各種資材に重機の燃料代、種苗代に人件費。たくさんのお金をかけたのにもかかわらず、凶作や災害でほとんど収入を得られないことが確定したとき、補償制度がなければ廃業を余儀なくされる農家が出てきてしまいます。
農業共済組合、通称NOSAIは、そんな農家の「困った」を助ける農業共済事業・収入保険事業を行う団体です。ここでは、農業共済組合の事業である農業共済について、2019年1月から新たに始まった収入保険との違いも交えて詳しく解説します。
農業共済組合は何をしている団体?
農業共済組合(NOSAI)は、国が定める農業保険法に基づいて農業共済事業を行う団体です。農業共済とは、農業保険制度に加入したい農家が掛金を出し合って、万一の際にお互いの収入を助け合う制度として昭和4年に誕生しました。
農業共済組合は、農業共済の引き受け業務や災害認定業務、共済金の支払い業務、家畜診療所の運営などを行っています。
農業共済の加入は義務ではない
農業共済への加入は、農家の義務ではありません。しかし、2018年までは米や麦などの農業共済は自動的に加入する「当然加入制」がとられていました。2019年現在は、これらも任意加入に変更されています。農業共済組合が取り扱う共済の種類
農業共済組合で取り扱う共済の種類は次の7種です。・農作物共済
・畑作物共済
・家畜共済
・果樹共済
・園芸施設共済
・建物共済
・農機具共済
農作物共済
水稲、陸稲、麦を生産する農家の収入が、災害によって減収が見込まれる際に補償される共済。風水害や干害、冷害、雪害、火災、病虫害、鳥獣害などが補償の対象です。各地域の組合が定める面積以上を耕作している農家が加入できます。畑作物共済
馬鈴薯、大豆・枝豆、小豆、インゲン、甜菜、サトウキビ、一番茶、ソバ、スイートコーン、タマネギ、カボチャ、ホップ、蚕繭を生産する農家の収入が、災害によって減収が見込まれる際に補償される共済。農作物共済と同じく気象を原因とする災害やその他の害が補償の対象です。各地域の組合が定める面積以上を交錯している農家が加入できます。
家畜共済
死亡または廃用となった家畜を補償する死亡廃用共済と、病気やケガの診療費を補償する疾病傷害共済の2種類があります。共済対象家畜 | 種類 |
牛 | 搾乳牛、育成乳牛、繁殖用雌牛、育成・肥育牛、乳用種種雄牛、肉用種種雄牛 |
豚 | 種豚、特定肉豚、群単位肉豚 |
馬 | 繁殖用雌馬、育成・肥育馬、種雄馬 |
果樹共済
柑橘類やリンゴ、ブドウなどの果樹が災害によって減収が見込まれるときに共済金が支払われる収穫共済と、樹体が枯死・流失・滅失したときなどに共済金が支払われる樹体共済の2種類の共済があります。気象を原因とする災害やその他の災害が補償の対象です。
加入できるのは各組合が定めている一定面積以上の果樹を栽培している農家で、加入した農家は、対象となる果樹すべてにおいて共済への加入が求められます。
園芸施設共済
パイプハウスやガラス温室など、特定園芸施設が災害による被害を受けた際に、施設の資産価値の8割を上限に補償される共済です。園芸施設共済には、必ず加入する特定園芸施設部分と、加入を選択できるオプション部分があるのが特徴です。例えば、ビニールハウスではパイプハウス本体と被覆材のビニールの加入が必須となり、冷暖房施設、施設内の農作物、撤去費用、復旧費用などはオプションで加入することになります。
建物共済
農家が所有し管理する建物や家具・農機具、保管していた米・麦・大豆などが火災や落雷によって被害を受けたときに共済金が支払われる建物火災共済と、風水害、雪害、地震などによって被害を受けた時に共済金が支払われる建物総合共済の2種類があります。この共済には加入限度額があり、それぞれ建物火災共済が6,000万円、建物総合共済が4,000万円までとなっています。
農機具共済
共済期間原則1年の農機具損害共済と、農機具の更新資金を積み立てる、共済期間3年以上の農機具更新共済があります。それぞれ、新しく購入する農機具が5万円以上でなければ補償されません。加入限度額は2,000万円で、農機具損害共済の場合には気象を原因とする災害やその他の災害、衝突、接触、墜落、転覆、異物の巻き込み、盗難などが補償の対象です。
農機具更新共済の場合には、農機具損害共済と同様の内容に加えて、共済責任の終了や満了にともなう経年原価も補償の対象になります。
2019年からは収入保険事業もスタート
2019年1月からは、農業共済事業に加えて収入保険事業も開始されました。農業共済と収入保険はどちらも農家の収入を補てんして経営の安定に寄与する保険制度ですが、その内容には違いがあります。収入保険とは
収入保険は、農家の経営努力だけでは避けられない自然災害や、農産物の価格の低下によって売り上げが減少した際、減少分を補償してくれる保険制度です。農業共済制度とは異なり、補償の対象となる農産物が限定されておらず、どのような農産物でも保険の対象になります。収入保険に加入すると、売上が大きく下がったとしても平均収入の8割以上が補償されます。
収入保険について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
農業共済と収入保険を比較
農業共済と収入保険には次のような違いがあります。共済・保険期間
農業共済の場合は、加入する共済によって共済の期間が異なります。収入保険の場合は、どの作物に対しても保険期間は1年間です。補償されるリスクの違い
農業共済は、米や麦、果樹、家畜など、あらかじめ決められた品目が自然災害などによって損害を被った際に補償されます。収入保険では、原則すべての農産物が対象で、かつ自然災害にとどまらず、農業者の経営努力では避けられない要因による収入の減少(基準収入の9割を下回った場合)を補償します。
加入条件
農業共済では、野菜などの農作物の場合、各組合が定める面積以上に耕作している農家が加入の対象です。収入保険では、青色申告による申告の実績が1年以上ある農家が加入の対象となります。農業共済と収入保険、どう選ぶ?
農業共済では、補償される品目と条件が細かく定められていますが、収入保険ではどのような場合に補償が行われるのでしょうか。また、どちらに加入したらよいのでしょうか。野菜を栽培している農家は収入保険か野菜価格安定制度(価格下落補てんタイプ)
農業共済ではほとんどの野菜が対象になっていませんでしたが、収入保険では、気象を原因とする災害やその他の災害によって設備が壊れて栽培や出荷ができなくなったとき、収量や品質が低下したとき、野菜の価格が低下したときなど、さまざまな条件で農家の収入が減少した際に補償が行われます。あらゆる野菜が対象となりますが、価格下落を補てんする「野菜価格安定制度」に加入している場合には、収入保険に加入できません。