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ライター - rinko
農学部大学院にて植物病理学の修士号を取得。
農協、農業資材メーカーで合わせて約10年間、農家へ栽培技術指導、病害虫診断業務を担当。現場で得た経験と知識で正確な情報をお伝えします。…続きを読む

illust:rinko
近年、ゲリラ豪雨などの急な悪天候で、圃場(ほじょう)が冠水してしまい、土壌の酸欠により栽培している野菜が根傷みし、十分に収穫できない事象が多発しています。そんな冠水に備えて、また生育を促進する資材としてさまざまなタイミングで施用できる酸素供給剤について紹介します。
知っていましたか?土壌にも酸素が必要です

出典:unsplash
土の中は酸素が無いものと思われていますが、実は土壌にも一定量の酸素は含まれており、根の伸長や団粒構造化に欠かせません。
根の伸長・呼吸のため
根の細胞は呼吸をしているため、酸素が必要です。
欠乏すると、根の生育が阻害され、肥料の吸収が滞り、地上部の野菜の生育が悪くなります。
土壌微生物の活性化のため
土壌中に生息している多くの微生物も、酸素を必要とします。これらの微生物が活性化することによって、土壌の団粒構造が進み、土がフカフカになり根が伸長しやすい環境となります。
▼土壌改良についてはこちらもご覧ください。
酸素供給剤とは

出典:タキイ種苗提供
酸素供給剤とは、土壌に酸素を与え、土壌環境の改善に役立つ製品です。
土壌改良には、保水性や透水性の改善、微生物の活性化が欠かせませんが、土質や急な大雨による冠水など土壌中の酸素濃度が低下してしまう場合の対策として、酸素供給剤を使用します。
酸素供給剤は、土壌中で酸素を発生し、作物の健全な生育を促します。
酸素供給剤を使用するタイミング

出典:写真AC
酸素供給剤は、土壌の酸欠が予想されるタイミングで使用します。
ゲリラ豪雨や、長雨時の根傷み対策
ゲリラ豪雨(集中豪雨)や長雨によって、圃場の排水が追い付かずに冠水すると、根が窒息してしまい、根傷みが発生してしまいます。
大雨が予想できる場合は、事前に酸素供給剤を施用します。タイミングが悪く冠水してしまった場合には、応急措置として酸素供給剤を施用することで、根傷みを軽減することができます。
水はけが悪い圃場での栽培
長年栽培していて、水はけがいつも悪く根傷みが多発するような場所に、酸素供給剤を施用します。
高温・乾燥対策
高温、乾燥などで干ばつが進み、肥料吸収量が減少することがあります。
また高温になると、根がより酸素を欲するため、酸欠となることがあり、酸素供給剤を施用することで効果があります。
堆肥などを多く入れた場合
未熟な堆肥など、未発酵の有機肥料を多く入れた時に、微生物が分解するのに酸素が消費されてしまい、酸欠状態になることがあります。
堆肥や有機質肥料などを多く入れる場合に、酸素供給剤と一緒にすき込むことで、有機物の分解を促進し酸欠を予防します。
酸素供給剤の種類と使い分け
提供:タキイ種苗
タキイ種苗の酸素供給剤には、粒剤と液剤があります。
粒剤は、溶けやすさに大きな違いがあり、酸素供給期間が異なります。
粒剤

提供:タキイ種苗
土壌中の水分と反応し、酸素を発生します。過酸化カルシウムを成分とし、酸素の発生後には消石灰が残ります。
分解が早く、加湿箇所への表面散布が可能|オキソダッシュ1
オキソダッシュ1
1袋(10kg)当たり約320ℓの酸素を約1カ月供給。
表面散布での使用も可能なので、緊急時の対処でも活躍します。
・内容量:10kg
約3カ月かけて酸素を発生|ネオカルオキソ
ネオカルオキソ
1袋(10kg)当たり約340ℓの酸素を約3カ月供給します。
本剤を元肥として全面散布し混和することで、根の呼吸を助け、根の張りを改善します(10a当たり40~60kg)。
・内容量:10kg
約5カ月かけて酸素を発生|オキソパワー5
オキソパワー5
1袋(10kg)当たり約400ℓの酸素を約5カ月間の長期にわたり供給。
元肥として土壌混和(10a当たり40~60kg)して使用します。施設・露地栽培を問わず、植え付けから収穫までの栽培期間が長いイチゴやアスパラガスなどの品目にもおすすめです。
・内容量:10kg
▼
オキソパワー5の公式HPはこちら液剤

提供:タキイ種苗
過酸化水素を成分とし、土壌中などの重金属や、有機物と反応して酸素を発生します。酸素発生後には水が残ります。
M.O.X エム・オー・エックス
1本(10kg)当たり約200ℓ酸素を供給。
酸素供給期間が1日以内と短いですが速効性があり、散布直後から酸素を供給します。灌水時に液肥と同じ要領で10a当たり10ℓを1週間から10日に1回施用します。
・内容量:10kg
酸素供給剤の使い方|効果的な使い分け

出典:写真AC
どのようなタイミングで酸素供給剤を使い分ければ良いのかを、タキイ種苗に紹介いただきました。
元肥と混ぜて酸欠を予防|ネオカルオキソ、オキソパワー5

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水はけの悪い粘土質の土壌などでは、酸欠を予防するために元肥と混ぜて使えて、長期間効果が持続する酸素供給剤がおすすめです。
栽培する野菜の期間に合わせて、約3カ月効果が持続するネオカルオキソ、もしくは約5カ月間と長く効くオキソパワー5を選択します。
圃場の冠水被害の予防・応急措置|オキソダッシュ1、M.O.X

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台風や長雨で圃場の冠水が予想される場合には、水と反応してすぐに酸素を発生する、オキソダッシュ1がおすすめです。粒剤で、畝または通路にパラパラとまいて即効的に効かせることができます。
また即効性で液剤のM.O.Xは、浸水後の応急処置として施用すると効果的です。
栽培期間が長い作物|オキソパワー5

出典:Pixabay
植え付けから収穫までが栽培期間の長いイチゴ、アスパラなどの品目や、植え付け後に梅雨や秋雨をまたぐ場合には、約5カ月間と長く効くオキソパワー5で酸欠や根の弱りを防止しましょう。
栽培途中、果菜類のなり疲れ対策|M.O.X

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成り疲れによって根の活性が低下している場合や、酸素が欠乏していて根が弱っている場合は、肥料の吸収力も落ちているためM.O.Xを施用してから液肥を使用することをおすすめします。
夏季、高温干ばつ対策|オキソパワー5

出典:Pixabay
オキソパワー5は、乾燥条件でも緩やかに分解が進みます。高温条件では植物の根の酸素の要求量が高まるので、乾燥・干ばつ条件でも一定の効果を望むことができます。
酸素供給剤保管の注意点
酸素供給剤は、水や金属と反応して酸素を発生します。保管の際には、水などがかからない場所を選びましょう。
酸素供給剤の施用実例
実際に酸素供給剤を使用した実例を、タキイ種苗に紹介いただきました。
台風による湿害対策のため「オキソパワー5」を施用

提供:タキイ種苗
台風による湿害対策のために、ナバナの圃場でオキソパワー5を施用したところ、無施用区では株の生育低下や下葉の黄化がみられたものの、施用区では健全に生育したとのことでした。写真からは、根量の違いも明らかです。
「オキソパワー5」で冬場の根張り促進

提供:タキイ種苗
リーフレタスでの冬場の生育比較調査実施したところ、地上部、根張り共にオキソパワー5の効果により生育が促進しました。
低温期の生育にも効果がありそうです。
干ばつ対策にも「オキソパワー5」

提供:タキイ種苗
キャベツで干ばつ対策として施用したところ、慣行区に比べ施用区の方が、根張りがよく収穫物のそろいや1球当たりの平均重などの収量も上がりました。
最新の農業資材情報をチェック!「タキイ農業資材オンライン」
タキイ種苗では農業資材のメーカーと厳選した農業資材を集めた、タキイ農業資材オンラインを開設しています。
酸素供給剤を始め、新商品や産地への採用事例など最新情報も満載なのでぜひチェックしてみてください。
土壌改良と酸素供給剤の合わせ技で健全な栽培を

出典:Pixabay
酸素供給剤は、土壌の酸素不足を予防、対策のための資材です。しかし、排水性や団粒構造の促進など、土壌環境の根本的な改善のためには、合わせて土作りを行なっていく必要があります。土壌改良と酸素供給剤を使いこなして、健全な野菜の栽培を目指しましょう。