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【連載第1回】南阿蘇のコメ農家が世界に向けて発信!|農業なくして持続可能な社会なし


熊本で無農薬・減農薬の米を栽培をしている大津愛梨さんは、国連の機関や日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」などさまざまな賞を受賞しているすごい女性農家さん。日常の農作業や環境、家族の話を中心に、世界で注目を浴びる“SDGs”も絡めた連載は、農家さん必見です!

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大津 愛梨

慶応大学環境情報学部卒業後、夫と共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里の南阿蘇で農業後継者として就農、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培している。女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長、里山エナジー(株)の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。農業、農村の価値や魅力について発信を続ける4児の母。…続きを読む

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大津愛梨さん

提供:O2Farm
皆さんはじめまして、九州のほぼど真ん中、熊本県南阿蘇村という場所で米農家をしているO2Farm(オーツーファーム)のEriこと大津えりと申します。「農業者こそ“SDGs(持続可能な開発目標)”を達成するための立役者!」という視点で連載をスタートします。

最近よく耳にするけど「SDGsってそもそも何?」という方でも気軽に読んで頂けるよう、四季折々の農作業や出来事や暮らしの話と絡ませながら、月に一度のコラムを書いていきたいと思います。

大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」


海外生まれの東京育ち→南阿蘇で「農家の嫁」になりました

大津愛梨さんと家族
提供:O2Farm

夫婦でドイツの大学院へ

生まれたのはドイツ。ドイツと言えば「環境先進国」として世界でも有名です。1歳になる前に帰国してしまったので、ドイツ生まれだから環境に関心がある、というわけではないのですが、無関係なわけでもありません。最終的にはドイツの大学で学ぶことになったのは、「生まれ故郷のドイツに住んでみたい」という想いがあったからなので。
高校時代にはイギリスに1年留学。大学時代に一目惚れした「農家の跡取り」と卒業後に結婚し、夫婦でドイツの大学院に留学しました。そこで学んだランドスケープや持続可能な農村の発展、という視点が、今のO2Farmの基礎となっています。3年半をドイツで過ごし、2003年に帰国。その半年後に夫の郷里である南阿蘇村にて就農しました。

自分たちがやっていることの可能性

草刈りと子どもたち
提供:O2Farm
今年で18回目の米づくりに取り組み始める中で、これから農業をやりたい方とか、「農業も良さそうかも」と思ってくれる若者とか、はたまた「そっか、自分たちがやっていること(農業)はこんな意味や可能性があるんだ」と、気を新たにして頂ける先輩農家さんたちが1人でも増えてくれればという想いで、就農当初から情報発信を続けています。

環境保全型農業…実態は草との飽くなき戦いですけどね(笑)

稲穂を持つ子ども
提供:O2Farm

農業を続けること

農業者としては、特筆することはありません。強いて言えば、農薬を使わない、もしくは初期に1度だけ除草剤を微量つかう、という環境保全型農業をしていることと、最終的な目標が「農業で儲けること」ではなく「農業を続けること」であること。
続けていくには生業として成り立つ必要はありますが、いわゆる「こんなに稼げる農業!」という視点ではありません。続けていくことで阿蘇の風景を守っていくのが、私たち夫婦のライフワークだと思っています。これといった主義主張もありません。

無農薬・減農薬の稲作は先代が仲間たちと始めたもので、私たちは「後継者」として引き継いでいる次第です。できたお米は全てお客様に直接お届けしているうえ、半分以上が友人や知人なので、「お互いに顔の見える関係」を築けているのが幸せです。

草との戦い

草取り
提供:O2Farm
農薬を減らす、ないしは使わない、ということはつまり、田植えから稲刈りまで「草との戦い」。何かの罰ゲームかスクリーンセーバーなんじゃないかと思うほど、とり終わるとまた生えている、みたいな。アイガモやコイが雑草の生育を抑えるお手伝いはしてくれますが、「エリガモ」(つまり私)も負けじと草を取る日々が今年も待っています。

2019年からの10年は、国連の「家族農業の10年」

畑でじゃがいものを収穫する子どもたち
提供:O2Farm

「家族で農業」の幸せ

一人っ子だった私は「大家族」が昔からの夢で、おかげさまで4人の子宝を授かりました。自然豊かな場所でのびのびと子育てできることの幸せを実感しつつ、実は子どもたちも戦力としてあてにしている近年。都会育ちの私と違って、「感覚」が良いんです、彼ら。「リトルファーマーズ」と私が呼んでいる三男一女の活躍ぶりについてはまた改めて。

自分から仕留めて結ばれた人と、仕事も暮らしも共有していることの幸せ。一緒に過ごす時間が長い分、けんかもたくさんしますけどね。でも1人でやるのと2人でやるのでは、作業効率が倍以上も違うので、結果、仲良くやっています。年間数百人も来るお客様たちから口々に「すてきなところですね」と言っていただけることの幸せ。

阿蘇の田畑や山
提供:O2Farm
肉体的にはハードな農繁期でも、1日の終わりに田畑や山を見渡すと「生きている~」と実感します。特に疲れた日は温泉なんか入っちゃったりして。もちろん落ち込んだり悩んだりすることもありますが、生き方の選択肢として間違っていなかったという絶対的な自信を持っていられるのが、何よりの幸せだと思っています。

就農して改めて思う「農業なくして持続可能な社会なし」

阿蘇の風景と牛2匹
提供:O2Farm
異常気象や国際紛争で地球全体がピリピリしていますが、どんな状況でも生きていく限りは食べないといけません。ましてや世界人口は今後、爆発的に増えると予測されています。増えた人口をどう養っていくのか。人口が減り始めている日本では実感しにくいですが、世界は食糧戦争が起こりかねない時代に突入します。
そんな中、「食べるものを作るだけでなく、できるだけ環境に負荷をかけずに生産する」という農業者の存在がなければ、持続可能な(つまり子や孫やひ孫まで続く)社会なんて実現するはずがありませんよね。

こぼれ話

就農のきっかけは「じいちゃんの一言」

付き合って間もないときに、彼の実家である熊本まで青春18きっぷでやって来たところ、気の早い「じいちゃん」がいきなり「オイ、お前は百姓の嫁になるのか」と聞いてきました。あまりの勢いと突然の問いに、思わず「ハイッ」と即答してしまったのでした。
あれから既に四半世紀が過ぎました。義祖父は10年以上前に他界しましたが、彼が存命の間に私たちは約束通り就農を果たし、ひ孫(しかも跡取りとなる男の双子!)を見せることができ、きっと安心してこの世を去ったに違いありません。

ドイツの大学

ドイツの風景
提供:O2Farm
ちなみにドイツの大学や大学院は授業料がタダ。年に何万円か、生協費のようなものが徴収されるだけです。私たちが在籍していたドイツ南部のバイエルン州にあるミュンヘン工科大学(工科大学というよりも農工大学に近い)は、なんとなく九州と雰囲気や立ち位置が似ていて、都会育ちだった私にとって、南ドイツで暮らしたことで(つまり一度ソトに出たことで)、むしろ農業や農村暮らしに違和感なく入り込むことができたように思っています。
「一度は海外で暮らしてみたい」と思っていた夫の希望も叶い、前出の義祖父は「海外なんぞに行って、もう戻って来んばい」と諦めていたそうですが、「かわいい子(孫)には旅をさせよ」ってやつですね。農業をはじめると長期で家をあけにくいので、就農前の海外生活、おすすめです~。

週間連載のコラムも掲載中!

【週間連載】家族経営農家の日常を配信「ハッピーファミリーファーマー日記」
【毎月更新!】月間連載アーカイブ「農業なくして持続可能な社会なし」

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