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【連載第2回】自然とともに生きる心構え|農家ライターが出会った農家のひきこもごも


異常気象が頻発する中で、自然を生業とする農家が持っておきたい心構え。被害に遭った農家の事例を紹介しながらお伝えします。

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森田優子

果樹園三代目、『ながさき食べる通信』発行人・編集長・ライター、食農連携コーディネーター。地元の農業衰退を目にし、地域課題を解決したい! と「ながさき食べる通信」をはじめる。20年の小売業勤務で販売士、バイヤー、マネージャー、スーパーバイザーを歴任し、その経験を活かし、生産の現場の課題解決に走り回っている。シューフィッター、トータルカラリスト、パーソナルカラリストの資格を持つ。…続きを読む

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牧場での取材風景

写真提供:森田優子
果樹園三代目の農家ライター森田優子が、20年勤務した小売業界での経験と食農連携コーディネイターとしての活動から、『ながさき食べる通信』の取材を通して感じた農家や農業の「生の声」を独自の視点で切り取りお届けします。第2回のテーマは農業者の心構え。

パッケージデザインを取り上げた第1回はこちら。

異常が日常となりつつある天候

雨上がりの山間地
撮影:仲地俊裕

自然が帳尻合わせをする⁉

8月に梅雨前線が西日本から九州にかけて掛かり、各地で大雨と災害をもたらしました。長かった梅雨の期間、降水量は平年に比べ6~8割前後でした。ある農家さんが「帳尻合わせ」というように、自然はどこかでバランスを取ろうとするのでしょうか。

こんなお盆ははじめて…

出荷されなかったほおずき
撮影:森田優子
農家Aさんの作業場の片隅に置かれているホオズキ(鬼灯)。地域によっては、お盆に帰ってくるご先祖様や精霊が迷わずに帰って来られるように提灯に見立てられ、仏壇や盆棚、精霊棚に飾られます。しかし、お盆前から1週間の雨予報により、生花市場での取引は少なく、今年は収穫量の半分しか出荷できませんでした。Aさんの嘆きに反して、行き場を無くしたホオズキだけは炎のようなオレンジ色を輝かせていました。

自然×人工による影響

だいこん畑
撮影:森田優子

人工物が及ぼす環境の変化

田畑の近くに人工物ができたことで思わぬ被害にあうことも。自然の変化だけでなく、このような環境の変化にも注意が必要ですね。

流れてしまった畑の土

舗装された農道
撮影:仲地俊裕
「水脈が変わったようで…」と貯水槽を見上げる野菜作り50年の農家Bさん。前の年に、野菜畑の上に雑木林を切り開いて、大きな貯水槽が建設されました。近くで養蜂をしていた農家は雑木林がなくなったことで、ミツバチが花の蜜を集める量が減り、別の土地へ移っていきました。Bさんも環境の変化は心配していましたが、容赦なく降り続ける雨は貯水槽の下手に集まり、夏野菜の収穫が終わった畑に流れこみ土が洗い流されるとは、思いもしていなかったそうです。

やっててよかった農道舗装

じゃんじゃんと流れる水が農家Cさんの野菜畑をえぐっています。側溝にはU字溝や蓋はありません。側溝の整備よりも農道の舗装を優先したため、費用が捻出できなかったそうです。そもそも、道路舗装をしなければいけなくなったのは、土砂崩れの被害に遭ったから。田畑の上に公園が整備され、コンクリート舗装されたところに、大量に雨が降り、農道と田畑に流れ込み、その土砂は田んぼの下の豚舎にまで及んでしまいました。個人の敷地内ということで、一部(といってもかなりの額)負担をして、農道を舗装しました。「あのとき思い切ってやってたから、これだけ毎年大雨が降っても何とか持ちこたえてる」とCさんは振り返ります。

被災したことで知った「人とのつながり」と「人の温かさ」

土砂崩れ被害の全景
撮影:仲地俊裕
雨量計が設置されるほど、年間を通して降水量が多い山の中腹にあるミカンハウス。2020年7月、大雨が続く中、山道を登りながら目にした光景に「頭が真っ白になった」とミカン農家Dさんは言います。斜面がえぐれ、ハウスの一部が宙ぶらりんに。何より、実っていたミカンの木も土砂と一緒に流されていました。ハウスに着くと、足元には、まだ青いミカンがいくつも転がっていて、悲しさは絶頂に。でも、嘆いてばかりはいられないと、すぐに動き出したそうです。

復旧への道のり

土砂崩れ直後
写真提供:森田優子
この「すぐに」が功を奏して、いち早い復旧につながりました。そして、思ってもいなかった人のつながりと人の温かさを知ったそうです。その経過をDさんが次のように語ってくれました。

SNSの持つ力

「日ごろのSNSへの投稿と同じように被害状況をアップしたところ、友人から『クラウドファンディングをやってみてはどうか?』とアドバイスが。早速、被災したミカンハウスの復旧と称し、運営会社へ掲載を依頼し、自身や家族、友人とSNSで支援を呼びかけました。すると、知人やそうでない人までも投稿をシェアしてくれたり、被災を聞きつけたテレビ局やラジオ局が取材放送してくれたり。『何が起こっているのか』わからないうちに、支援金額はみるみる増えていきました。」

広がるつながりと支援の輪

「友人たちや親せき、近所の人たち、農業仲間や関係者、地元の同級生、出身者、県外で働いていた時の知人たち。顔が見える人たちだけでなく、そのつながりの先にいる多くの人びとの支援により、募集期間終了を待たずして目標金額を達成しました。これには『驚き』とともに『感謝』しかありませんでした。」

ひとつひとつに心を込めて

お手紙付きミカンの返礼品
撮影:森田優子
「被災した当初はどうなることかと…。でも、ハウス解体から復旧作業まで被災した年の内に終え、無事に年を越すことができました。支援していただいた皆さんにはクラウドファンディングやSNSを通して、お礼と作業経過を伝え、翌年の2月には『感謝』の心を込めて返礼品のミカンを送りました。うれしいことに、皆さんからお礼や『おいしかった』の言葉、次の年に注文したいとのメッセージをいただきました。中には、返礼品のミカンの写真を載せてあるSNSの投稿を見て、ECサイトから注文してくれた方も。皆さんの支援やつながりに感謝するとともに、ますます、おいしいミカンづくりへの力をいただきました。」

常に心をフラットに

草が茂る果樹園
撮影:森田優子

農業は日常なのか?

自然を相手にすることを生業とする人たちは「日常」と「非日常」という境目を意識しているのでしょうか。自然は常に「変化」するものなので、常に「異なる」のは当たり前。だから、その変化を、ありのままに受けとめ、それに応じて、身の振り方や「手」を打っているように思えます。

50年目の失敗

「欲を出してしまった」と静かに笑うショウガ農家Eさん。収量を増やそうと、今まで使ったことのない肥料を与え、肥料焼けさせてしまったそうです。もちろん、例年よりも収量は減ることに。「農家はあきらめの繰り返し」と、失敗の原因をしっかり受け止め、気落ちすることなく来年のリベンジに燃えています。

垣間見える農業の本質

茂る草と草刈り機
撮影:森田優子
単純な作業にこそ、「農業の本質」が見えてきます。農業の本質とは、「自然に身を置いて、ともに在りながら考える」ということ。例えば、草刈り。作業を効率的に進めるために、天候を見ながら、涼しい時間帯に、作業しやすい装備をし、草刈り機のメンテナンスをします。いかに時間短縮と体への負担を軽減できるか、地形を見ながら草を刈っていきます。常に「考えながら」作業をしています。

自然の声に耳を傾けよう!

最近は「温暖化適応型農業」という言葉をよく耳にします。今、農家が持つべき心構えは、起こった被害を憂うことに留まらず、迅速に現状を把握し対応し、何より「前向きであること」ではないでしょうか?それは、多くの農家が意識することなく身についているように思えます。もし「まだまだ」と感じている方がいれば、お天道様の下、自然に身を置き、その声に耳を傾けてみましょう!くれぐれも熱中症と虫刺されにご注意を。

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