田畑の周りの植物や空、風景が、私たちの暮らしと密接に繋がっていることを教えてくれる二十四節気。
春の間に芽吹いた若葉が開き始め、若い緑が爽やかに輝き出す「夏」の二十四節気と「農業」にまつわるお話を紹介します。
※二十四節気とは、1年の季節の移ろいを24等分の節目で表された暦。
※旧暦とは1872年12月3日を1873年1月1日とした新暦(グレゴリオ暦)以前に使用されていた、月の満ち欠けと太陽の動きから作られた太陰太陽暦。
2021年夏の二十四節気一覧と読み方
夏の二十四節気を紹介します。季節 | 二十四節気 | 新暦日付 |
夏 | 立夏(りっか) | 5月5日 |
小満(しょうまん) | 5月21日 | |
芒種(ぼうしゅ) | 6月5日 | |
夏至(げし) | 6月21日 | |
小暑(しょうしょ) | 7月7日 | |
大暑(たいしょ) | 7月22日 |
▼2021年の二十四節気一覧や春についてはこちらをご覧ください
夏の二十四節気
気温も上がり、太陽の光が十分植物に行き渡る夏は、農作物の生育も旺盛になり、収穫に向けてぐんぐん生長するため、農作業に関わりのある二十四節気が春に比べると増えます。夏を告げる立夏
春の二十四節気で紹介した種まきの目安となる「八十八夜(5月2日ごろ)」も過ぎたころ、夏を告げる「立夏」がやってきます。太陽の傾きが変わり、日も長くなって最低気温も上がるころです。
種まきの芒種
「芒種(ぼうしゅ)」の「芒」は、この漢字一文字で「のぎ」と読み、稲の穂先にある毛のような部分のことを言います。二十四節気においての「芒種」は、この「芒(のぎ)」をもつ作物の種をまく時期とされます。
ただ、二十四節気は中国から伝わってきたものなので、日本の気候と少しずれがあるため、そのころの日本では稲の種まきを終えています。
夏至
一年で最も太陽の登っている時間が長く、夜が短い日が夏至です。夕刻を過ぎても明るさが残っているため、農作業もついつい遅い時間までやってしまいます。夏至祭
世界で、特に北欧で太陽の力を尊ぶために行われる夏至祭ですが、日本でも開催されています。有名なのは、三重県の二見浦(ふたみがうら)にある二見輿玉(ふたみおきたま)神社で行われる夏至祭です。
夫婦岩の間から見える富士山からの御来光が昇るころ、禊(みそぎ)を行い、朝日を拝む夏至祭が開かれています。
※二見輿玉神社は、猿田彦大神(さるたひこのおおかみ)を祀(まつ)り、縁結びや夫婦円満などにご利益のある神社として人気の神社です。
農業に関係の深い夏の雑節
二十四節気は古来中国から伝わってきたため、緯度や地形の関係から中国と日本の気候には少しずれが生じます。そのため、日本の農業に合わせて設けられた季節の節目が雑節(ざっせつ)です。入梅
天気予報のなかった時代、夏至の約10日ほど前の入梅(にゅうばい)のころを梅雨の始まりとし、梅雨の期間を暦の上では約30日と決めていました。入梅は、清流のほとりでは蛍が舞い始める季節でもあります。
梅仕事
梅雨に入るころ熟し始めた梅の実で、梅干しや梅酒などを作る「梅仕事」が始まります。青梅は焼酎や砂糖に漬けて梅酒や梅シロップなどに、黄色く熟した梅の実は梅干しや梅酢などに使用します。
生のままではあまり食しませんが、木から落ちるほど完熟した梅の実は、果肉が柔らかくなり、味はスモモや桃に似ているので梅ジャムがおすすめです。
「梅はその日の難逃れ」といわれるので、農作業での夏の暑さを乗り切るため、梅の力を借りると良いかもしれませんね。
半夏生
夏至から数えて11日目を「半夏生(はんげしょう)」といいます。この時期に「半夏(中国の呼び名で、日本ではカラスビャク)」という薬草が「生えてくる」ため半夏生と名付けられました。「半夏生までに田植えを終わらせなければ収穫が減る」といわれるほど、農作業の大事な目安となる雑節です。梅雨の雨をたっぷりと吸収し、7月の日照りを受けてこそ稲は丈夫に育つのですね。
※七十二候の「半夏生ず」は、雑節の「半夏生」の由来。
半夏生にちなんだ風習
香川県では、農作業が一段落したころ農作業を手伝ってくれた人たちにうどんを振る舞い、労をねぎらう風習があり、半夏生を「うどんの日」として定めています。関西の方では、稲の根がタコの足のようにたくさん張りますようにということで、タコを食べる習わしもあるようです。
また、田んぼの神様に感謝を示すために田んぼや神棚にお供え物をするなど、各地でそれぞれの風習があります。
農業に関係の深い夏の七十二候
1年の季節の移ろいを、72の節目で表された七十二候(しちじゅうにこう)というものがあります。二十四節気よりさらに細やかに、季節ごとに起こる自然の変化を言葉で表現しています。特に農業に関わりの深い夏の七十二候を紹介します。
竹笋生(たけのこしょうず)
竹の子が生えてくるころです。孟宗竹(モウソウチク)の旬は3月中旬ごろからですが、真竹(マダケ)や淡竹(ハチク)、根曲竹(ネマガリタケ)の旬が5~6月ごろです。
夏の農作業~田水張る~
5月中旬以降5月下旬くらいまで、稲の苗を植え付け始めます。土が乾いている田んぼに水を流し、水田にすることを「田水張る」と言います。「田起こし」をして土を深くまで耕し、水を張ったあと「代掻(しろか)き」といって土の塊(かたまり)をほぐし、土と水を十分に混ぜて苗の根が張りやすいようにします。これら準備をして初めて、田んぼに稲を植え付けることができるのです。
竹笋生のころに行われる各地のお祭り
京都では5月15日に「葵(あおい)祭」が開かれますが、これは6世紀中ごろ大飢饉にみまわれた際、賀茂の神々を鎮め、五穀豊穣を願う祭として行われたのが始まりだそうです。東京の浅草では、5月第3週目の金・土・日曜日に「三社祭」が開かれ、初日には五穀豊穣を願う舞が披露されます。
このほかにも6月の田植え時期には、田んぼの神様に豊作を祈るお祭が全国各地で行われますが、なかでも代表的なお祭りは三重県志摩市の伊雑宮(いざわのみや)の「御田植祭(おたうえまつり)」、大阪府大阪市の住吉大社での「御田植神事(おたうえしんじ)」、千葉県香取市の香取神宮で行われる「香取神宮御田植祭(かとりじんぐうおたうえさい)」です。
田植歌を歌いながら田植えを行ったり、舞が披露されたりと、地域によって祭の内容はさまざまですが、神聖な行事として格式を守り行われています。
紅花栄(べにばなさかう)
紅花栄は、5~7月が開花期を迎える紅花が咲き渡るころです。紅花は開花当初は黄色で、日が経つにつれて紅色を濃くしていきます。
お化粧で使用される「紅」は紅花が原料ですが、この紅花の約99%の色素は黄色。残りのたった1%の紅色の色素を抽出するために作られています。
この紅色を抽出するには、摘んでから水に溶けやすい黄色の色素を水にさらして取り除く作業を繰り返し、紅色の色素を花びらに残したまま乾燥させます。さらにいくつもの工程が職人の技によって、紅花の紅色の純度を高めて丁寧に抽出されていきます。
紅花産業が盛んだった山形県
紅花は染料以外にも血行促進の生薬として活用され、種子から絞られる油は紅花油として用いられています。江戸時代初期から紅花生産が盛んだった山形県は、昭和57年3月31日に県花として制定されるほど、紅花の産地として有名です。
土潤溽暑(つちうるおいてむしあつし)
「土潤溽暑」の「溽」という普段なかなか使わない漢字ですが、「湿気が多くて暑い」という意味があります。この時期は夕立が多く、雨で湿って夕日が当たる地面からは暑い熱気が立ち上る様子を表しています。
土潤溽暑の最終日である(旧暦では月の始めである1日を朔日と呼ぶ)8月1日を八朔(はっさく)と呼びました。
この日は、穂が付き始めた若い稲をお世話になっている方へ贈る風習がありました。
田の実の節句ともいわれ「田の実」を「頼み」と通じさせて、日頃お世話になっている方々へ贈り物をすることによって、お互いの結束を深め合う大切な行事が行われていました。
季節の移ろいを感じる夏の二十四節気
今よりも大勢の人が農業に携わり、自然のなかに身を置いていたころ、二十四節気は大切な節目として暮らしに用いられてきました。気候の変化や植物の芽吹きに通じる言葉が多かった春に比べて、夏は作物の植え付けに関する節目で作物の生長を知ることができましたね。
皆さんもカレンダーに記されている二十四節気を知ることで、自然に合った暮らしにも目を向け、気持ちの良い毎日を送るヒントをもらいましょう。
▼農業と二十四節気のことならこちらもご覧ください。
参考文献:白井 明大(著)有賀 一広(イラスト)(2012)『日本の七十二候を楽しむ-旧暦のある暮らし-』東邦出版
本間美加子(著)井上文香(イラスト)(2019)『日本の365日を愛おしむ-毎日が輝く生活歴-』東邦出版