固定種/在来種/F1種の違いは?
固定種とは、親から子またその子へと、同じ形質が代々受け継がれている種のことをいいます。一方、現在、広く流通している種子は「F1種」と呼ばれるもので、その違いは育種と形質の現れ方など多岐にわたります。固定種の一種である在来種には文化的な価値がある
長い時間をかけて味や形といった形質が固定された固定種。古くから日本各地で栽培され形質が固定された伝統的な在来種も、固定種の一種です。日本では、各地域ごとに特色のある野菜が作られてきました。加賀野菜や京野菜など、近年注目を集める伝統野菜も多くあります。
松崎氏「生産の効率化を求めて、『形が同じで早く育ち、病害虫に強い』F1種が農業者の間で浸透していく中で、多くの在来種や固定種が姿を消しました。種苗会社から見ても、一定の地区の少数の農業者に販売するような在来種では、思ったような利益が得られないことから、より多くの農業者に販売できるF1種の取り扱いが増えていった経緯があります。
F1種は生産者の栽培の効率化に大きく貢献しましたが、在来種の持つ文化的な価値についても目を向け、守り続ける必要があると考えます。多様性に富んだ日本ならではの食文化、それを支えてきた在来種の価値は計り知れません。F1種と在来種、どちらも日本の農業と食生活に欠かせない大切なものといえるでしょう。」
固定種とF1種の違い|形質と育種や育て方
前述の通り、固定種は形質が代々受け継がれ、固定された種のことです。F1種は、「雑種第一代は顕性(優性)の法則によりすべてに顕性(優性)の形質が現れる」メンデルの法則を利用している種で、F1種を播種すると味や形などの形質が同じで、かつ発芽、生育のタイミングもそろうことから大量生産に適した種として多くの農業者に選ばれています。固定種は、形質が固定された種ではあるものの、発芽や生育にばらつきがあるため、松崎氏いわく「大量生産よりものんびりと栽培を楽しむ家庭菜園向き」であるといいます。また固定種とF1種は、そもそも育種の方法にも違いがあります。
松崎氏「固定種を作るときには、作りたい野菜の形や味に最も近いものを選抜していき、長い年月をかけて形質を固定させていきます。F1種では、交配によって目指している形質を持った野菜が生まれたあと、その親それぞれを完全な純系に近づけ、それを交配させて交雑種を作ります。
固定種をつくることは個人でも可能ですが、F1種を個人で作るのは技術的に難しく、種苗メーカーが作ることがほとんどです。
固定種とF1種の違い|第2世代
また、固定種とF1種には決定的な違いがあります。それは「次世代に形質を受け継ぐかどうか」という点です。F1種の場合、顕性(優性)の法則によって第1世代は同じ形質を持った作物を収穫できます。しかし、第2世代以降になると、潜性(劣性)の形質が一定の割合で出現してしまうため、第1世代と同じ形質のものを収穫できるとは限りません。F1種では、世代が進むごとにどんどんと異なる形質が出現し、収益性が下がる可能性もあります。一方固定種では、第2世代以降も同じ形質の作物を収穫できます。すなわち、農家は固定種から採種した種を使って、翌年以降も同じ形質の作物を栽培することができるのです。
固定種とF1種の違い|病虫害への耐性
固定種とF1種には、病虫害への耐性にも違いがあります。固定種はF1種に比べて、病気に弱く、形が不ぞろいといった特徴があります。F1種は、病気や害虫を寄せ付けない顕性(優性)の形質を持つ種子を交配させて、病虫害に強い作物を作っているのが特徴です。これらの特徴とあわせて、形もそろっており見目がよく、販売しやすいこともF1種が多くの農家に受け入れられている理由です。固定種=有機種子ではない
固定種とF1種を比較する中で、「固定種は安全」「F1種は不安」といった話を耳にするかもしれません。中には、遺伝子組み換え作物と混同して「F1種の野菜を食べると体に影響がある」と考える人もいるようですが、F1種を作るにあたり、遺伝子組み換え技術は使われていません。また、有機栽培の野菜から自家採種を行う方がいるためか、「固定種」と聞くと有機種子のようなイメージを持たれることもあるようです。しかし、有機種子・非有機種子と固定種・F1種はまったくの別物であると松崎氏は語ります。
松崎氏「有機種子とは、播種から採種までの間、農薬や化学肥料を使用しないで栽培した種子を指します。固定種でもF1種でも、有機種子はありますし、非有機種子も存在します。」
固定種や在来種はその土地になじみやすい傾向も
昔からその地域で作られてきた在来種は同じ地域の土になじみやすく、自家採種の種は、採種した土地の土になじみやすいといいます。松崎氏「農薬や化学肥料を使わないばかりか、畜糞たい肥なども使わない自然栽培では、土になじむ自家採種固定種を使用するケースが多くあります。これは昔からある農業のスタイルですが、土になじむ種は育ちがよいのが特徴です。
ただし、このように、気候や土壌にあった『適地適作』を続けていると、Aという土地ではトマトは育つけれどごぼうは思ったように採れない、流行の作物を作ろうと思っても、その作物が作れないといったこともあります。」
おすすめの固定種は通販で購入可能
出典:写真AC
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育て方やおすすめの植物についても、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
グリーンマーケット|株式会社グリーンフィールドプロジェクト
固定種・在来種は家庭菜園で楽しめる種。有機農業や自然栽培にも
日本各地の気候・風土にマッチし、古くから栽培されてきた特徴的な形質を持つ在来種や、形質が固定されて代々受け継がれていく固定種は、生育にばらつきがあり大量生産には向きませんが、家庭菜園には向いています。有機農業や自然栽培でも、その土地の土壌に合う固定種・在来種が好まれているようです。まずは小規模から作物を栽培したいのなら、固定種の栽培から始めてみませんか?