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東京農業アカデミー第5期生インタビュー|「日々の作業を通して、できない自分をできる自分に変えていく」太田 祐司さん


東京農業の担い手を育てるために、東京都が設立した「東京農業アカデミー」第5期生にインタビュー。「太田さんの作るトウモロコシは本当においしい、と言ってもらえるように、栽培技術とともに自分自身の人柄も一緒に鍛えていきたい」という太田祐司さん。同期同士、それぞれの経験から意見を出し合って、ともに問題解決していく過程が楽しい、と言います。

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小林 由弥

フリーの編集・ライター。 カントリースタイルの暮らしを楽しむ、という主旨のムックで主にガーデニングやDIYの記事を担当していました。 現在は集合住宅住まいで土のない生活を送っているため、花や紅葉を追っての小旅行が楽しみです。…続きを読む

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5期生太田さん

撮影:上溝恭香
東京の農業の担い手を育成するため、2020年に誕生した東京農業アカデミー。第5期生として学ぶ太田祐司さんに、就農を目指す理由、研修の印象、将来のビジョンなどを伺いました。

仲卸の職場での体験が農業を目指すきっかけに

太田祐司さん
撮影:上溝恭香
大学で農業経済学を学んでいた太田祐司さん。農家が生計を立てていくための課題や農業の担い手不足の問題について学びました。大学時代は、サークル活動や文化祭を通して栃木県のユズのおいしさを伝えたり、農作業を通して地域交流を図ったり、収穫祭で農家と一緒に同じ釜の飯を食べたりといった経験も。大学での4年間に、漠然と「いつか自分も生産者側に立ってみたい」という気持ちを抱くようになりました。
太田祐司さん
太田祐司さん
でも、農家になるだけの度胸と勇気が足りなかったので、ここにたどり着くまでに時間がかかってしまいました。

おいしい野菜を供給するには

大学卒業後は埼玉県の仲卸会社に就職。市場勤務なので毎日各地から届く質のいい野菜、少し古くなった野菜などあらゆる農産物を目にしました。あるとき、7~8県から入荷したトウモロコシを食べ比べる機会を得ました。実際に食べてみて感じたのは、農産物の味に大きな影響を及ぼすのは、ブランドや産地特性以上に、産地から消費者までの距離だということ。
太田祐司さん
太田祐司さん
遠隔地から入ってきた野菜は、わずかではありますがどうしても食味が落ち、糖度も飛んでしまうんです。
本当においしい野菜を食べてもらうために、東京で作った野菜を東京で流通させることができたらいいんじゃないか、と考えるようになりました。そんなときに「東京農業アカデミー」を知ったんです。

”自由な”農業を営むなら東京

埼玉県で生まれ育ち、埼玉県の市場で働いていたにもかかわらず、なぜ東京での農業を目指すのか。その質問に、太田さんはこう答えました。
太田祐司さん
太田祐司さん
東京は一番の消費地だということはもちろん理由の一つではありますが、埼玉県だと育てられるもの、出荷できる農産物がある程度定まってきてしまいます。
自分がやりたい農家の姿を考えると、たくさんの農産物が集まる東京で、自由に農業を営みたいと思いました。


東京農業アカデミーに興味をもった時点では、残念ながらその年の募集が終わっていました。そこで、太田さんは、市場での夜勤から昼間の生活に身体をならすため、また、農業を始めてからの営業力を養うために、1年間テレフォン・アポイントメントに携わったのです。

印象に残る東京農業アカデミー説明会

収穫した野菜
撮影:上溝恭香
東京で就農を目指そう、と決めてから訪れた東京農業アカデミーの説明会は刺激的で雰囲気もよく、青パパイヤをはじめスーパーや市場でも見たことのない珍しい野菜や果物を作っていることが印象的でした。ここで栽培されたメロンもとてもきれいで、「東京でこんなものが育てられるんだと驚きました」と太田さん。
太田祐司さん
太田祐司さん
この指導員さんたちと一緒に勉強させていただきたい、ここでならやっていけそう、と思ったのも東京農業アカデミーに決めた大きな理由です。

お互いに「ありがとう」と言い合う関係

東京農業アカデミーに入講してからは毎日が楽しい、と太田さんは言います。同期生はとても明るく、おしゃべり好き。全員向上心が高く、お互いに切磋琢磨(せっさたくま)していく関係を築いています。
太田祐司さん
太田祐司さん
もともと農業に携わっていた人、JAにいた人、元エンジニアなど経歴がさまざま。お互いに、自分の経験や知識から助け合っています。
みんなでいろいろな意見を出し合って、問題を解決していく過程がすごく好きです。


農機具が動かない、農薬の比率計算がわからない、そんなことが起きてもそれぞれに得意な人が教え合い、お互いに「ありがとう」と言い合える関係。
太田祐司さん
太田祐司さん
みんな得意分野が違うからこそ助け合えるので、とてもすてきな仲間だと思っています。

将来を見据えながらの研修

東京農業アカデミー5期生
撮影:上溝恭香
指導員たちは気さくで、先生というよりは年の離れたお兄さんという雰囲気で接してくれます。普段は、ゲームや食べ物など、農作業以外の話もします。けれども、時には厳しく指導を受けることもあるのだとか。
太田祐司さん
太田祐司さん
これを守らないと作物が全部だめになってしまう、というようなことに対しては厳しく注意を受けることもあります。
それも自分たちが農家になってから困らないためなので、ありがたいと思っています。

朝早くからの作業をシミュレーション

東京農業アカデミーは8時50分始業なので、一般的なサラリーマンと同じような生活時間帯で活動しています。ただ、農家になったらそうはいきません。
太田祐司さん
太田祐司さん
農家になってからは、4時、5時から作業をするつもりなので、気合を入れなおさないといけないと思っています。
最初はひとりで農業を始めることになりますが、果菜類の枝の管理はほんとうに大変です。自分にできるかな、と不安になってしまいますが、できるように成長していきたいですね。

野菜をおいしく食べる方法を研究

太田さんは、大学時代から自炊をしています。当時は生活費を抑えるためでしたが、今は野菜をおいしく食べる方法を見つけるための料理に変わりました。
太田祐司さん
太田祐司さん
野菜の魅力が伝わるような調理方法を考えて、直売のときにお客さんに話してみようとか、ちょっと珍しい野菜でも、調理法を一緒に伝えることができればと考えています。

東京で農業を目指すなら今がチャンス

太田祐司さん
撮影:上溝恭香
農業経済学を専攻していた太田さんは大学時代から、栽培にかかる手間に対する野菜の値段が安過ぎると感じていました。就農した先輩農家の視察に行ったとき、一面のキャベツ畑を目にしたのですが、その量でも売り上げは300万円いくかどうか、と聞いてあらためて楽な仕事ではないと感じています。
その反面、「手をかけた野菜は手間の分高く売れる」ということを、日々の研修やアカデミー内の直売所での販売体験から感じています。
太田祐司さん
太田祐司さん
太田さんの作るものだから買いたい、太田さんのトウモロコシは間違いない、と思ってもらえるようなものを作って付加価値をつけていきたいと思っています。
同時に、自分自身の人柄も鍛えて、農産物と生産者のどちらも信頼を得るように頑張ります。

自分が味わった感動を伝えたい

市場に勤務していたときに体験したトウモロコシの食べ比べ。そのときに「近場で採れたトウモロコシはおいしい」という感動を伝えるために、現時点では、トウモロコシをメインにした就農を考えています。
太田祐司さん
太田祐司さん
研修で朝に採ったトウモロコシを昼にゆでて食べたのですが、本当においしくて。このおいしさを伝えるために僕はここに来たんだって思うほどでした。

東京都の新しい補助金制度

東京都は農業支援に力を入れ、2024年も新しい補助金制度を設けています。
太田祐司さん
太田祐司さん
「農」への投資が増えているのが実感できるので、これから都内での就農を考えるのはチャンスではないでしょうか。


研修を続けるなかで、職員たちから「だんだん農家の顔になってきた」と言われたのがうれしい、という太田さん。誰もがおいしいと思える野菜をつくる、立派な農家になりそうです。

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