルを基準としている地域が多いようです。水管理の徹底
茎の数が増えていく分げつ期に深水管理を実施することで、無効分げつの発生を抑えることができ、籾数過多や白未熟粒の抑制につながります。また、出穂から開花の期間は地温を下げ、根の発達促進、水分吸収を促すために水を絶やさないように管理することが大切です。
特に夜間の高温が続く場合は稲の活力消耗につながるため、開花期以降にかけ流しの水管理をすることで地温を下げ、品質低下を減らすことができます。
また、異常高温が続いた場合は稲の活力が低下している可能性が高いため、早期の落水は避け、できる限り直前まで落水を遅らせることもポイントです。
施肥設計と土づくり
近年、食味向上を目的として窒素施肥量の削減が各地で行われていますが、籾殻の中で米の粒が成長する登熟期の窒素不足は、白未熟粒の発生を招くため、適切な穂肥の施用が重要となります。生育状況や土壌の状態を細かく確認し、状況に応じた施用量と時期を検討することが重要であり、緩効性肥料の活用も有効とされています。
また、圃場ごとの地力を検討したうえで、ケイ酸資材や堆肥の施用、稲わらの鋤き込みを実施し、土作りをしっかりと行うとともに深耕により根域を十分に確保し、根の生育促進を図ることも重要です。
そのほか、規模拡大による作業の遅れが高温障害の発生につながる可能性もあるため、熟期の異なる品種の導入により作業を分散し、適期作業を心がけることが大切です。