オランダや世界のいろいろな国の農業関係者に農業や食の話を聞いたり、私が見聞きしたりしたことをゆるく、時には鋭く綴ろうと思います。さらに、農業だけでなく、おしゃれな家庭菜園や食の話も登場するかもしれません。サステナブル要素も時にはこっそり忍び込ませます。
シティーガールのLauraが畜産の専門家になるまで
初回は、オランダの友人Laura Nobelです。Lauraは、1年ほど前からAgribusiness serviceという農業界に情報提供をするNPOで、プロジェクトコーディネーターとして働いています。畜産飼料のLCA(ライフサイクルアセスメント)のデータベースを作るという、目まいがしそうだけれども、とても大切なプロジェクトに取り組んでいます。LCAについてはこちらも
農業にハマったきっかけ
Lauraが農業(特に畜産)にハマった理由は、ペットを含めて動物が好きだという理由で進学した応用科学大学で、農業、畜産、動物科学を専攻し、Livestock(家畜)に興味を持つようになったことです。そこで、解剖学、栄養学、経済学、リスク管理、マーケティング、法律立法、動物行動学、野生生物管理などを学んだといいます。卒業後に2年間就職活動をしましたが、望んでいた畜産業界の仕事が見つからなかったので、大学院への進学を決めました。
Laura Nobelさん
畜産関係は、親が農家などのバックグラウンドがあれば就職先が見つかるのですが、私のようなただのシティーガールは就職が難しいんですよ。
確かに、オランダの農業関係会社の人と話すと、「親が、親戚が農家」だという話はよく耳にしていたので、「農家数が多いのかな」と思っていましたが、オランダの就業者人口のうち農業者人口は1.7%で、EUのほか国の4%や日本と比較しても少ないです。また、農村部の人口は0.6%だそうで、ほとんどがシティーガール・シティーボーイ!「オランダにはもはや農村はない」と言っていたオランダ時代の先生の言葉がふと頭に浮かびました。
望んでいる仕事に就くまでの道のりは長い
Lauraは、ワーヘンニンゲン大学の大学院では、動物科学学部でヨーロッパの動物管理を専攻し、サステナブルやサーキュラー(循環)をキーワードに学び、中国や韓国でのリサーチも実施しました。卒業後5カ月間は、園芸施設でリサーチアシスタントに従事し、花の計測をしていました。
Laura Nobelさん
楽しかったけれど、私の専攻分野ではないので給料も安かったんです。大学院へ通うためにたくさん支払ったのに、ペイバックされていないなって(笑)
国内で見るか、世界で見るか
1年ほど前に、ついに望んでいた仕事に就くことができました。それは、畜産飼料のLCAデータベースの構築などのプロジェクトコーディネーターです。おしゃれじゃないサステナブル日記にもたびたび登場した、ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品やサービスの原料から廃棄までのライフサイクルのすべての段階に関連する環境影響を評価するための方法論です。オランダでLCAのデータベース化が進む
オランダでは、国内の排出量(主に窒素)のデータ構築を政府が熱心に推進しているそうです。Laura Nobelさん
数年後には、生産者はこの数値データの提出が義務づけられるんじゃないかと私は思っていますが、同時にこれはオランダと一部ヨーロッパの国でしか適用されないとも考えています。そうなるとオランダの農業の位置付けというか、他国との比較も難しくなってしまいます。
農業関係者の抗議デモの行方
政府が熱心に推進するには、理由があります。2年ほど前に、窒素排出量の主原因は畜産業だとし、政府は牛の飼料に含まれるプロテインの上限を定めようとしました。しかし、牛にとってプロテインは高い生産性のために不可欠です。さらに、一生産者あたりの家畜数の制限も推進しようとしたことで、畜産を中心とした生産者による抗議デモが起こりました。Laura Nobelさん
今も基本的な状況は変わっていません。オランダの農家は生産性も環境負荷に対しても可能な限り効果的な生産をしているにもかかわらず、いろいろな圧力があるので混乱している状況です。オランダからポーランドなどの他国へ農場を移して、そこから肉類が逆輸入されるというケースも起こっています。
国外に拠点を移す農家は後を断ちません。この構図で、たとえ国内の排出量を減らすことができたとしても、世界規模で見るとどうなのだろうかという視点を持つことも大切です。Lauraは、オランダでは少しずつこの考えが浸透していることが救いだと言います。
増加するベジタリアンやヴィーガンにまつわる議論
ベジタリアンやヴィーガンについても同様です。オランダでは、スーパーマーケットでも大豆を使った代替肉などのベジタリアンオプションが販売されることが一般的となり、2020年にはベジタリアンは12%、一週間に一度または数回肉を食べない日があるフレキシタリアン(または、パートタイムベジタリアン)は50%、ヴィーガンは2%程度と推定されています。ちなみに、この定義だと私はフレキシタリアンです!Laura Nobelさん
ベジタリアンの増加によってブラジルでは大豆栽培が増えて、農地を確保するために森林伐採が深刻化していることも同時に知っておくべきだと思います。じゃあ、どうやってそれらの環境負荷を確認するの?どうやって実装するの?など、肉と代替肉の環境負荷に関する議論は、かなり難しいです。
日本の農業をどのように見ている?
最後に、学生時代に中国や韓国での滞在経験もあるLauraに日本を含めたアジアの農業について尋ねました。日本の農業については、あくまでもイメージだと前置きしつつも、「伝統的な働き方」「小規模」「パーソナライズされている」という印象を持っていると話します。Laura Nobelさん
ヨーロッパでは、基本的に食糧生産は「可能な限り多く作る=大規模化と収量を上げる」ことに注力しますが、日本のような小規模経営でどのように収益を得ているのかという点に興味があります。
施設園芸が盛んなオランダの平均圃場面積は30ha程度。経営面積が5ha以下の経営体は20.2%です。また、総経営体の65%の売上が250,000ユーロ以上(編集部注:2021年8月9日のレートは1ユーロ129.53円。日本円に換算すると3,238万円)なので、確かに規模も収入も大きそうです。
よくヨーロッパは伝統を重んじるだとか、個々を大事にするとか言われ、憧れる人も多く、私も大好きです。それらも事実だとは思いますが、オランダから見ると、まるっと日本が同じイメージに見えているような気がしてうなりました。この後も、Lauraとは話が尽きませんでした。
参考:Statistical Factsheet Netherlands|European Commission (June 2021)
Share of vegetarians and flexitarians in the Netherlands 2017-2020|statista