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新規就農者の離農率0%!有機農業と特産品のメロン栽培で地域に人を呼び込む町|北海道安平町

北海道安平町(あびらちょう)で新規就農者が増えています。しかもその離農率は0%!なぜ安平町に人が集まっているのでしょうか?新規就農者の支援制度や研修の仕組みについて自治体担当者と、実際に千葉県から移住し新規就農した有機農家にインタビューしました。


白崎さん、土屋さん

撮影:小林麻衣子
新千歳空港から約20km、北海道胆振(いぶり)地方に位置する安平町(あびらちょう)。人口約7,500人の小さな町に新規就農者が増えています。しかも新規就農者の離農率は0%。なぜこの町に人が集まるのでしょうか?その理由を探るべく、安平町役場を訪ねました。

交通の便に恵まれ、畜産や施設園芸が盛んな安平町

安平町役場2
撮影:小林麻衣子
札幌市からおよそ50km。道央の胆振地方に位置し、千歳市と苫小牧市に隣接する安平町。北海道の「空の玄関口」新千歳空港と「海の玄関口」苫小牧港に近いほか、JR石勝線と室蘭本線、高速道路が通り、陸・海・空の交通の便に恵まれた町です。町の中央を安平川が流れ、北部にはゆるやかな丘陵地帯、南部は勇払(ゆうふつ)原野に続く平地が広がります。

冬は道内でも比較的降雪量が少なく、年間を通じて晴天の日が多い気候風土を生かして、水稲、畑作などの土地利用型農業のほか、酪農や肉用牛経営、丘陵地帯では施設園芸が盛んです。また、日本のチーズ工場発祥の地としても知られるほか、特産品のアサヒメロン競走馬の生産が有名です。

教えてくれたのは

白崎さん2
撮影:小林麻衣子
安平町の新規就農者受け入れの取り組みについて、安平町役場 産業振興課 農政・畜産グループ主幹の白崎大輔さんにお話を伺いました。
白崎大輔さん
白崎大輔さん
安平町のおすすめスポットは「道の駅あびらD51ステーション」です。町内でとれた野菜や物産品を買えるので、ぜひ立ち寄ってみてください。

道内でも先駆けて新規就農者の研修制度を整備

安平町菜の花2
撮影:小林麻衣子
安平町では、2011年から新規就農者の受け入れが始まり、今年で10年が経ちました。受け入れ事業を始めてからの新規就農は12戸(2021年4月現在)。平均すると毎年1戸が就農している計算です。
白崎大輔さん
白崎大輔さん
安平町では有機農業と特産品のアサヒメロン栽培で新規就農者の受け入れをしています。これまでに有機農業では5戸、アサヒメロンでは7戸が新規就農しました。


新規就農者のうち道外からの移住者は5戸。新千歳空港が近く気軽に帰省をしやすいため、東京都や神奈川県など関東出身の人が多いといいます。また前職は会社員など、農業とはまったく異なる業界から飛び込んだ新規参入者がほとんどです。


農業研修は2年間|農家研修と実践農場で力をつける

アサヒメロン2
撮影:小林麻衣子
白崎大輔さん
白崎大輔さん
新規就農者受け入れのきっかけは生産者からの協力依頼でした。高齢化や後継者不足などに対応していこうと、追分アサヒメロン組合から新規就農者を受け入れたいという話が上がったんです。

アサヒメロンとは
安平町で生産されているブランドメロン。鮮やかなオレンジ色の果肉が特徴の赤肉メロンで、品種は「ルピアレッド」「ティアラ28」「ティアラ30」「レッド113」などがある。昼夜の寒暖の差が大きい気候生かし、生産者が丹精したメロンの糖度は14〜17度と非常に高い。50年以上の栽培の歴史があり、現在25戸の農家と実践農場1戸が約26haで栽培している。
安平町「物産品・名産品 アサヒメロン」

アサヒメロンのブランドを継承していこうと、2014年に安平町と追分アサヒメロン組合、JAとまこまい広域、農業委員会、普及センターからなるアサヒメロン現地支援協議会を設立。2016年には安平町が事務局となり、農業担い手育成協議会を立ち上げました。同年には農業研修生がアサヒメロン栽培を実践するための安平町実践農場がオープンし、新規就農者の受け入れ体制を整えました。

有機農業での新規就農者の受け入れも進めている

2017年には安平町有機農業推進協議会が設立されました。現在新規就農者の研修受け入れを行っているのは、アサヒメロンを生産する農家2戸と有機農業を実践する農家1戸の計3戸です。
農業研修は2年間。アサヒメロンの場合は指導農家のもとで1年間研修したのち、2年目は安平町実践農場で実際に自分たちの手で栽培をします。有機農業の場合は、指導農家のもとで2年間研修を行います。こうした指導農家や農業担い手育成協議会などの支援により、研修生は就農までにしっかりとした栽培技術を身につけることができます。

生活面の支援体制も充実!

さらに、町では研修生に対して住宅の補助をおこなうほか、就農した場合は農地取得のための助成金を受けられるなど支援体制が充実しています。

安平町の新規就農者支援制度
<研修中の支援>
・滞在施設及び民間住宅家賃助成制度
・特別研修受講費の全額助成
<新規就農後の支援>
・新規就農者奨励金及び利子補給金[5年間]
・新規就農定住促進助成金
参考:安平町担い手育成協議会


離農率0%の秘訣(ひけつ)は!?「本当にやる気のある人」をマッチング

安平町_競走馬
撮影:小林麻衣子
安平町で新規就農した農家の離農率は0%。農林水産省によると新規就農者のうち5年以内に離農する割合は約3割という数字からも離農率の低さがわかります。
農林水産省|(3)担い手の動向
白崎大輔さん
白崎大輔さん
じつを言うと、安平町では研修時の資金的なサポートはほかの自治体よりも手厚くはありません。たとえば研修中に毎月の手当てがでるところもありますが、そうすると、研修だけを受けてその後就農しない人が多い傾向にあります。その意味で「本当に農業をやりたい人」を受け入れるようにしています。


安平町では研修生には住宅補助など生活面での支援をするほか就農後の助成金を手厚くし、研修中の資金面では国による農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)を活用しています。

農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)についてはこちら

新規就農者の将来の生活を考えた支援体制

研修生募集の際は指導農家が面接をし、実際の経営状況や生活の様子などを詳細に説明します。そのうえで希望する営農形態が合わない場合は、近隣の自治体の研修制度を紹介することもあるといいます。
さらに研修は原則夫婦2人で受けなければなりません。もし夫婦で研修が難しい場合は、家族での研修を勧めており、単身や友人どうしの研修は受け入れていません。
白崎大輔さん
白崎大輔さん
夫婦での研修をお願いしているのは、もしどちらかが病気やけがをしてしまっても、2人であれば農業経営を続けられるからです。就農時には少なからず資金の借入れをするわけですから、その返済を含めて就農した人の生活がきちんと成り立つように、1人での研修は受け入れていません。


このように研修受け入れ時のマッチングと指導農家や行政をはじめとする充実した支援体制で、離農率0%という驚きの数字が出ているのです。

コロナ禍で研修を希望する人が増加

有機農産物販売コーナー
撮影:小林麻衣子
一方で、受け入れ事業が始まったばかりのときは、就農希望者がなかなか集まらず苦労したことも。しかし最近ではコロナ禍をきっかけに農業に興味を持つ人が増えてきているといいます。


白崎大輔さん
白崎大輔さん
研修の問い合わせがほとんどない年もありましたが、ここ2年は就農の相談に訪れる人が増えています。今年は半年で10件以上の相談がありました。


農林水産省によると全国に耕作放棄地は42万3,000ha、遊休農地は9.8万haある(農林水産省「荒廃農地の現状と対策について」)といわれていますが、安平町では新規就農者や後継者が多いため、耕作放棄地や遊休農地はないそうです。
白崎大輔さん
白崎大輔さん
町内には耕作放棄地と遊休農地はありません。農地を手放す人がいても、近隣の農家さんが買い取ることが多いため、むしろ新しい農地を探すことに苦労することもありますね。その場合は研修生の指導農家が地主や町内の農家を回って相談し、新規就農者の農地を確保しています。


筆者もコロナ禍をきっかけにメロン農家を目指した一人

新規就農者の声|有機農業での就農を受け入れてくれたのが安平町だった

土屋真吾さん2
撮影:小林麻衣子
安平町の研修制度を利用し、新規就農したのが有機農園Human Natureの土屋真吾さんです。

土屋真吾さんプロフィール
千葉県生まれ。札幌から移住し、2019年に安平町安平で新規就農。
現在は約2haのほ場でホウレンソウ、ナス、インゲン、カボチャ、サツマイモなどを有機栽培で生産している。

土屋真吾さん
土屋真吾さん
私が研修先を探していた当時、自治体として有機農業の研修や就農を受け入れてくれたのが安平町でした。行政の研修システムがきちんとしていると感じましたし、なによりも町全体として有機農業を受け入れる土壌があると思います。

土屋さんは2017年から2年間、指導農家の小路健男さんのもとで研修し独立。有機栽培で生産した野菜は北海道で有機栽培を手がける農家からなる北海道有機農業協同組合に出荷するほか、道の駅「あびらD51ステーション」の農産物直売所「ベジステ」で販売しています。

有機栽培の野菜を当たり前に消費者に届けたい

ベジステ
撮影:小林麻衣子
土屋真吾さん
土屋真吾さん
農業をやりたいと思ったのは、会社員時代に家庭菜園を始めたことがきっかけです。子どもに食べさせるものなので、自然と有機栽培でやろうと考えるようになりました。


有機農業で新規就農を目指す場合、研修先を見つけることに苦労するほか、研修はできても農地の確保が難しいなど、さまざまな課題があります。しかし安平町では土屋さんを含めて7戸の農家が有機JAS規格に基づく有機栽培に取り組んでいます。こうした先輩農家の存在や研修制度の仕組みが充実していることが魅力だったといいます。
土屋真吾さん
土屋真吾さん
私にとって、有機農業は「当たり前」なんです。だから、当たり前の価格で野菜も販売したいと考えています。


土屋さんのこだわりは、なるべく消費者の手が届きやすい価格で野菜を販売すること。有機野菜だからといって高値で販売するのではなく、普段の食卓で食べてもらいたいと話します。

私生活では高校生と小学生の子ども2人を育てる土屋さん。もともとは札幌市に住んでいたこともあり、生活をするうえでも札幌圏に近いことは大きなメリットだといいます。
土屋真吾さん
土屋真吾さん
子どもは札幌の学校に通わせているので、アクセスのよさはありがたいですね。また空港に近いので、本州の実家に帰省するのにも便利です。

若い世代が増える「暮らしやすい町」で農業をめざそう

白崎さん、土屋さん2
撮影:小林麻衣子
2021年度は2戸の農業研修生が新規就農に向けて研修をスタートしました。さらに、2018年に発生した北海道胆振東部地震のボランティアをきっかけに、近年は安平町に移住する若い世代が増えてきているといいます。
白崎大輔さん
白崎大輔さん
私も隣の苫小牧市から引っ越してきました。安平町は立地がよく暮らしやすい町ですよ。

安平町農業担い手育成協議会では、「北海道新規就農フェア」や「新・農業人フェア」などで新規就農者の募集を行っています。問い合わせは安平町農業担い手育成協議会まで。

<安平町農業担い手育成協議会>
〒059-1595 北海道勇払郡安平町早来大町95番地
TEL 0145-22-2515
Email nousei@town.abira.lg.jp
WEBサイト https://abira-ninaite.jp/

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小林麻衣子

北海道在住のライター。農業系出版社で編集者として雑誌制作に携わったのち、新規就農を目指して移住。現在は農家見習い兼ライターとして活動中。

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