この記事では、直播栽培を導入する際に必要な情報やメリット・デメリットなど詳しく説明します。労働力不足などの課題を解決するためにも、直播栽培を検討してみてはいかがでしょうか?
直播栽培とは
種をそのまま水田へ種を播く直播栽培。育苗管理が必要なくなるため、労働力不足が深刻化する中で、労力が減るメリットがあり注目されています。「直播」の読み方と意味
直播には「ちょくはん」「じかまき」「ちょくまき」という読み方があります。意味としては字のごとく直接、田んぼや畑に種を播(ま)くことを指します。稲の直播栽培以外にも、畑に野菜の種を直接まく場合も直播という言い方がされます。直播の種類
直播栽培の手法は、大きく「湛水直播」と「乾田直播」の2種類に分類されます。さらに耕起や代かきの有無、播種方法など細かく手法が区分されます。湛水直播(たんすいちょくはん)
播種前に水を入れる手法で、移植栽培のように播種前には代かきを実施することが一般的です。種子を薬剤などでコーティングし、出芽率を高める方法が確立され、現在では「湛水直播」を実施している面積の方が多く、北陸地方や東北地方を中心に年々増加傾向で推移しています。播種の方法には専用の播種機を用いた条播や点播、ドローン、ヘリコプターを使った散播などがあります。
種子のコーティングとは?
種子コーティングは薬剤などで種をコーティングして発芽率を高める方法です。代表的な手法は「カルパーコーティング」といい、コーティング装置を使って種籾に「カルパー粉粒剤」を付着させます。この薬剤には過酸化カルシウムが含まれており、土壌中の水分と反応して酸素を発生させて種の出芽を促進します。ほかにも「鉄コーティング」や「べんがらモリブデンコーティング」という手法もあります。
乾田直播(かんでんちょくはん)
乾田直播は、圃場に水を入れず、乾いた状態で種を播き、2葉期(2枚目の葉が伸びきった時期)以降に入水をする手法です。この手法は、岡山県を中心に取り組まれてきましたが、「不耕起V溝直播機」と呼ばれる特殊な播種機の登場により出芽率が向上し、愛知県を中心に東海地方で普及が進んでいます。
直播栽培導入のメリットとデメリット
直播栽培は、労力軽減の利点ばかり見えますが、実はデメリットもあります。導入する際は、栽培方法や経営状況を踏まえて、デメリットをうまく解消できるように準備しましょう。直播栽培導入のメリット
省力化、コストダウンなど直播栽培を導入することで得られる、さまざまなメリットを紹介します。労力の軽減とコストダウン
直播栽培では、単純に育苗や田植えの手間が少なくなり、管理に関わる施設やコストも軽減できます。育苗には10a当たり3.47時間かかります。一般的には大規模化が進んでも育苗に必要な時間は軽減されず、スケールメリットが発揮されにくい作業です。また直播栽培では田植えのときに苗を補給する作業もなくなります。【移植栽培|稲作における10a当たりの労働時間】
・種子予措:0.35時間
・育苗:3.47時間
・耕起整地:3.77時間
・田植え:3.88時間
・収穫:4.06時間
・乾燥調整:1.35時間
参考:農林水産省 水稲直播栽培の現状について
作業ピークの分散と複合化・面積拡大
従来の移植栽培では、春に育苗の作業がありましたが、直播栽培ではその時間をほかの野菜や作物の栽培に使うことができます。そのため、お米以外の農作物の導入や作付け面積を拡大することも可能です。また、直播栽培では収穫が1〜2週間程度遅いため、移植栽培と組み合わせて導入することで作業のピークを分散させることができるんです!
直播栽培導入のデメリット
省力化などさまざまなメリットのある直播栽培ですが、栽培が難しく高い技術力が必要とされており、現状では大きく3点のデメリットがあげられます。出芽・苗立ちが不安定
酸素欠乏や土中の埋没、水性生物、鳥害などさまざまな要因により出芽や苗立ちが不安定になります。倒伏のリスクが高い
直播栽培では根が浅くなりやすいため株全体が地際から傾き、倒伏してしまうことがあります。設備投資や資材費が必要
直播では専用の播種機やコーティング装置が必要なため機械費が増えます。また、特殊な栽培方法のため、移植栽培に比べ雑草防除や病害虫防除を含む資材費用も増える傾向にあります。直播栽培の注意点
直播栽培は移植栽培と比べ生育に違いがあり、さまざまな注意点があります。ここからは、普及が進んでいる「湛水直播」について特に大切な点を紹介します。参考:農林水産省 水稲湛水土壌中直播栽培の手引き
湛水直播に向く品種の選定
移植栽培と比べて倒伏のリスクが高いため、短幹で倒伏に強い品種が良いとされています。また熟期が遅くなるため、事前に早晩性を確認しておくことが大切です。
下記のとおり直播栽培に適した品種の改良も進んでいますので参考にしてください。
直播栽培に適した品種
・どんとこい
・いただき
・イクヒカリ
・萌えみのり
・しふくのみのり
・たちはるか
適切な催芽
過度の催芽により、芽が伸び過ぎてしまった場合はカルパーコーティング中に芽が折れ、出芽率が低下するため注意が必要です。注目の浸種用機能水器「苗清水(TM)」についてはこちら
丁寧な代かき
田面の高低差目標を3cmにすることで、播種した種の深さが安定し、その後の初期生育も良好に推移します。湛水直播の播種の時期
早い時期の播種は出芽率が低下するため、平均気温が15℃以上になる時期を目安としましょう。播種の深さは1cm程度が目安です。覆土が不十分な場合は「浮き苗」の原因になるほか、鳥害も受けやすくなるため注意してください。水管理
播種直後に10日程度落水をすることで根の伸長が促進され、出芽の安定・浮き苗の抑制に効果があります。その後は、根の伸長が阻害されるため、いきなり深水にせず生育に合わせて徐々に水深を増していきましょう。移植栽培に比べて草丈が低く、日光がよく当たり、有効茎数が確保された後も分げつが発生しやすいため状況に応じた深水管理が必要です。雑草防除
稲の出芽前後から雑草が生え始めます。播種後の落水管理により、湛水下では発生しにくいイヌビエやアゼガヤなどの発生が助長されやすいため、直播水稲に登録された除草剤を適切に使用しましょう。鳥害防除
直播では鳥に種子を食べられてしまうことがあるため、落水管理や覆土をしっかりするなどの対策が必要です。将来を見据えてチャレンジする価値あり!
直播は、労力が軽減できるという点においては大きなメリットがあります。近い将来、土地の集約化・作付け面積の大規模化が加速していくことを想定すると、省力化は大きなポイントになるため、直播に挑戦する価値はあるはずです。ただ、平成29年のデータでは全国で約3.3万haと全水稲作付面積約146万haの2.3%程度(参考:農林水産省 水稲の直播栽培について)となっており、全国的に普及しているとは言い難い状況です。また収量が低く、資材費も多く必要になるとの懸念もあります。直播栽培を導入する際には、規模拡大やほかの作物と組み合わせた複合経営など、省力化の効果を最大限に活かせるように工夫して取り組んでみてください。