ここでは業務用米の中でも主食用を中心に紹介していきます。
業務用米とは?|家庭用米との違い
業務用米と一般的に栽培されている主食用のお米(家庭用米)との違いや、メリット・デメリットを紹介します。家庭用米との違い
業務用に使用される多収米とは一般的に栽培されている主食用の「コシヒカリ」や「あきたこまち」などの品種(一般米)よりも「多く収穫できるお米」のことです。収量は品種や栽培方法により異なりますが、10〜30%以上多く収穫できる品種です。令和元年産の全国の平均収量は10a当たり528kgですが、2019年にJA全農が実施した「令和元年度JA全農契約栽培米多収コンテスト」で会長賞を受賞した岡山県の生産者は、なんと10a当たり800kgの収穫がありました。
参考:農林水産省 令和元年産水陸稲の収穫量
業務用米の価格と売上のイメージ
低価格帯(14,000円未満)で取引されている傾向がある業務用米の需要は、年々増えつつあります。平成29年産米と平成30年産米の価格を比較してみました。平均価格と取引価格の推移
平均価格をみると平成29年産の価格が60kgあたり14,000円未満の銘柄では約700円増加しています。60kgあたり14,000円未満の銘柄の平均価格 | |
平成29年産米 | 13,802円 |
平成30年産米 | 14,521円 |
価格差 | +719円 |
取引価格が最も上昇した銘柄では、1,400円ほど上昇しています。
ヒノヒカリ 60kgあたりの取引価格 | |
平成29年産米 | 13,692円 |
平成30年産米 | 15,179円 |
価格差 | +1,487円 |
平均価格や取引価格の上昇は、仕入れ費用と需要の増加と連動しています。つまり、低価格帯で取引される業務用米を求める声は増えているといえそうです。
収量で収益増加を狙う!
業務用米は比較的安価で取引されていますが、その分収量でカバーできるため、うまく活用できれば同等かそれ以上の収益を得ることができます。また、中食・外食産業と連携し、複数年での契約栽培ができれば、さらに安定した収益を確保することができるんです!業務用米は品種特性や気候条件だけでなく、販売先を事前にしっかりと検討・想定しながら導入することがポイントです。
<10aあたりの収量と売上の例>
10aあたりの収量 | 60kgあたりの取引価格 | 10aあたりの売上 | |
家庭用米 | 500kg | 15,000円 | 125,000円 |
業務用米 | 650kg | 12,000円 | 130,000円 |
業務用米の弱点
多収米には、米粒の一部が白く濁る、背白・腹白が発生しやすくなるという弱点があります。この状態になると一等米比率が低くなり、見た目も悪く、店頭販売される家庭用米には向きません。しかし、炊飯すると一般米との差がほとんどなくなるため業務用として使うならば問題になりません。
業務用米がまずいのは昔の話
かつては業務用米=まずいというイメージが根強くありましたが、近年ではおいしくて収量の多い「良食味多収米」の品種改良が進んでいます。温かいご飯、お弁当・おにぎり、チャーハンなど使用する用途に応じた開発もされています。炊飯器での保温を続けた場合でもおいしさが持続されているとの結果もあり、業務用で利用するのにも適しています。業務用米のおすすめ銘柄
業務用米は、農地の大規模化や中食・外食産業からの需要増の背景もあり、品種改良がどんどん進んでいます。ここからは一般米よりも収量が多く、食味が良いとされる多収米の注目品種を紹介します!
つきあかり
・育成:農研機構・熟期:早生
・適地:東北中南部、北陸、関東東海以西
食味評価が高く、保温した際の劣化が少ない品種です。高温登熟にはやや強いですが、腹白が出る場合があり外観品質が劣る傾向があります。草丈が短く、倒伏抵抗性は高いのが特徴です。
「つきあかり」は日本穀物検定協会の食味官能試験で「コシヒカリ」と同等以上と評価されました。新潟県上越市の学校給食にも採用されています。
とよめき
・育成:農研機構・熟期:早生
・適地:東北南部以西
極多収の「やまだわら」と良食味品種「イクヒカリ」の交雑後代より育成された品種です。前述の「令和元年度JA全農契約栽培米多収コンテスト」で会長賞を受賞したお米はこの品種です。耐倒伏性はやや高く、多肥栽培でさらに多くの収穫が見込めます。縞葉枯病、葉いもちへの抵抗性が低いため注意が必要です。
にじのきらめき
・育成:農研機構・熟期:中生
・適地:北陸、関東以西
高温耐性のある「なつほのか」と良食味の「北陸223号」の交配から育成された品種です。草丈はコシヒカリよりもやや短く、収量は15%程度多くなります。耐倒伏性にすぐれていますが、白葉枯病に弱いため、常発地では注意が必要です。大粒で外観品質が優れるため某カレーチェーンでも使用されています。
大粒ダイヤ
・育成:株式会社トオツカ種苗園芸・熟期:東北は晩生、北陸関東以西は中性、近畿以西は早中生、九州は早生
・適地:東北南部以南
「夢ごごち」に多収品種の「ホシアオバ」を交配させて育成した品種です。非常に大粒で、粒の大きさを示す指標である千粒重(1000粒の重さ)は「コシヒカリ」よりも約7gも重い28gとなっています。食味はほどよい粘りがあり、冷めてもおいしいといわれています。栽培においては、収穫前に実った子実から芽が出る穂発芽が発生しやすいため、倒伏や収穫時期に注意が必要です。
あきだわら
・育成:農研機構・熟期:中生の晩
・適地:関東・北陸以南
多収の「ミレニシキ」と良食味品種の「イクヒカリ」を交配して育成された品種です。一穂籾数(1つの穂に対する籾の数)が多く、コシヒカリよりも30%程度の多収が期待できます。コシヒカリ同様にいもち病と縞葉枯病に弱いため適正に防除する必要があります。
栽培の注意点|省力化と効率化がポイント!
業務用米の栽培に関する管理のポイントや省力化・効率化を進めるために大切な項目を紹介します。業務用米は、大規模・農地集約による省力化や直播栽培などの工夫次第で収益性を上げられる可能性があります。管理のポイント
品種の選定
栽培する品種は、手間をかけずに収量を確保でき、多肥栽培や直播栽培に適した耐倒伏性の高いものがおすすめです。また、農薬の使用量を削減するために病害虫抵抗性のある品種にも注目してみてください。種子消毒と播種量
種子の温湯消毒を実施することで、いもち病やばか苗病の発生を抑制し、薬剤のコストをかけずに収量の確保につなげることができます。また播種の際、大粒の品種については、通常の品種と同じ播種量では移植時の欠株や直播時の出芽率が低くなる恐れがあるため、注意が必要です。施肥・その他管理
より多く収穫するには多肥が向いているといわれており、収量目標を720kgとした場合の「あきだわら」では総窒素施肥量は10a当たり12kg程度の施用が推奨されています。また、追肥は生育状況をみながら、出穂25日前と15日前の2回実施することで適正な籾数を確保することができます。収穫については刈り遅れに注意し、籾の黄化率80〜85%になった時点で収穫を実施してください。省力化・効率化のポイント
農地の集積・団地化
栽培管理の省力化、効率化を図るために、圃場はなるべく集積し、近距離の区間に集約(団地化)していくのがポイントです。また、周辺の農家と連携し、経営の組織化をすることで設備投資の軽減、作業の集約をすることも方法の一つです。輪作体系
栽培する地域の気候や条件に合わせて効率的な輪作体系を構築すると、土地利用率が上がります。代表的な例としては、小麦の栽培も含めて、2年3作の輪作体系を取り入れている産地があるように、各地でさまざまな取り組みが実施されています。岐阜県では下記のような3年5作の輪作体系を目指した取り組みが行われています。
<岐阜県の3年5作輪作の参考例>
1作目:1年目6月〜みつひかり(多収米)
2作目:2年目5月〜にじのきらめき(多収米)
3作目:2年目11月〜タマイズミ(小麦)
4作目:3年目6月〜ハツシモ(一般米)
5作目:3年目11月〜タマイズミ(小麦)
参考:農林水産省 稲作コスト低減シンポジウム