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北海道には有機農産物の取り扱いを専門とした全国で唯一の農協、北海道有機農業協同組合があります。代表理事組合長を務める小路健男(しょうじ たけお)さんは、関東から北海道に移住し就農した新規就農者の1人です。小路さんにこれまでの歩みと有機農業への思いを聞きました。
無何有の郷(むかうのさと)農園・小路健男さん プロフィール
1964年生まれ。茨城県日立市出身。酪農学園大学卒業後、茨城県で3年間有機農業の研修をした後、1991年に北海道安平町で新規就農。2001年には北海道有機農業協同組合を設立。2002年から現在まで代表理事組合長を務める。約12haの農園で有機農産物を生産している。
所在地/北海道勇払郡安平町追分旭834
電話/0145-25-2524
厳しい自然を求めて北海道へ
北海道の南西部、夕張山地の裾野に位置する安平町(あびらちょう)追分旭地区。かつて暴れ川と呼ばれた夕張川の流域にあり、ゆるやかな丘陵地帯が広がる場所に小路さんが営む「無何有の郷農園」はあります。

小路さんは茨城県日立市出身。農業とは縁のないサラリーマン家庭で育ちましたが、農業を志し、北海道の酪農学園大学に進学。大学卒業後、茨城県の有機農場「たまごの会八郷農場(現在は暮らしの実験室やさと農場)」で3年間研修をしたのち、1991年に安平町で新規就農しました。
現在は有機JAS認証を取得した約12haの農地で大豆、麦、カボチャ、ナガイモ、ゴボウ、ニンジン、ヤーコン、水稲などを生産。北海道有機農業協同組合に出荷するほか、道の駅あびらD51ステーションの農産物直売所「ベジステ」でも販売しています。
環境に負荷を与えない生き方

自分で食べるものは自分で作る。それも、できるだけ持続可能なやり方で。考えた末にたどり着いたのが有機農業でした。茨城県で有機農業について学んだ後、大学時代に過ごした北海道で農地を探し始めた小路さん。北海道をめざした理由は「より環境の厳しいところで就農しようと思ったから」。消費者と直接交流ができる場所に絞り、道内最大の消費地である札幌市からおよそ50km圏内で就農場所を探しました。しかし、農地を貸してくれる自治体はなかなか見つからず、2年かけてようやくたどり着いたのが安平町でした。

そうして2haの農地を借り、農業経営をスタートさせました。
資源が循環する農園
就農した当時、採卵鶏と水稲、野菜を組みあわせた有畜複合経営を軸に営農を始めました。これは養鶏で出た鶏ふんを堆肥にして畑や田んぼに還元し、田んぼから出た稲わらを養鶏の敷きわらに、畑作で生まれる野菜クズを鶏に食べさせることで、農園の中で有機的な循環を生み出すものです。

就農当初は2haだった農地面積は徐々に増え、現在は約12haにまで拡大。経営を始めてから苦労をしたことを尋ねると、「ぎっくり腰になったことかな」と笑いながら教えてくれました。

就農10年目|仲間と共に、北海道有機農業協同組合を設立
農業経営は順調な滑り出しを見せていた一方で、北海道ならではの課題もありました。それは有機農産物の流通です。卸売市場を通じて流通させる慣行栽培の農産物と異なり、有機農産物は卸売市場を通さず、消費者と直接取引するいわゆる直売が主流です。消費地と近い場所に農地がある場合は問題ありませんが、消費地と農地が遠く離れていることが多い北海道では、消費者向けの直売が難しいのが課題でした。

本州の有機農家は、直売で売れる量の野菜を少量生産することが多いですが、夏のうちに稼がなければならない北海道では自然と作付け面積も増えます。そのため自然食品店などに有機農産物を卸していた小路さん。ところが、需要に対してすでに十分な供給量があったため、販売が伸び悩んだといいます。

有機JAS制度の開始がきっかけ
2001年、同じ自然食品店に卸していた生産者の仲間約40戸とともに、北海道有機農業協同組合を設立。ちょうどこの年はJAS法に基づいた有機農産物の表示制度が始まった年です。
有機JAS制度とは
JAS法に基づき、「有機JAS」に適合した生産が行われていることを第三者機関が検査し、認証された事業者に「有機JASマーク」の使用を認める制度。農産物、畜産物及び加工食品は、有機JASマークが付されたものでなければ、「有機○○」と表示できない。
農林水産省「有機食品の検査認証制度」

現在、北海道有機農業協同組合の正組合員(生産者)は60人、消費者である准組合員は460人(2020年12月現在)です。有機JAS認証された生産者の農産物を集めて道内外へ出荷しており、農産物全体の6割が本州、4割が北海道内に届けられています。道内ではコープさっぽろで取り扱いがあるほか、准組合員は有機野菜が届く宅配サービス「ゆうきの実」なども利用できます。
設立から20年|これからの課題は
農協設立から20年が経ち、農産物の売り上げも少しずつ拡大してきました。現在、有機ほ場の総面積は約344.27ha、2020年度有機農産物取扱高は約3億8,900万円に上ります。一方、北海道全域に生産者がいるため、情報共有や生産者同士の交流が課題だと言います。

研修生の受け入れで、農業を学ぶ場を提供
北海道有機農業協同組合では、定期的にマルシェや収穫祭、農業体験などを催し、消費者との交流にも力を入れています。また、小路さんは新規就農希望者の研修受け入れも行っており、これまでに長期の農業研修生9組を受け入れました。

そうした努力もあって、小路さんを含め町内では7戸が有機農家として就農。2017年には研修生の受け入れ体制を整えるために、安平町有機農業推進協議会を立ち上げました。

安平町の就農・移住支援についてはこちら
「無何有の郷」とは|地域内での循環をめざして
農園の名前となっている「無何有の郷」とは、中国の思想家・荘子(そうし)の言葉で、「自然のままで何の作為もない理想郷」を意味します。

2019年、小路さんは経営の柱としてきた養鶏を辞めるという選択をしました。研修生の受け入れに伴って畑の面積を拡大してきましたが、畑作の占める割合が増えてきたことや鳥インフルエンザのリスクなどが理由です。

「農の豊かさ」を楽しむ暮らしを
北海道に移住し有機農業を初めて約30年。北海道有機農業協同組合の立ち上げや新規就農者の受け入れなど、これからの農業者の道筋を作ってきました。さらに農園の経営の傍ら、妻の恵子さんと共に5人の子どもを育ててきた小路さん。子育てのめどもたってきた今、夫婦それぞれの時間を大切にしたいと言います。


























