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代表取締役 CEOの岩佐大輝(いわさひろき)さんはIT企業経営者の経歴をもち、農業とIT技術の融合による作業の効率化、さらに農業法人の経営にも抜群の手腕を発揮。設立から10年で着実に規模を拡大してきました。カリスマ経営者 岩佐さんに、順調な成長の基盤である堅実な経営ノウハウについて聞きました。
岩佐大輝さんプロフィール
1977年、宮城県亘理郡山元町生まれ。株式会社GRA 代表取締役CEO。
大学在学中、24歳でITベンチャーを起業する。東日本大震災後に地域活性化を目的としてイチゴ栽培を主力とする株式会社GRA創設。代表取締役CEOを務める。
著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)
ホームページ:株式会社GRA
個人WEBサイト:岩佐大輝.COM
震災被害を受けた故郷の地域復興を願い農業に参入。規模拡大で雇用を創出
株式会社GRAは、現在100名以上の従業員を抱える農業生産法人です。IT技術などのテクノロジーを最大限に活用し、最先端の農業経営を推進する新進気鋭のリーディングカンパニーです。そんなGRAも、創成期は小さな規模からのスタートでした。1年目は手探り状態。できることから始めた
震災直後の2011年に被災地ボランティアからスタートし、2012年に株式会社を設立して農業を始めた創業メンバーは、岩佐さんと地元の同級生の橋元洋平さん(写真左)、イチゴ栽培歴40年のベテラン農家 橋元忠嗣(ただつぐ)さんの3人。イチゴを選んだのは、地元の基幹産業であり地域の人たちが誇りに思うイチゴで、震災復興を後押ししたいという思いからでした。ゼロからの新規就農で、小さな土地にパイプハウスを建て、自ら井戸を掘ってイチゴ栽培をスタートさせました。
2年目以降はチャンスがあれば規模を拡大
農業経営は初めてだったという岩佐さん。大学在学中からITベンチャー企業を設立しており、その経営センスはイチゴ農園にも存分に発揮されています。2年目からの規模拡大の様子やスピード感はどのようなものだったのでしょうか。こう言うと急激に拡大していったように聞こえるかもしれませんが、コツコツと地道にやってきた結果、今があります。
「ミガキイチゴ」の地域まるごとブランディング戦略
GRAで栽培しているイチゴは「ハナミガキ」「とちおとめ」「よつぼし」の3品種です。完熟になるまでじっくりと育て、プラチナ、ゴールド、シルバー、レギュラーにランク分けされ、ミガキイチゴとして販売されています。1粒1,000円のミガキイチゴってどんなイチゴ?
ミガキイチゴが広く知られるきっかけともなった、1粒1,000円の値段がつけられるものは大粒のプラチナ限定。通常、イチゴ1株から収穫できる約50粒のうち、プラチナランクのものは1粒程度しかありません。突き抜けた「甘ずっぱさ」をもつミガキイチゴのなかでも、特別な存在感をもつイチゴです。六次産業化やイチゴ狩りが体験できるICHIGO WORLDを運営
1粒1,000円のミガキイチゴは百貨店などの一部店舗での限定販売です。そのほかはB to Bの卸販売、自社のスイーツ事業やお酒・化粧品などの加工品、イチゴ狩りビジネスなど、さまざまな販路がバランスよく成り立っています。農業とIT技術の融合|「人」がコントロールするから意味がある
GRAの農業経営の特長のひとつに「農業とIT技術の融合」があります。2012〜2017年まで、大規模施設園芸実証研究施設での復興庁・農林水産省とのプロジェクト研究により、さまざまな技術を実証研究してきました。プロジェクト終了後も栽培に関する独自の研究を続けています。GRAで実証研究している技術の一例
・クラウン部温度制御による作期拡大、高収量化および燃料費削減
・総合的病害虫管理(IPM)技術を用いた病害虫管理
・移動ベンチおよび自動収穫ロボによるイチゴ密植移動栽培システムの研究開発
・自律分散型ユビキタス環境制御システム(UECS)の構築
・養液循環によるコスト削減と環境負荷軽減発
・LED補光による高収量、高品質化
農業×テクノロジー、情報の判断は「人」がする
高設養液栽培による生産を行っているGRAでは、栽培圃場(ほじょう)に自動環境制御装置、暖房、CO2発生装置、クラウン冷却、細霧冷房、循環扇などの設備を導入しています。あらゆるデータを集めて数値化し、多角的かつ詳細な分析データをもとにチームで意思決定を行っているのも特長のひとつです。とはいえ、現時点ではテクノロジーだけでイチゴを栽培することはできません。
技術や機材の新旧ではなく、得た情報をどう生かすのかが重要
最新鋭の技術の導入にはそれなりに資金も必要になり、経営規模によっては使える資金に制約があるという場合もあります。GRAのように大規模な設備投資をしなくても、手ごろな価格で導入できるIT技術を活用することは可能です。規模拡大へのステップ。栽培面積を広げるときに考えるべきこと
岩佐さんは「農業は、絶対的に時間がかかる産業であり、一般的な資本市場におけるお金やもののルールとは相反するものがある」といいます。たとえば、インターネットビジネスで1億円かけて何かのサービスを構築したら、翌年何億円分の顧客を獲得して利益を得ることも不可能ではないかもしれません。「1」投資したものが10倍になり100倍になっていくこともありえます。
農業ビジネスでは、それほどの早い展開を期待できません。植物の生長スピートに応じてビジネスも成長していくという特性があります。
それぞれの作物には最小最適規模が存在し、規模に応じた農業経営体を作ることが重要だといいます。最小最適規模は経営方針によっても異なるので、物理的な規模感を見極めていく必要があります。
「規模を拡大すればうまくいく」は幻想?
経営が安定してきたら、次のステップとして事業規模の拡大を考える機会も増えていきます。そんなときは、「中途半端にやってはいけない」と岩佐さんは断言します。思い切った規模拡大をしたほうが、経営効率はよくなるのでしょうか。
そうなると、なかなか後戻りはできない状況に陥りますから、自身の経営規模や目指す方向性を見極めながら、最適規模で拡大していく必要があります。
イチゴ栽培で面積拡大を考えるなら、30〜40aをワンリミットに
栽培面積を拡大しても、利益につながらないようでは経営が行き詰まる危険もあります。どの程度の規模感で展開していくのが理想的なのでしょうか。設備投資の考え方|P/Lに関する貢献度が高いものを選ぶ
事業拡大を考え、設備投資が必要になったときにはP/L(Profit and Loss statement)への貢献度を意識することが重要だといいます。P/Lとは一定期間の損益計算書で、収益から費用を差し引いた純利益を表す経営成績です。「作業が楽になるから」「効率がよくなるから」という視点の先に、コスト的にどう変わるのか、売上がどのくらい増えるのか、その結果P/Lのボトムに残る営業利益がどれだけ増えるのか。数字に意識を向け「経営成績に対して貢献度が高いものに投資を行う」ことは、経営の大きな判断基準になります。
利益を生み出すことは顧客に対する価値を作り出すこと
農業とIT技術の融合、最適規模の設備投資による事業拡大、自社商品ブランドの確立など、GRAの事業戦略は、この10年で大きな成果を上げています。より安定的に農業経営を続けていくために、岩佐さんが大切にしていることがあります。経営がうまくいかない理由は非常にシンプル
売上が伸び悩んでいたり、なかなか収益が上がらない、というときには明らかな理由があるといいます。「商品自体の品質がよくない」「生産コストがかかりすぎている」「販売価格・販売方法・販売場所が適切ではない」などの原因を把握し、分析して改善する努力も必要です。
利益は顧客に対する「価値の尺度」
顧客にとって「新しい価値」を提供できれば、利益を得ることができる、という岩佐さん。GRAが提供しているラグジュアリーな1粒1,000円のミガキイチゴや、広大な空間でのイチゴ狩り体験なども、まさに新しい価値の創造です。
「農業の新しい価値」を提供し続ける農業経営体を目指そう
先端施設園芸による栽培、農業とIT技術の融合など、農業の最先端をいくGRA。設立から10年が経ち、地域で100名以上の雇用を創出し、イチゴ狩りに年間5万人以上が山元町を訪れるようになりました。設立当初に目指していた地域の復興支援のために精力的に活動を続けた結果、目に見える形での貢献ができているという自負もある岩佐さん。今後は新規就農支援事業の強化や海外事業のさらなる拡大など、未来を見据えた事業構想も進行中です。