株式会社グリーンフィールドプロジェクト
松崎 英【株式会社グリーンフィールドプロジェクト】有機認証の中でも厳しいとされる「ヨーロッパ有機認証」を取得した、有機種子を輸入・販売。2017年には、日本の固定種を残すことを目的とした「SAVE THE SEED (セーブ・ザ・シード)プロジェクト」を開始。「有機栽培するなら、その種も有機種子であってほしい」という思いから、日本での有機種子の普及に尽力しています。 HP:http://gfp-japan.com/…続きを読む
種子販売会社の株式会社グリーンフィールドプロジェクト代表取締役・松崎英(ひで)さんに、そもそも種苗法とは何か、どのような内容に変更される法案だったのか、種子メーカーの観点からお話ししていただきました。
そもそも種苗法とは何か
改正法案が閣議決定され話題を呼んだ種苗法、そもそもどのような法律なのかあらためて確認していきましょう。種苗法は品種の育成の進行と種苗の流通の適正化を図る目的で制定された
1947(昭和22)年に制定された農産種苗法が一部内容と名称を変え「種苗法」となったのが1978(昭和53)年のこと。以来、種苗法は数年に一度の改正を重ねながら1998(平成10)年に全面改正され、現在の内容となりました。なぜ種苗法があるのか、何のためにこの法律が定められたのか、その理由は種苗法の第一章・第一条に書かれた「目的」を見るとわかります。
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする。
出典:「種苗法」(農林水産省)(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/tizai/syubyo/pdf/4-1.pdf)
種苗は食料の生産に欠かせない、国にとっていわば財産のようなものです。種苗が国民に届くように、また品種の開発者や育成者の権利を明確にして品種開発の環境を整えるためにも、育成者権を付与できる種苗法のような法律が必要なんですね。もし、品種を開発した人だけでなくどの人でも自由に種を生産して販売できるようになってしまうような状態では、開発に相応の資金を必要とする品種開発を、だれも手掛けたいと思わないでしょう。
時間と手間をかけて品種開発を行った者に一定の権利を与えようというのが、種苗法の目的なのではと考えています。
すべての種の自家増殖を禁止しているわけではない
前述の理由から、種苗法では特定品種の種苗の自家増殖を禁止しています。自家増殖とは、収穫した作物から種苗をとり、次の作付に使用することを指します。日本の農産物の品種は、大きく分けて一般品種と登録品種の2種類があり、そのほとんどが一般品種です。登録品種とは
登録品種とは、これまでの品種とは異なる形質を持ち、一般品種と明確に区別できる特性があるもの、また均一性や安全性などが認められ、品種登録されたものを指します。米でいえば「ゆめぴりか」や「つや姫」「青天の霹靂」といった品種が登録品種です。フルーツでは「シャインマスカット」「あまおう」「さがほのか」なども2020年時点では登録品種となっています。
また、登録品種は永続的に登録品種として保護されるわけではありません。権利の存続期間は25~30年で、期間が終了したのち、または年間登録料を期限内に納付しなかった場合、登録後であってもその特性が保持されていない場合には権利が消失します。
一般品種とは
一般品種とは、品種登録期間が終了したもの、これまで品種登録されていないものを指します。自家増殖が禁止されているのは登録品種のみですので、日本国内で栽培されている品種のほとんどは自家増殖が可能です。各都道府県で栽培されている主な品種と登録品種について、詳しくは下リンクをご参照ください。出典:「各都道府県において主に栽培されている品種(令和2年6月末現在)」(農林水産省)(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/b_syokubut/attach/pdf/hinshu-179.pdf)
種苗法改正案の内容、ポイントは2つ
日本の優良品種を守るために作られた種苗法ですが、今、日本の品種が直面しているリスクには対応していないため、2020年3月に改正法案が国会に提出されました。現在の種苗法では回避できないリスクとは
近年、日本で開発された優良品種が海外に流出していることをご存じでしょうか。代表例にシャインマスカットがあります。甘みが強く皮ごと食べられる高級品種のシャインマスカットの苗木が海外に流出し、中国や韓国をはじめ東南アジア等でシャインマスカットが別の名で販売されているのが確認されています。このままでは、日本の品種がどんどん海外に流出し、これまで以上に品種の開発元や日本の農家は大きな損害を被ってしまうでしょう。
改正のポイント
種苗法の改正案で、ポイントとなっているのが次の2つです。1つ目が、登録品種の自家増殖を許諾性にするということ。登録品種(原則自家増殖禁止とされている品目)を自家増殖したい場合は、育成者の許諾を得る必要があり、許諾料が生じる場合もあります。
2つ目が、育成者は登録品種の国内の栽培地域や輸出国を指定する利用条件を付けられるようになる点です。
育成者が登録品種の自家増殖を許諾した後、その品種の育成者の意図しない国に輸出したり、意図しない地域で栽培したりした場合、また海外に持ち出されることを知りながら種苗等を譲渡した場合には、刑事罰や損害賠償の対象になることもあるようです。育成者権の侵害罪は10年以下の懲役または1,000万円以下(法人は3億円)の罰金とされています。
なぜ種苗法改正案は問題視されたのか
種苗法は新しく育成された品種を保護し、日本の優良品種の海外への流出を防ぐことを狙いとしています。種苗の自家増殖も登録品種を禁止とするのみで、一般品種にはおよびません。ではなぜ、種苗法改正に対し反対の声が上がっているのでしょうか。自家増殖がすべての品種で原則禁止になるのではという不安感の増大
農家の自家増殖原則禁止に異議を唱え、ホームページ上で記事の無料公開(農家の自家増殖「原則禁止」に異議あり!農水省に、種苗法改定の動きあり|月刊現代農業2020年1月号)をしている農文協(農山漁村文化協会)は、同記事内にて「2016年にはわずか82種だった自家増殖できない品目が19年には387種にまで増えている」こと、そして農家の種苗の自家増殖は一律原則禁止とする議論がなされていたことに言及しました。これと同様に、「このままではすべての品種で自家増殖が原則禁止になってしまうのでは」「海外の企業が種苗を独占し、日本の農家が高い種苗を毎年買わなければならなくなるのでは」という不安の声が広がったのです。
今回の改正案では、登録品種は日本国内・海外どちらでも育成権者が種苗を使用できる地域を限定できる権利も付与されるようです。
現実の問題として、日本の優良品種が海外で名前を変えて増殖され、販売されている点をどうしたらいいのか、どんな手を打てばいいのかしっかりと考える必要があります。種苗法を改正しないとすれば、日本の優良品種の海外流出をストップする別の策を早急に講じなければならないでしょう。
種苗法に家庭菜園は含まれない
種苗法が改正されても、家庭菜園のような個人利用は規制の対象外です。自家消費や趣味として利用する分には問題ありません。これまで使っていた品種は登録できない
種苗法が改正され、実際に登録品種が増えていき、ほとんどの品種が自家増殖不可になって生産コストが増大するという不安の声もあるようですが、農水省はホームページで「在来種を含め、農業者が今まで利用していた一般品種は今後とも許諾も許諾料も必要ありません」(出典:「種苗法の一部を改正する法律案について」(農林水産省)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html)と明記しています。これはすでにある一般品種を新たに登録品種にすることができないためです。種子メーカーから見た種苗法改正
最後に、種苗法の改正案について松崎さんがどのように感じているのかお伺いしました。「将来的に自家増殖が一律禁止になったらどうする」という意見に対しては、現段階で出ていない話をリスクとしてとらえるのは時期尚早、そういう話が出てから再び議論すべきと考えています。
議論の中で、ヨーロッパやコロンビアのように、一律自家増殖が禁止され登録された品種しか栽培できない例が挙げられますが、それらの国ではこの決まりによって食の安全性を保とうとしている点が日本とは異なります。
登録された品種しか購入できないコロンビアでは、自家採種が一切できなくなり、それが問題になっているのは確かなようです。日本の財産である種を守りたい、その気持ちは皆同じであると思っています。今回の改正案に問題があるのなら、利用する側も代替案を出して品種を守っていきたいですね。
品種の開発者と日本の種苗を守るためにも、種苗法の改正案に一律賛成・反対とするのではなく、種苗法とその改正案について正しく理解し、今後の農業にどのように影響していくのかを考えてみる必要がありそうです。