そんな農業用倉庫を建てるときに必要な手続きを、米農家に勤務する筆者がわかりやすく解説します。補助金制度についても紹介しますので、資金面で悩んでいる人もぜひ参考にしてください。
農業用倉庫が必要な理由
農業を始めるにあたり、農地や農業機械だけをそろえればいいというわけではなく、倉庫という拠点も必要だということも念頭において準備しましょう。
倉庫に保管する物品〜米作りの場合
米作りを例に倉庫に保管しておくものをいくつか挙げてみます。農業機械
・トラクター・トラクターのアタッチメント
・乗用式(6条植え)田植え機
・コンバイン(5条刈り)
・ハイクリブーム
・乗用式溝切り機
・フォークリフト
・お米用の保冷庫
農業機械以外
・肥料・収穫したお米
▼米栽培に欠かせない農業機械のことならこちらをご覧ください。
保管する物品を盗難から守る
農業機械は保管しておく倉庫の体制が万全でないと盗難に遭う可能性があります。大切な農業機械が盗まれては大損害ですし、作業もできなくなってしまいます。埼玉県の調査結果では、平成31年1月~令和元年8月までの間にトラクターの盗難が17件、刈払機などの盗難は47件も発生しています。
参考:埼玉県庁 農林部 農業支援課 経営体支援担当 「農業機械の盗難に注意!」
▼農業用倉庫や圃場での防犯カメラ設置についてはこちらをご覧ください。
▼プレハブ倉庫や中古コンテナのことならこちらをご覧ください。
補助金や融資を利用
青年等就農資金
青年等就農資金は、これから農業を始める人を応援するための制度で、対象者は市町村から青年等就農計画の認定を受けた個人・法人の「認定新規就農者」です。貸付利率 | 無利子 |
借入限度額 | 3,700万円 |
償還期限 | 17年以内 |
据置期間 | 5年以内 |
認定新規就農者
認定新規就農者とは、農業経営を開始してから5年以内の原則18歳以上45歳未満の青年ですが、特例として45歳以上65歳未満の方も認定を受けることもあります。申請様式の作成前に要件等の確認のため、都道府県の普及指導センターや市町村、または日本政策金融公庫いずれかの機関に相談してください。
農業近代化資金
農業近代化資金は、JAバンクが行っている農業融資で、対象者は認定農業者、主業農業者、認定新規就農者、集落営農組織などです。対象者によって貸付利率が異なり、資金の使い道によって償還期限や据置期間も変わります。
貸付利率 | 年0.20% |
融資率 | 原則80%以内 |
借入限度額 | (個人)1,800万円 (法人、団体)2億円 (農協など)15億円 |
償還期限 | 資金使途に応じ7~20年以内 |
据置期間 | 2~7年以内 |
※実質無担保・無保証人での融資を受けることが可能
※農業信用基金協会の債務保証料を保証当初5年間免除
参考:農林水産省「農業近代化資金(新型コロナウイルス感染症)」
(https://www.maff.go.jp/j/g_biki/yusi/06/1_0641.html)(2020年6月28日に利用)
▼農業近代化資金について詳しくはこちらをご覧ください。
認定農業者
自らの創意工夫を盛り込んだ「農業経営改善計画」を市町村等に提出し、認定されれば国や都道府県、市町村などからの支援が受けられる制度です。参考:農林水産省「認定農業者制度について」
(https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/n_seido/seido_ninaite.html)(2020年6月29日に利用)
農地に農業用倉庫を建てる際の手続き
1. 農地法に基づく許可
農地は農地以外の目的には使用できないため、勝手に農業用倉庫を建てることはできません。農地法に基づく手続きを行って、都道府県知事や市町村長からの許可、または農業委員会へ届出を提出する必要があります。各種要件があるので、農業用倉庫を建てようと思ったら、まずは農業委員会への相談をおすすめします。
※農業委員会は市町村に設置された行政委員会で、農地転用案件へ意見を申し述べるほか、農地法に基づく売買・貸借の許可、遊休農地の調査・指導などを行う機関
無断で転用すると?
許可を受けずに農地を転用してしまうと、期間を定めた改善指導が行われます。従わない場合は原状回復命令や許可条件の変更、許可の取り消しといった処分が下され、3年以下の懲役、または300万円以下の罰金といった罰則を与えられる可能性もあります。
(https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/nouchi_tenyo-26.pdf)(2020年6月17日に利用)
自己所有地での転用面積が「2アール未満」の場合
転用面積が2アール(200平方メートル)未満の場合、許可は不要ですが、各市町村の農業委員会へ「農地を農業用施設用地に転用する届出書」を提出する必要があります。※転用面積は農業用倉庫の大きさではなく、軽トラックやトラクターといった農業に関する車両が農業用倉庫に入るための道路も含む
農地を農業用施設用地に転用する届出書
【届出先】
各市町村の農業委員会
【添付資料】
1. 案内図
2. 公図
3. 計画平面図(敷地含めて200平方メートル未満のものに限る)
4. 求積図(一筆の一部分を利用する場合)
5. 農業用施設の平面図
自己所有地での転用面積が「2アール以上」の場合
所有者が2アール以上の農地を転用する場合は「農地法第4条許可」です。第4条の許可申請書(農地転用許可申請書)
【届出先】
各市町村の農業委員会
【添付書類】
1. 位置図(縮尺1/10,000から1/50,000)
2. 付近見取図 (住宅地図等)
3. 土地の登記事項証明書(全部事項証明書)
4. 公図の写し
5. 事業計画書
6. 土地利用計画図及び排水計画図
7. 施設の平面図及び立面図
8. 資金計画書並びに資力及び信用があることを証する書面
9. 被害防除計画書
10. その他(申請内容に応じて必要な書類)
所有者以外が転用するとき
人から農地を購入、または借りて転用する場合は「農地法第5条許可」が必要です。第5条の許可申請書(農地等の転用のための権利移動許可申請書)
【届出先】
各市町村の農業委員会
【添付書類】
第4条の許可申請書の添付書類と同じ
2. 建築主事の許可
農業用倉庫の工事を始める前に、建築主事に「建築確認申請書」を提出して建築基準法等の基準に適合しているかどうかの審査を受ける必要があります。用途地域や条件によってはさまざまな制限や、申請の要・不要などがあるため、工事を依頼する建設会社、建築物の設計を設計士の資格を持つ人などに相談、依頼しましょう。※建築主事とは、建築確認を行なう権限を持つ地方公務員で、一定の資格検定に合格し、国土交通大臣の登録を受け、知事または市町村長が任命
工事着工前
建築物を工事する前に民間の検査機関が行い、着工前に提出して確認済証の交付を受けます。※建築基準法関係申請・通知手数料については各自治体HP参照(市街地建築部など)
確認申請書
【提出先】
計画の建築物等の建設地を業務区域にしている国土交通大臣、都道府県知事の指定を受けた民間指定確認検査機関、特定行政庁の建築主事
【添付書類】
1. 建築計画概要書
2. 建築工事届
3. 消防建築同意書あるいは消防通知書
4. 公図の写し
5. 事務所登録書の写し
6. その他必要書類
工事着工後
建築工事が完了した日から4日以内に建築主事に申請をして、完了検査を受け建築確認完了「検査済証」の交付を受けます。完了検査申請書
【提出先】
計画の建築物等の建設地を業務区域にしている国土交通大臣、都道府県知事の指定を受けた民間指定確認検査機関、特定行政庁の建築主事
【添付書類】
委任状(代理者による申請の場合)など
3. 農業委員会に申請
農業用倉庫を建てたら農業委員会に「農地の地目変更登記にかかる転用確認証明申請書」を提出します。農地の地目変更登記にかかる転用確認証明申請書
【提出先】
農業委員会
4. 法務局に申請
工事が完了してから1カ月以内に行わなければなりません。手続きをしなかった場合は10万円以下の過料に処されます。倉庫の工事が完了したら忘れずに法務局に地目変更登記を申請してください。
地目変更登記申請書
【提出先】
法務局
【添付書類】
1. 農地転用許可証などの農地関連書類など
2. 土地の案内図
出典:「オンラインによる登記事項証明書等の交付請求(不動産登記関係)について」(法務省)(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji73.html)(2020年6月17日に利用)
費用
地目変更登記は個人でも行えます。費用の負担は以下の実費分のみです。書面請求(円) | オンライン請求・送付(円) | オンライン請求・窓口交付(円) | |
登記事項証明書 | 600 | 500 | 480 |
地図などの証明書 | 450 | 450 | 430 |
農業機械は防犯対策しながら保管しよう
農業用倉庫を建てる際には、さまざまな手続きが必要ですが、ルールを守らないと罰則を与えられる可能性があることもお忘れなく。新たに農業用倉庫を建てようとお考えの方は、ルールに基づいた手続きを行い、所有する農業機械やこれからの経営計画も含めて準備しましょう。