米農家がお米をJAなどに出荷するまでの流れについて、また等級が落ちてしまうこともある「籾すり」の注意点を、米農家に勤務する筆者が、米作り初心者にもわかりやすく解説します。出荷までの作業が楽になる「フレコン出荷」についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
米を出荷する流れ
コンバインでの収穫で刈り取った籾は、水分値15.0%を目安に乾燥機で調整しています。この適正水分値に調整されたお米を出荷するために、専用の機械で籾を取り除く作業を行います。乾燥作業の終わった籾は専用の枡に保管してあるので、搬送機を使って籾すり機まで運びます。出荷に使用するパレットは自動計量選別機の隣にセットしておきましょう。
▼コンバイン収穫後の乾燥のことならこちらをご覧ください。
1. 籾すり
籾すり機で籾を取り除く作業を行います。このとき、玄米の表面が白く傷ついて(肌ずれ)品質が落ちてしまわないように注意しましょう。籾の混入に注意!
籾すり機のスピードを上げてしまうと、玄米に籾が混入することがあります。一等米の品質でも、玄米の中に籾が混入する割合が多ければ二等米になってしまいます。作業を早く終わらせたいからといって雑に作業することのないように気を付けましょう。
ジェット式籾すり機 MR205J-G
作業音が静かなことも特徴です。
・サイズ:1,190×826×1,570mm
・重量:155kg
・能率:6~10俵/h
2. 選別
自動計量選別機で籾すり後の玄米の選別作業を行います。籾の表面が取り除かれると玄米の状態になりますが、すべての玄米が出荷できるわけではありません。選別作業では一定の大きさに満たない玄米は取り除かれます。※一定の大きさに満たない玄米を「くず米」と呼びます。
3. 袋詰め作業
自動計量選別機にセットしておいた袋に玄米が排出されます。規定の重さ(30.5kg)になると音で知らせてくれます。音が鳴ったら玄米の入った袋を取り外して、ひもを結んで荷造りは完了です。注意!
自動計量選別機にきちんと袋をセットしていないと、途中で袋が外れてしまうことがあります。玄米が散らばってしまうと片付けに手間がかかるので注意しましょう。
規定重量を下回るとNG
お米を出荷する際は1袋30.5kgと決められています。これは袋自体の重さと玄米が検査されるときに「刺し米」といってサンプルが抜かれる分を含んでいるためです。重さが規定値を下回ってしまうと不足している分を詰め直す必要があります。出荷数が多いほど詰め直し作業は大変です。籾すり作業を行う際は自動計量選別機の秤が正確かどうかを確認しましょう。乾燥して重量が軽くなることも!?
荷造り後、出荷までに日数があいてしまうと乾燥して重量が軽くなってしまうことがあります。その場合、やや量を多めに袋詰めすることで、重さが既定値を下回ることはなくなりますが、基本的には出荷までに日数があいてしまうことのないように注意しましょう。
▼米袋のことならこちらもご覧ください。
4. パレットに積む
自動計量選別機の隣にセットしておいたパレットに、荷造りの終わった袋を1つずつ積み上げます。▼パレットのことならこちらをご覧ください。
注意!
中身が30.5kgも入った袋を何度も積む作業は重労働です。腰や背中を痛めないように十分注意します。体への負担を軽減するコルセットやパワードスーツなどの使用もおすすめです。
5. 出荷
パレット1枚あたりに積み上げる数は市町村によっても違いますが、私の勤めている農家さんの地域では1パレット42袋です。決められた期日までに必要な数を準備し出荷となります。米トレーサビリティ法
玄米を詰める袋には品種と生産者の氏名を記入する欄があります。あらかじめ品種名や氏名のハンコを作っておくと、袋の数が数百枚や千枚以上と多くても楽に記載できます。品種名や氏名の記入は籾すり作業の前に!
籾の混入がないか、肌ずれになっていないかなど注意しながら籾すり作業を行うので、品種名や氏名の記入は籾すり作業の前に済ませておきましょう。
3つの取り組み
お米を出荷する際には、「米トレーサビリティ法」で取引などの記録の作成・保存や産地の伝達が義務付けられています。これは、対象品目に問題が発生した場合、流通ルートを素早く特定することが目的で、生産者はこの米トレーサビリティ法によって次の3つに取り組む必要があります。1. お米を出荷する際の伝票の受領・発行
まずは対象となるお米の品目について確認しましょう。米トレーサビリティ法の対象品目
・もみ、玄米、精米、砕米(さいまい)、種もみ、ふるい下米
・米粉、米こうじなど
・ご飯、炊き込みご飯、おにぎりなど
・もち、団子、米菓子など
2. 3年間の記録保存
伝票などを保存していなかった場合には、罰則規定(50万以下の罰金)が適用になってしまうので要注意です。伝票の記載内容
・品名
・産地(「国産」「〇〇国産」「〇〇県産」など)
・数量
・年月日(搬出入日、受発注日など)
・取引先名
・搬出入した場所
・用途
3. 産地の伝達
事業所間や消費者に対して産地情報を伝達していない場合にも、罰則規定(50万以下の罰金)が適用になります。産地情報の伝達
・事業者間では納品書や仕様書、規格書などの伝票
・一般消費者には商品の包装、米穀については食品表示法の食品表示基準に従った記載
負担を軽減するフレコン出荷
「フレコン」とはフレコンバッグの略称で大容量のバッグのこと。「フレコン出荷」とは、籾すりの終わった玄米を専用の機械を使って大容量のフレコンバッグに入れて出荷する方法です。30.5kgの袋を何度も持ち運ぶ作業は、体に大きな負担がかかります。負担軽減を可能にする「フレコン出荷」に注目してみましょう。
フレコン出荷のメリット
袋詰めして出荷する場合に比べて、作業上でどんなメリットがあるのか紹介します。作業負担の削減
こまめな袋詰め作業が不要なので、年齢を重ねて袋詰め作業が辛くなってきたという方にとって、とても便利な方法です。筆者の勤務先の農家さんでは1パレットに42袋積みますが、非常に疲れます。一つひとつ袋詰めしている農家さんは、若い世代だとしても同じ感想を持つのではないでしょうか。
時短
フレコンバッグに玄米を貯めている間は、始終機械の側についている必要がないので、今まで袋詰め作業をしていた時間をほかの作業にあてることができます。規模の大きい農家さんほど導入したくなるのもうなずけます。フレコン出荷のデメリット
「フレコンバッグスケールシステム」や「フレコンメイト」と呼ばれる機械を購入しますが、機械そのものに高さがあるため、作業小屋自体にも高さが必要になってきます。作業小屋に2階が設置されている場合などは導入が難しく、作業小屋を新築するなど機械の購入以外にもさらに費用がかかってしまいます。このようにフレコン出荷は、新たな機械や設備投資が必要なので、主に大規模農家さん向きといえるでしょう。
収穫の喜びを感じながら出荷作業に取り組もう
連日お米を出荷するまでの作業を進めていると、例年よりも収穫量は増えたのか?それとも減ったのか?徐々にわかってきます。最終的に今シーズンどのくらいのお米が獲れたのかがリアルにわかるので、収穫の達成感がより感じられます。収穫の秋は食欲の秋でもあるので、おいしい新米を食べながら今シーズンの米作りを振りかえってみてください。