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- AGRI PICK 編集部
AGRI PICKの運営・編集スタッフ。農業者や家庭菜園・ガーデニングを楽しむ方に向けて、栽培のコツや便利な農作業グッズなどのお役立ち情報を配信しています。これから農業を始めたい・学びたい方に向けた、栽培の基礎知識や、農業の求人・就農に関する情報も。…続きを読む
農業を志す人が知っておきたい、就農後の現実やサクセスストーリー。実際に農家に転身した人へのインタビューから、就農後のリアルを鮮やかにお伝えします。
今回は、山梨県南アルプス市で、キュウリとトウモロコシを栽培している片山京子さんにお話を伺いました。
| 農園名/所在地 | ふるふぁーむ/山梨県南アルプス市南湖 |
| 栽培面積 | 26a |
| 栽培品目 | キュウリ、トウモロコシ |
| 販路 | JA |
| 家族構成 | 夫、子ども2人 |
| 従業員数 | なし |
| 就農時の年齢 | 38歳 |
就農前|システム会社でSEをはじめ幅広く活躍
片山さんは、IT全盛期の1999年に損害保険会社系列のシステム会社に就職しました。システム開発業務のほか、採用や人材育成、ダイバーシティ推進などにも携わり、とても楽しく、熱心に働いていたと言います。しかし、30歳を過ぎ、会社で働き続けた先の未来像が見えてくるようになると、改めて自分の人生を考えてみたいと思うように。思い切って退職し、都心に住みながら、山梨県で果樹園をしていた母方の祖父母を手伝う二拠点生活を始めました。
農業の世界で感じた課題
農業の世界に足を踏み入れてみると、ITの世界に比べて、人手の少なさや課題の多さを感じました。

山梨県の農産物のおいしさを届けたい
片山さんが農業を志したもう一つの理由は、山梨県の農産物のおいしさが都心にはしっかりと届いておらず、知っている人が少ないと感じたことでした。

背中を押してくれる人の声を聞く
夫の古川翔太さんは、片山さんの「農業をやりたい」という想いに気づいていました。ITコンサルタントとしてキャリアを重ねていましたが、片山さんとともに農業の手伝いを続けるうちに、翔太さん自身も山梨での暮らしや農業を試したいという気持ちが生まれ、家族で移住して農業をすることを決意します。
二人の決断に対して、農家出身である片山さんの母は農家がいかに大変かということを話して聞かせました。一方、都会育ちの翔太さんの両親は賛成してくれたと言います。

就農前から持っていた経営戦略
就農フェア・JAなどに足を運び情報収集・SNSの活用も
片山さん夫妻は、就農フェアやJA、市役所、市民活動センターなどに行き、就農や暮らしに関する情報を集めました。就農フェアでは県の職員と話して、農業に関する一通りのことを知ることができたと言います。JAのアドバイスもあり、夫の翔太さんは職業訓練として9カ月間農業大学校に通うことにしました。また、SNSなどを通して、同世代の人とつながっていきました。

施設栽培で収益を上げることに決定、土地を借りる
果樹は安定的に収益を上げられるようになるまで時間が必要なため、リスクが高いと考えた片山さん夫妻。天候に左右されることが少なく、収入が安定しやすい施設栽培で収益を上げているケースを参考に、野菜を栽培することに決め、まずは、慣行栽培でしっかり稼げるようになることを最初の目標にしました。

栽培品目を野菜と決めると、就農場所もある程度定まります。農業大学校の研修で行った農家とJAの計らいもあり、地域の信用も得て、半年後には中間管理機構を通じて土地を借りることができました。
生活レベルは落とさないように
具体的な栽培品目は、県の経営指標を参考にJA指導員や県の農業技術課とも相談して決めました。夫婦ともに企業で働いていた片山さん夫妻にとって、就農することで収入が下がることは想定済みでしたが、生活レベルは落とさないようにしようと心がけたと言います。

青年等就農資金や農業次世代人材投資資金・経営開始型などの補助金も利用。収入に関する計画をしっかりと立てたことや都心で住んでいたときより物価が安いこともあり、就農後も以前と同じような生活を送ることができています。
1年目に苦労したこと|生活リズム、身体の使い方、栽培
生活リズムや環境の大きな変化
就農してから、大変だったのが生活リズムや作業環境に慣れることでした。農業は朝早いことが多く、季節によって忙しさが違います。作物の収穫があるときは朝早くから仕事があり、収穫がないときは何時に仕事を始めてもいいのですが、それに慣れてしまうと、収穫があるときが辛く感じることもありました。また、就農前はずっとオフィスで座って仕事をしていた片山さんにとって、環境は大きく変わりました。

でも、かえって風邪をひかなくなったと片山さんは笑います。あるとき、片山さんの畑に手伝いに訪れた50代の知人が簡単に肥料袋を持ち上げるのを見て、身体を鍛えれば年齢に関係なく重いものも持てるようになると気づき、自宅で体幹トレーニングを実施。今では、20kgのものも持てるようになりました。
植物の生育速度や土地ごとの特徴
栽培面でも驚くことがたくさんありました。植物は天気や気温で生育の速度が違うということ。気づかないうちに作物が伸び過ぎてしまったり、雑草が伸びてきたりします。そのうち、周りの農家が一斉に草刈りをするタイミングがあることに気づき、だんだんと植物のリズムをつかんでいきました。また、土地ごとの微妙な差が植物に影響を与えることにも気づきました。

農業大学校や研修先で学んでも、自分が栽培する実際の土地の特徴は同じではありません。就農後、1~2年目は様子を見ながら栽培し、新しい土地を借りるときもしっかり考えて、その都度土地にあった栽培をしていく必要があるのでしょう。
データ管理や人とのつながりで栽培技術を向上させる
温度、湿度などのデータを把握し、分析する
現在、片山さんは栽培方法にさまざまな工夫をしています。その一つがデータ管理。翔太さんがインターネットで見つけた「NETATMOウェザーステーション」という機器を活用して、温度・湿度などのデータを把握し、Excelで作業工程の予実管理をしています。

ITを駆使して行うデータ分析には、前職の経験が大いに役立ちました。
農業者のネットワークに支えられて
また、栽培方法などで困ったことが起きたときには、研修先の農家さん、JAや県の技術指導員、同じ地域の諸先輩方、農業大学校の先生などに相談しています。

やまなし農業女子プロジェクトの代表に就任
女性キャリア教育を地域に還元
就農2年目の2019年、片山さんは山梨県が主催した女性農業者研修に参加しました。研修がきっかけとなり、農林水産省が推進する「農業女子プロジェクト」の地域グループとして、「やまなし農業女子プロジェクト」の立ち上げに携わり、代表になりました。

多彩なやまなし農業女子の活動
やまなし農業女子は、メンバー一人ひとりの「知りたい」「やってみたい」の実践の場。マルシェやオンラインもぎ取り体験などのイベントを行ったり、定例会では悩みを共有してアドバイスし合ったりしています。先輩農家の栽培方法や加工を視察に行ったり、作物の病気が広がったときにはSNSで情報を交換したりすることもあります。

農業女子プロジェクトには、全国に地域グループが存在します。今後、ほかの地域の農業女子とも一緒に活動したいという希望もあります。
農業者として、地域の一員として地域課題に貢献したい
地域に根付き、次の担い手の道しるべに
片山さんは、地域に根付いて農業経営を安定させ、新規就農する人や子どもたちなど、農業の次の担い手の道しるべとなることを目標としています。失敗しても諦めるのではなく、立て直す方法を考え、着実に目に見える形でステップアップしていくつもりです。

地域の課題に向き合っていきたい
また、地域の一員として、女性活躍、子どもの教育、高齢化、荒廃農地などの課題へのアプローチの仕方についても考えています。

都会とつながり、みんなの田舎になりたい
片山さんは、今後、移住就農を相談できるカフェや農泊、農業体験などを運営してみたいと思っています。

農業は食と命を支えるインフラであるにもかかわらず、農業者人口は少なくなり、都会にいれば農業に支えられていることすら忘れて生活を送ってしまう…そんな状況を変えようと、片山さんは自分のできることから行動を始めています。農業を選択し、行動を重ねていることは、確かに自分で選んだ人生を歩んでいるというという納得感を片山さんにもたらしています。

生活を大切にしながら、少しずつステップアップを
都会での会社員時代には、ハードワーカーだった片山さん夫妻。深夜にタクシーで帰宅し、朝一番の電車に乗って会社に行き、週末も夫婦で仕事の話をすることもあったといいます。今は、朝焼けの中仕事を始め、自然と山と空と向き合い、夕暮れには仕事を終える生活を新鮮に感じています。規模を拡大して二人でフル稼働したり、人を雇用すればもっと稼げるかもしれませんが、今の段階では、子どもとの生活を大切にして、少しずつステップアップしていくつもりです。
人生の中で、自分で下した大きな決断が農業への挑戦だった片山さん。IT業界で培った経験を活かして、栽培を軌道にのせるとともに、短い期間で地域からの信頼を得て、ネットワークを広げています。そして、就農する前からあった「次の担い手」へのまなざしと地域へ貢献する気持ちは、今後も揺らぐことはないでしょう。これからも歩み続ける片山さんは、農業を志す人にとってロールモデルの一人となるに違いありません。
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