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【毎月更新!】農業なくして持続可能な社会なし世界のCO2排出量がコロナで激減
ネットで興味深い記事を見つけました。新型コロナウイルスの感染症「COVID-19」のパンデミックに対する世界的な取り組みにより、世界の年間の二酸化炭素(CO2)排出量が第2次世界大戦以来、最も減少したことが明らかになった。
というBBCのニュースです。2021年には再び増加するだろう、と予測されているものの、航空や運輸分野からの排出量が減ったことが大きく影響しているとのこと。研究者も「世界の気候は、世界のCO2排出量がほぼゼロになって初めて安定する」と明言しています。
タイトルがちょっと堅かったかもしれないですが、生きていく上で絶対に欠かせない「農業」という産業で、どうやってCO2排出を減らしていくかは、とっても重要な視点だと思っています。
女性農家たちが挑戦する「RE100の農家」
「RE100」というのは、再生可能なエネルギーへの転換に向けた取り組み(目標)のことです。再生可能なエネルギーを使えば、当然CO2の排出量が減らせます。まだあまり知られてはいませんが、使う電力を100%再生可能なエネルギーで賄うことを目指しているグローバル組織があり、世界や日本の企業が自主的に参加しています。企業レベルの大きな話なので、一般的にはまだ実感しにくいですが、「2050年までに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標を菅首相が国際会議で発表したので、いずれは我々一般人にも何かしらのかかわりがこれから出てくるでしょう。
女性農家たちと「RE100」について考え始めてみると…
そこで先手を打って、自分たちは農業者という立場で何ができるのかを、NPO法人田舎のヒロインズの仲間たちと考え始めました。いざ「RE100」について話をしてみると、いかに農業者が化石燃料を使いまくっているかを思い知らされて愕然としました。トラクターをはじめとする農機具はもちろん、資材、化学肥料や農薬、それに農村には決して欠かすことのできない軽トラックや自家用車。はっきりいって、生産している農産物が生み出すエネルギー(つまりカロリー)より、それを作るために使っているエネルギーの方がずっと多いという残念な事実がありました。
誰かのせいというわけではなく、限られた人数で農地を耕し、農産物を生み出すためには仕方がない状況ではあるのですが…。
目標は高く、行動はできることから
なんとかできないものか。道のりは果てしなく長いですが、いよいよ女性農家のチャレンジがスタート!手始めに、トラクターとコンバインで使う燃料を、軽油からバイオディーゼルと呼ばれる植物性の燃料に切り替えました。さらに、新古品レベルの中古のソーラーパネルを納屋の屋根に設置。太陽光でできた電気を電気自動車に貯めて、家や倉庫で使うなど、昨年から今年にかけて「できることから」やっています。
もちろん、もっと小さなことからだっていいんです。小型の蓄電池に太陽光で発電した電気を貯めて、携帯の充電やちょっとした家電の電源にしてみるとか。これなら、災害が起きた時も手軽に持ち運べて役立ちますし、何より「自然の力を使って電気をつくっておく」という意識が生まれるだけでも意義があると思うのです。
気心の知れた友人の一人である山川さんも、自身のブログで私たちの取り組みを紹介してくれました。
たまエンパワー株式会社:社長BLOG~「農家の女性たちによる農業のRE100化のチャレンジ!」
天ぷらの匂いがするトラクター
熊本には、「純度99%」を誇るバイオディーゼルを生産している、“自然と未来社”という会社があります。使用済みの天ぷら油を回収し、汚れを取って、最後は蒸留するので品質が安定しているのだそうです。純度が悪い植物性の燃料を使うことで、機械が故障してしまうことが怖くて、バイオディーゼルの使用には二の足を踏んでいた夫ですが、そこから純度の高い燃料を購入することで解決!でも原料が使用済みの天ぷら油であることには変わりなく、窓を開けてトラクターを運転していると、天ぷらの匂いがプーンと漂います。おなかいっぱいになるので、ダイエットにいいかもしれません(笑)。
地球環境はもちろんのこと、お財布にも優しいかも!?
子どもが4人もいる我が家では、子どもたちの習いごとや遊びのための送迎だけでも、月に3,000kmぐらい走ります。前は、友人から格安で譲ってもらった燃費が悪い7人乗りを使っていましたが、昨年、思い切って電気自動車を購入。高価な買い物でしたが、ガソリン代を考えたら5年ぐらいで元を取るかも、と思い始めています。
売電価格が下がったとはいえ、太陽光発電も設置コストが安くなっていて、しかも我が家は中古のパネルを使ったので、電気代を考えたらずっとお得。温暖化防止対策とか脱化石燃料(RE100)は、なんだか儲かってる企業やお金がある人しかやれないイメージだったけど、実はむしろ節約になるかも!うん、これなら人にも勧められそうです。
お財布にも体にもやさしい薪ストーブ
阿蘇村に移住してすぐ、激安の薪ストーブを買いました。18年経って家族も増え、雨漏りをする家からいわゆる「本家」に移った今、あんまりみすぼらしいのもいかんよね、ということで、我が家にしては高額のストーブを購入。そのときの子どもたちの喜びようと暖かさの違いといったら…。プライスレスだ!と満足しています。さらに最近は、せっせと薪ストーブで調理もしています。受験勉強の息抜きに薪割り!?
熊本地震が発災する前に薪ストーブを使っていたときは、子どもたちはまだ小学生だったので、彼らは薪拾いが仕事で薪割りはお父さんの仕事でした。のちに聞くと、実は薪割りに憧れていたんだそう。「きょうび珍しいなぁ」と思いつつ、男子のDNAとしては、シンプルにかっこいいと思うんだと嬉しくなりました。そして、使えなくなっていた古い薪ストーブを熊本地震の後に買い替えたとき、息子たちが口をそろえて「薪割りしたい!」と言い出したのです。
既に私の身長どころか、父親の身長も超えそうになっている中学3年生の息子たち。親バカですが、斧を振り上げてパッカーンと薪を割る姿は、なんだかとってもカッコいい♪思春期の男子がやることにしちゃえらく健全だし、受験勉強の合間に体を動かす目的もあるしで、一石三鳥です!
農家が食べ物だけじゃなくエネルギーも生み出す存在になりたい
“食糧とエネルギーの自給率を増やしたい(連載第5回)”という話は以前も書きましたが、「農家が食べ物だけじゃなく、エネルギーもつくる存在になりたい」というフレーズは、就農当初からずーっと言い続けてきました。そんな私の想いに共感した地元の業者さんが、先日、我が家の庭(菜園)にソーラーシェアリングを設置してくれたのです!!6キロワットという、大きくはないけれど家庭用には小さくもない太陽光発電システムです。これは、広大な土地じゃなくてもやれることはある!ということを示すことができるモデルだと思うので、国内外にアピールしていきたいと思います。
就農20年まであと2年。少しでも理想に近づけるよう、精進していきます。
週間連載のコラムも掲載中!
【週間連載】家族経営農家の日常を配信「ハッピーファーマーズ日記」【毎月更新!】月間連載アーカイブ「農業なくして持続可能な社会なし」
大津 愛梨(おおつ えり)プロフィール
1974年ドイツ生まれ東京育ち。慶応大学環境情報学部卒業後、熊本出身の夫と結婚し、共にミュンヘン工科大学で修士号取得。2003年より夫の郷里である南阿蘇で農業後継者として就農し、有機肥料を使った無農薬・減農薬の米を栽培し、全国の一般家庭に産直販売している。
女性農家を中心としたNPO法人田舎のヒロインズ理事長を務めるほか、里山エナジー株式会社の代表取締役社長、一般社団法人GIAHSライフ阿蘇の理事長などを兼任。日経ウーマンの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」やオーライニッポン「ライフスタイル賞」のほか、2017年には国連の機関(FAO)から「模範農業者賞」を受賞した。農業、農村の価値や魅力について発信を続けている4児の母。
ブログ「o2farm’s blog」