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成功者に学ぶ農業ビジネス【第3回】業務用米ビジネスのパイオニアからメガファームへの軌跡

新規独立就農から困難を乗り越えビジネスとしての成功をつかみ取った農業経営者の声とその道のりをお伝えする連載「成功者に学ぶ農業ビジネス」。第3回の今回は、穂海グループ代表の丸田洋さんにお話を伺いました。


新規就農者の中でも非農家出身者による新規独立就農は農地取得や開業資金、栽培技術など多くの課題があり、成功へのハードルをクリアするのは簡単ではありません。本シリーズでは新規独立就農から困難を乗り越えビジネスとしての成功をつかみ取った農業経営者の声とその道のりをお伝えしていきます。

今回お話を伺ったのは、業務用米ビジネス、他県農場との広域連携、ICT技術の共同開発等、次代を見据えたイノベーションを次々に仕掛けている丸田洋さんです。

有限会社穂海農耕/株式会社穂海/株式会社穂海耕研
代表取締役 丸田 洋さん(47歳)

丸田社長②
撮影:横山ナヲト
新潟県上越市出身。東北大学工学部機械航空工学科卒業、株式会社新潟鐵工所、スキー場勤務などを経て就農、2005年に有限会社穂海(現・有限会社穂海農耕)を設立。行政やJAとの接点もない経営環境から、GAPを足がかりに頭角を現し、業務用米のビジネスモデルを確立するなど、日本の水稲業界において比類なき存在感を示しています。

【会社概要(穂海農耕)】
■設立:2005年
■事業内容:水稲の栽培および作業受託
■経営面積:約170ha
■従業員:19名
■売上:1億5,000万円(2020年)
■Webサイト:https://houmi.jp/

Uターンをきっかけに、やりたかったスキーの道へ

収穫作業
撮影:横山ナヲト
― 新規独立参入の方は地元以外の場所で就農するケースが多く見受けられますが、丸田さんが地元の上越市で就農した理由とは?

丸田:実家の都合で地元に戻ったことがまず一番の理由です。そして、せっかく地元に戻るのであれば、大好きなスキーを思い切ってやろうと思い、スキー場に就職し、雪崩管理の業務をするようになりました。スキー場で働くうちに、周辺の山へも登って滑りたいと思う様になりバックカントリーガイドを始めたのですが、ガイドは冬しか仕事がありません…
そのため、夏の仕事を考えている時に、スキー場で働いていたときの知り合いが新規就農で農業をやっており一緒にやらないかと声をかけてもらったので、米づくりを手伝うようになりました。そして、その翌年の冬に独立して就農。有限会社穂海(現・有限会社穂海農耕)を設立しました。

― とくに地元というところに深い意味はなかった。

丸田:あまり考えていないですね。それに同じ上越市内でも僕の出身地は高田で、ここ(板倉区)まで車で30分くらいかかるところなんです。だから、広域でいうと地元ですね。ただ、板倉区の方から見ればよそ者になるかもしれません。

― 「スキーやりたい」と法人設立がセットというのがすごいですね。

丸田:同級生が地元で税理士をやっていて、個人がいいか法人がいいか相談したら「会社の方が信用度が高いし、お金も調達しやすい」と助言があって、「わかった!じゃあ会社にするわ!」というノリでした。

― そういう地元ならではのメリットはありますよね。

丸田:「出た!丸田人脈」という言われ方をされることがあって、初めて気づかされました。ほかにも中学の同級生が何人も地元で経営者になっていて、今ではそういうつながりがめちゃめちゃ生きてきています。

県ともJAとも接点なし、就農の条件は販路開拓と法人化

スマートライスセンター
撮影:横山ナヲト
― 農地はどうされましたか?土地利用型での新規独立就農は、そこが一番のハードルだと思いますが。

丸田:就農前に手伝いに行っていた先の方も新規独立就農だったのですが、晴耕雨読の生活がしたくて農業を始めたのに思いの外に農地が集まって手に余るからと、約6haを譲渡してくれたんです。

― 役所の手続きなどは?

丸田:板倉区役所に行って「就農するにはどうすればいいか」と相談したら、就農したい理由書みたいなものの提出を求められ、後日面接となりました。その面接が車座になって20人程の農業委員の方々に囲まれてさまざまな質問をされました。

― 儀式みたいなものですね。

丸田:その場で農業委員会の会長さんから就農するには条件が二つあると言われました。一つは自分で販路を見つけること。もう一つは個人でやっていても大きくならないから法人化すること。

― その条件ってまさにその後の穂海の方向性をそのまま示唆していますね。

丸田:結果的にそうなりますが、当時の僕はJAが米を買ってくれることすら知らなかった。初めの2~3年は県との接点もなかったから、新規就農のための補助金ももらっていないんです。

― 資金調達はどうしましたか?

丸田:ちょうど父が定年退職したときで、これはちょうどいいと思って退職金を一部借りて、それを元手に会社を回しました。

― 米は売れましたか?

丸田:県ともJAとも接点がまったくないのに米を売らなきゃいけない。1年目、収穫はできたけれど、倉庫に積み上げられた米を見上げて「これが売れなかったらどうなるんだろう?」って頭を抱えていました。

GAP指導のコンサルタントを足がかりに頭角を現す

GAPの実践
撮影:横山ナヲト
― 前途多難な船出ですね。何か事態を好転させるきっかけはありましたか?

丸田:GAPです。就農1年目からGAPに取り組んでいます。第1回の日本GAP協会の指導員基礎研修に参加し、GAPのいろはを学んだ後、JGAPの団体認証を国内で初めて取得しました。
また日本GAP協会との接点もできたためか、農水省からの講演にも呼んで頂きました。その際に、農水省から県へ照会があったようなんです。しかし、県と接点のない僕のことはもちろんご存じないわけです。そのため、当時の課長さんがいらっしゃって、「GAPってどうなのか?」という話になり、「もっとGAPを普及したいからコンサルをやれ」と言われて、そこからコンサルをすることとなりました。

― JGAP指導員としてのコンサルで人脈を広げていったんですよね。

丸田:人脈ももちろんそうですし、GAPのコンサルをするのと同時に自分が学ぶ機会でもありました。行く先行く先、立派な先輩農家のところばかり。本来ならこちらが視察料を払うべきところで勉強させてもらいました。

― GAPを足がかりに頭角を現すようになったころには「ライスメジャー」を掲げていましたね。

丸田:どうせやるなら大きいことが好きなので。当初は10年で100haという目標があって、だったら「穀物メジャー」に倣ってライスメジャーって言い方が格好いいかなって。今は恐れ多くてそんなこと言えません。

― 今は言っていないのですか?10年で100haの目標は達成できたじゃないですか。

丸田:あのころと違って丸くなってきちゃったので。でも、将来は穂海農耕単体で1,000ha、グループ全体で日本の水田のうちの1%にあたる2万haという壮大な目標を掲げています。

おいしさで勝負するのは難しい、だったら違う土俵で勝負すればいい

丸田社長
撮影:横山ナヲト
― 業務用米に特化したのはいつから?

丸田:2013年ごろまではまだ面積が40haくらいで半分はコシヒカリでした。

― 業務用米にシフトするきっかけは?

丸田:9月半ばからずっと雨が続いてコシヒカリがべたべたに倒れてしまった年に、20haを刈るのに3週間近くかかってしまった。一方でみずほの輝き(低コスト業務用に育成された晩生品種)を20~30haくらいつくっていたのですが、こちらは1週間で刈れちゃった。

― 効率に着目したのですね。

丸田:コシヒカリをつくるよりも、1俵の値段は安くても倒伏せずに収量で稼ぎ10aの売上がそこそこの品種をつくった方が面積もこなせるし、稼げるんじゃないかと考えました。自社の通販サイトもコストばかりかかって知り合いくらいにしか売れないからやめよう。業務用米だったら買ってくれる人がいるから、そちらを増やしていこう。いっそのこと業務用専業ってところまで行っちゃえという流れです。

― 食味にばかり注目が集まる米業界にあって異彩を放っていましたよね。

丸田:おいしいもので勝負するのはすごく難しい。しかも僕らは新規就農だし、そこで勝負するには実力も不足している。だったら違う土俵で勝負すればいい。品種にこだわりをもたず、求められたものをつくって、求められた量を定期的に納品する。安全安心を担保して原料供給メーカーに徹する。そういうことを言っていると、それなりに説得力をもつようになってきます。

― 穂海がつくったビジネスモデルとして認知されています。

丸田:僕らには自分たちがつくった米を自分たちの商品として売りたいという欲がなかった。むしろ縁の下の力持ちを目指しました。みんな知らないうちに穂海の米を食べている。他産業でいえばファナックとか日本電産とか、パソコンかスマホを持っていたら誰もが使っているのに一般の人は知らない。そういうのが渋いなって思います。

コンサル会社を立ち上げて自社のノウハウを提供

RICE FACTORY
撮影:横山ナヲト
― マネジメントと営業に専念する丸田さんの経営者スタイルを倣う人は今後増えていきそうに感じています。

丸田: 社長って最終決定権者なので、みんなと一緒に現場に出てあれこれ言うと、みんな僕の顔色を見てしまう。そうすると人が育たない。「何でそういうやり方をするのかな?もっといいやり方があるのにな!」と従業員さんが思っても、その思考を押さえ込んでしまう。そうならないために現場で働く人と距離をとることが、会社の成長につながっていくと思います。

― 人材育成に関しては定評がありますよね。

丸田:人材はある程度育ってきています。スキルマップというものもできています。今200haを目前にして、この面積を耕作するのに適正な人員は何人なのか? 一人ひとりが効率的に動けているのか?という課題に直面しています。そこで2021年10月1日にコンサルに特化した会社(株式会社穂海耕研)を立ち上げて、コンサルタント業務と並行して自社の仕組みを再構築していくことにしました。

― また新しい仕掛けですね。

丸田:100ha、200haと経営規模が大きくなるごとに、それぞれ異なった課題にぶち当たる。これからメガファームがどんどん増えていきますが、水稲業界全体を見渡すとまだ受け皿としての採用ノウハウや定着のシステムができていません。そのような生産者の方にとって僕らはいつか来た道。ノウハウを提供できるのではないかと思っています。そうやって受け皿が大きくなっていけば、水稲に有能な人材が入ってくる。僕らもその恩恵にあずかることができると思っています。

― 丸田さんにとって農業に取り組む意味とは何ですか?

丸田:自分だけがもうけようとすることはナンセンスだと思います。自分だけ良ければいいという考えだと、とくに土地利用型農業は成り立たない。そこは経営者として重要な視点だと思います。地域の農地には公的財産の役割が必ずあるから、その意識がないと続かない。僕はよく「穂海っていうのは公器であるべきだ」と言っています。

― 最後にお聞かせください。農業経営者に必要な資質やモノって何でしょう?

丸田:マクロな視点とミクロな視点でバランスよく物事を見る事でしょうか。また、リスクとリターンのバランスも見極めることも重要だと思います。バランス感覚という事かもしれません。そして、最後は気合いとハンコですね(笑)。ライスセンターの建設費○千万を借りたとき、今までの人生で唯一、手が震えました。この ハンコを押したら人生が決まる。もう後戻りできない。やめるなら今!そんな思いが頭の中を駆け巡りました。

穂海の丸田社長といえば、今でこそメガファームへの道を着実に突き進み、先進的な取り組みが注目を集めていますが、そのような人にも「最初」があり、そこにはいくつもの迷いや苦悩が伴っていました。ご多忙の中、快く取材に応じてくださった丸田社長からは、笑いあり涙ありの貴重なお話を伺うことができました。

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n.yokoyama

農業生産現場を活動フィールドとするライター兼フォトグラファー。25年の活動で取材実績は延べ約400件。撮影時は田んぼや畑の中を一眼レフ2台持ちで移動しながら最適なアングルを求めるのが私のスタイルです。

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