基本的には家庭菜園でのおすすめ品種を中心にご紹介していますが、「就農者へのおすすめポイント」として、販売を目的にした品種選びのポイントも掲載しています。農業者の方もぜひ参考にしてみてくださいね。
品種選びのポイント
教えてくれたのは
鈴木栄一さんプロフィール
1989年、株式会社サカタのタネ入社。研究農場勤務、品質管理部等を経て野菜統括部に配属。
2013年より現部署。主に野菜種子や野菜苗の販売管理等を担当。
同じ品目でも品種によって、育てやすさに差がある!
まず気になったのは、品種によって育てやすさに差があるのかどうかということ。品種によって育てやすさに差があるのは特定の野菜なのでしょうか?鈴木栄一さん
どの野菜も品種によって育てやすさは結構違います。日本は四季があり、周年栽培していく中で、暖かい時期に向く品種や寒い時期に向く品種、長い期間安定して作れる品種があります。例えば、夏に栽培しやすい品種は、冬には栽培にしにくいことがあります。また、特定の地域や時期に出やすい病気など、栽培を阻害する要因に対抗して品種改良されているので、目的に応じた品種を選ぶことが大切になります。
気候、気象、季節によって、変化する栽培環境。用途に応じて、品種に合った適正な時期に栽培すれば、育てやすいということですね。
鈴木栄一さん
どういう時期にどういう目的で作りたいか、いつも栽培しているときにどのような問題が起きているのか、そこを明確にしたうえで品種を選ぶと間違いないです。ほかにも見た目が変わっているとか味が良いなども品種選びのポイントになってきます。
品種によって生長スピードも違う!
品種によって、生長期間の違いや気をつけるポイントはありますか?鈴木栄一さん
生長スピードも品種によって大きく違います。例えば、ほうれん草とか小松菜のような葉物野菜は夏場に気温が高いと生長スピードが早くなるので、ひょろひょろになってしまって、貧弱なものしか収穫できないことがあります。そういう場合には、じっくり育つ品種を選んだ方がいいですね。逆に寒い時期にじっくり育つ品種を栽培すると、いつまでも育たないことがあります。また、同じ畑に早く育つものとゆっくり育つものを栽培して、幅広い時期に収穫できるようにすることもできます。
サカタのタネのウェブサイトやカタログには、品種の特徴が細かく書いてあるので、調べてみるのもよさそうですね。
サカタのタネ商品情報総合案内サイト
種と苗、それぞれのメリット
家庭菜園初心者は、まず種売り場に行ってしまいそうですが、苗を植えるという選択肢もありますね。鈴木栄一さん
種と苗のどちらにするかは、野菜の品目によって変わってきます。葉物野菜は種から栽培しますし、トマトやメロンなどの果菜類は基本的に苗を定植することが多いですね。種で植えるメリットは低コストであること。ただし、発芽条件をしっかり管理しないと発芽に失敗することがあることと、芽が出てから間引きなどの手間がかかることに注意が必要です。一方、苗を使うメリットは、失敗のリスクが少ないことです。果菜類は種をまいてから苗になるまでの期間が長く、その時期の苗は弱いので、苗の生育が栽培の成功の50%を左右するといわれています。専門の業者が栽培した苗を買えば、育苗のリスクが避けられます。最近は農家さんも育苗しなければならない野菜は苗を購入することが多いです。
種を買うとき、パッケージのここに注目!
鈴木栄一さん
種の袋の裏面には、栽培するための一通りの情報が書いてあります。まず着目すべきなのは「発芽適温」です。発芽適温が20~30℃と記載されている場合、発芽までの間はその温度を保っていないと、発芽に時間がかかったり、発芽しないことがあります。次に「生育適温」ですが、これは、芽が出たあとに保つべき温度です。種まきや収穫の時期がわかる作型表というのがどの種の袋にも書いてあります。作型表で地域によって栽培しやすい時期がわかりますので、参考にしてください。
家庭菜園では多い露地栽培。ハウス栽培との違いは?
露地栽培とハウス栽培、それぞれどのようなことに注意すべきでしょうか?鈴木栄一さん
露地栽培はコストはかかりませんが、病害虫がつきやすいので、病害虫対策が鍵となります。品種の力だけでは害虫の防除は難しいので、農薬散布など適切な処置が必要です。ハウス栽培では、害虫の侵入を防ぎやすくできるのと、直接雨にあたらないので、病気の発生を軽減することができます。ただし、ハウスのデメリットは、温度が高くなったり、乾燥したりしやすいことです。そのため、換気や水のコントロールが必要になります。きちんとコントロールすれば、栽培はしやすいですし、良好な環境を保てるので栽培期間を延ばすことができます。
春作のおすすめ品種|果菜類
春の栽培におすすめの品種を紹介していただきました!育てやすいもの、新しいもの、珍しいものなど、栽培したい野菜を見つけてくださいね。トマト「りんか409」
鈴木栄一さん
高温の夏はトマトの花粉が勢いがなくなり、実がつきにくくなりますが、りんか409は高温の時期でも安定して実がつきます。収量性が抜群によく、たくさん採れますし、味もいいです。
トマト「麗夏」
鈴木栄一さん
赤くなってから収穫できる品種です。実がしっかり固く、熟してから収穫できるので、栄養や味を実に十分吸収させることができます。
就農者へのおすすめポイント!
実が固いので、出荷してから、店頭での日持ちもする商品性の高い品種です。
ミニトマト「アイコ」
鈴木栄一さん
作りやすくて味が良いです。経験の少ない方にまずおすすめできる品種です。
ミニトマト「メイクスイーツ」シリーズ
鈴木栄一さん
比較的新しい品種です。赤以外のオレンジ、黄色、茶色などカラフルな色のミニトマトで、従来のカラフルなミニトマトよりも味が良くて作りやすいです。家庭菜園で栽培すると面白いと思います。
スイートコーン「ゴールドラッシュシリーズ」
鈴木栄一さん
日本のスイートコーンのトップブランドです。一番の特徴は非常においしいこと。作りやすさも兼ね備えています。
オクラ「ずーっとみどり」
鈴木栄一さん
オクラは収穫後、早く黒ずんでしまうことがあるのですが、「ずーっとみどり」は鮮度が長持ちするのが特徴。暑さに強く、高温期でも育てやすいです。
就農者へのおすすめポイント!
オクラは栄養価が高いとして消費者の関心が高まっています。「ずーっとみどり」は太くて食べ応えがあり、直売所出荷もおすすめです。
栗カボチャ「ブラックのジョー」
鈴木栄一さん
栗系で味が非常に良いです。夏の定番野菜としておすすめしています。
ズッキーニ「ヤングマンシリーズ」
鈴木栄一さん
ズッキーニは場所を取らずに収穫できる野菜です。病気に強く作りやすいです。
就農者へのおすすめポイント!
ズッキーニは夏場の野菜として消費者に定着してきており、人気があります。換金作物としての価値が高いのも魅力です。
ネットメロン「ころたん」
鈴木栄一さん
多収のメロンで、手のひらサイズの果実が順次収穫できます。メロンは口がイガイガするという人もいますが、「ころたん」はそういうことがなく味も安定しています。
就農者へのおすすめポイント!
外観もかわいらしく、青果としてほとんど流通していないため、直売所などで販売すると面白みがありそうです。
編集スタッフがころたんを栽培してみました!
イボなしキュウリ「フリーダム」
鈴木栄一さん
日本ではあまり目にすることのないつるっとした外観のキュウリです。味が非常によくて、キュウリの風味がとてもいいです。収量が多くて作りやすいです。
就農者へのおすすめポイント!
見た目が珍しく味もよいので、直売所での差別化が図りやすいです。リピーターがつきやすい商品です。
春作のおすすめ品種|葉菜類
コマツナ「いなむら」
鈴木栄一さん
暑い時期、葉物野菜はどんどん伸びて不格好になりやすいのですが、「いなむら」は質のいいものが収穫できます。作りやすくて、大産地でも広く作られている品種です。
ハクサイ「タイニーシュシュ」
鈴木栄一さん
通常のハクサイは、葉の表面に小さな毛が生えているのですが、「タイニーシュシュ」は毛が生えていません。そのため、生食にも向きます。食感が良く、比較的暑さにも強くて作りやすいです。小さいうちに出荷できるので、短期間で収穫できます。
就農者へのおすすめポイント!
ハクサイとして売るよりも、サラダ用の新野菜として提案してみてはいかがでしょうか。
茎ブロッコリー「スティックセニョール」
鈴木栄一さん
味が非常に良いです。栽培に手間がかかるため、大規模な産地ではなかなか取り組めません。家庭菜園や小規模農家向けの品種です。
春作のおすすめ品種|豆類
インゲン「サクサク王子」「サクサク王子ネオ」
鈴木栄一さん
インゲンが苦手な方でもおいしく食べられます。「サクサク王子」は長い期間収穫できるタイプ、「サクサク王子ネオ」は一斉に収穫するタイプです。
春作のおすすめ品種|根菜類
ニンジン「ベーターリッチ」
鈴木栄一さん
子どもが嫌いなニンジン臭が少なく、さっぱりとした甘みがあり、ジュースにしてもおいしいです。色も芯まで鮮やかなオレンジ色できれいです。