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- MitsuyaNao
埼玉県の山奥で、約1反のブルーベリー畑を管理しています。ハイブッシュとラビットアイを約20品種栽培中。野菜、花、ハーブなども育てています。AGRI PICKでは、家庭菜園や園芸の初心者に向けた記事を中心に担当。他メディアでも多数執筆中。…続きを読む
「接ぎ木」は果樹の増やし方の一つ
接ぎ木とは、土台となる木に、別の植物や品種の木をつなぎ合わせることです。つなぎあわせたい芽や枝を「接ぎ穂」または「穂木」といい、元になる根を持つ下部を「台木」といいます。挿し木と同じく、果樹の増やし方の一つです。果樹は、挿し木か接ぎ木で増やす
果樹を種から育てることは、ほとんどありません。受粉で作られた果樹の種は、めしべの品種とおしべの品種の両方の性質を受け継ぐため、品種Aの種を採取しても、実際は品種BやCの性質をあわせ持った、まったく新しい別の品種になってしまいます。たとえば、ブルーベリーの品種「デューク」から種を採取しても、それはもう「デューク」ではない、ということです。しかも種から、実が付くような果樹に育てるまでには、かなり時間がかかります。
そのため果樹は、「挿し木」か「接ぎ木」のどちらかで増やすのが一般的です。果樹や花木の苗を買うとき、よく見ると「挿し木苗」「接ぎ木苗」と書かれていることがありますが、これはその苗がどんな方法で増やされたかを示しています。
「挿し木」については、こちらの記事を参考にしてください。
接ぎ木で果樹を育てるメリット
接ぎ木は成功すれば、果樹はより丈夫に育ち、生長も早くなります。また、品種の欠点を補ったり、1本の木で複数品種の果実を味わったりと、メリットがたくさん!難しい品種も育てやすくなる
育てやすい品種を台木に、育てにくい品種を接げば、より安定した生長が見込めます。たとえばブルーベリーの「ハイブッシュ」は、味がよく人気の品種ですが、暑さに弱く根付かせるのがやや難しい品種系統です。そこで、生育旺盛で暑さに強く、土壌適応性も高い「ラビットアイ」という品種系統を台木にして、「ハイブッシュ」を接ぎ木して増やす方法がよく使われます。病害虫に強くなる
病害虫に強い品種を土台に、病害虫に弱い品種をつなぎ合わせれば、丈夫に育てることができます。1本の木にいろいろな品種が実る
一つの台木にいろいろな穂木をつなぎ合わせれば、1本で複数の果物の収穫が楽しめます。たとえば、1本の木で梨とりんごを楽しむ、という夢のようなことも可能です。結実までの期間を短縮できる
挿し木から育てると苗木になるまで1年かかり、さらに収穫できるようになるまで少なくとも2~3年は必要です。ですが接ぎ木は、すでに生長した台木を土台にするので、収穫までの期間を大幅に短縮することができます。1本で収穫できるようになる
オスの品種とメスの品種が存在する「雌雄異株」の果樹は、雌株と雄株を両方植えないと、受粉が成立せず実ができません。たとえばキウイや柿などがそうです。ですが雌株に雄株を接げば、1本だけで収穫が楽しめるようになります。2本以上植えるスペースがないときにおすすめの方法です。接ぎ木のデメリット
メリットがたくさんある接ぎ木ですが、デメリットもあります。たとえば台木と穂木の相性が悪いと、両方とも枯れてしまうことがあり、失敗したときの費用がかさみます。また、作業自体が大変で、慣れないと手間がかかることも。成功率が上がるように工夫することはできるものの、接ぎ木は挿し木に比べて、ハイリスク・ハイリターンな方法なので、園芸初心者さんが果樹を増やすなら、まずは挿し木を試してみてから接ぎ木に挑戦するのもおすすめです。果樹の接ぎ木方法|基本の流れ
接ぎ木では、台木と穂木の切り口にある「形成層」をぴったり合わせることで、お互いを同化させます。木に別の木をつなぎ合わせるなんてできるの?と思えるかもしれませんが、うまくいけば少し見ただけでは接合部がわからなくなるくらい、きれいに同化させることができますよ。接ぎ木の時期はいつ?
果樹が冬の休眠から目覚め、芽が動き始めた3月下旬~4月中旬ごろに行うのが一般的です。春に伸びた新しい枝を台木に、5~6月ごろ接木する方法もあります。この接ぎ木方法は葉っぱが付いた枝を使うので、「緑枝接ぎ」と呼ばれます。用意するもの
・台木・穂木
・接ぎ木ナイフ
・接ぎ木テープ
おすすめの接ぎ木テープと上手な使い方はこちら!
台木と穂木の準備
1. 台木の用意
まずは土台となる果樹を用意します。樹勢が強く丈夫な品種を選びましょう。穂木とつなげる部分は、若い枝であるほど接ぎ木活着率(定着する確率)が高くなるといわれています。また、台木と穂木の太さが近いほど、接合部のカルスという癒傷組織の形成が進みやすく、生育良好になります。接ぎ木には相性がある!
どんな台木と穂木の組み合わせでも、自由に接ぎ木できるわけではありません。組み合わせには相性があります。近縁種であればあるほど、接ぎ木の成功率は高くなりますよ。「属」が同じもの同士で挑戦しましょう!
ただ、かんきつ類は例外で、ほとんどの台木に「カラタチ」が使われています。たとえば温州ミカンの場合も、ミカン科ミカン属の木より、ミカン科カラタチ属のカラタチのほうが相性が良いのです。
2. 穂木の採取
台木の上につなぎ合わせたい品種の穂木を、台木とつなぎ合わせる直前に採取します。台木の接木部と似た太さで、樹勢旺盛な枝を選びましょう。穂木は保管しておいたものを使用しても問題ありませんが、貯蔵方法が悪いとカビが生えたり病気になったりするので、直前に採取するのがおすすめです。穂木を保管したいときは
冬の間に穂木を採取し、ビニール袋に入れて密封します。冷蔵庫で約3カ月ほど保存できますよ。
剪定した枝を使いたいときは
「ロウ上げ」を行えば、接ぎ木が可能な時期まで穂木を乾燥させずに保存できます。剪定枝を使いたいときにおすすめの方法です。穂木をあらかじめ1~2芽間隔で切り離しておき、湯煎で溶かしたロウに2秒くらいつけて取り出し、冷蔵庫の野菜室で保存しましょう。ロウが穂木を完全に覆うことで、切り口から水分が蒸発しにくくなります。ロウは直接火にかけると焦げてしまうので、必ず湯煎で行ってください。
接ぎ木の方法
1. 台木の切り戻し
台木を以下の高さのところで、まっすぐ切り戻します。・鉢植えの場合、地際から5cm程度
・地植えの場合、地際から15cm程度
2. 台木と穂木に切れ込みを入れる
切り戻した台木の断面部分、茶色い樹皮と木質部の間に切れ込みを入れます。穂木は、台木と接合させる部分の皮を薄くはぎ、もう片面を斜め45度くらいの角度で切ります。樹皮の内側にある緑色の部分が「形成層」です。3. 台木と穂木をつなぐ
切れ込みを入れた台木に、鋭く切った穂木を差し込むようにして、ぴったりと切り口同士を合わせます。すき間があかないように注意しましょう。合わせた部分を接ぎ木用のテープできつく巻きます。接ぎ木の成功率を上げるためには
接ぎ木した形成層が、ぴったり合わさっていないと失敗します。しっかり合わせたと思っても、接合部分の固定が甘いと形成層がズレてしまうので注意しましょう。雨が接ぎ木部分に入らないように、テープはしっかり巻いてください。断面に癒合剤を塗ると防水になります。また、この断面部分から害虫が食入することもあるので、地際付近は清潔にし、雑草もこまめに取り除きましょう。
接ぎ木後の管理
接ぎ木した部分のテープは当分外さないでおきましょう。接ぎ木部分は他の部分より弱くなっているので、せっかく成功しても強風や果実の重みでポッキリ折れてしまうことも。心配なときは、ひもで縛ったり、支柱を立てたりして補強しましょう。また、台木が生長すると、接ぎ木した品種の生長を妨げてしまうこともあります。根元から出てきた芽はかき取って、接ぎ木した品種の生長を台木が阻害しないようにしてください。