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庭師
野添 匠青森県八戸市出身。2017年から2年半、カナダのトロントで造園を学び、2020年に株式会社みちのく庭園入社。生け花を通じて植栽のインスピレーションをもらうことも。趣味はサーフィン。 「庭職人としてのルーツは“洋”ですが、自分の中にある“和”とうまく融合させて、日本人の心ある庭を作庭するのが夢。また、街の緑を増やし、地球と人に優しい環境をつくっていきたいと思っています。」 ■みちのく庭園HP:https://michinoku-teien.com/ ■Instagram:https://www.instagram.com/nzetkm/…続きを読む
モミジの種類、カエデとの違いは?
○○モミジや○○カエデという木はたくさんありますが、これらの多くはムクロジ科カエデ属の仲間で、モミジ属というカテゴリーはありません。カエデ属は約160種があり、このうち日本に自生しているモミジの種類は30種前後。またモミジバフウやモミジバスズカケノキなど、「モミジ」とついていたり、イロハモミジなどとよく似た形の葉をしている木でも、別の種類のものもあります。モミジとカエデの違い
植物学上、モミジとカエデはどちらも同じカエデ属の仲間をさす言葉です。美しく紅葉する様子から「紅葉(モミジ)」、深い切れ込みのある葉の形から「蛙手(カエルテ→カエデ)」と呼ばれるようになりました。園芸や盆栽界では、葉が小さめで切れ込みが深く、紅葉が美しいものを「モミジ」、葉が大きめで切れ込みが浅く、紅葉が目立たないものを「カエデ」と呼んで区別しています。モミジ・カエデの「節」と代表種
ムクロジ科カエデ属をさらに分類すると、「節(Section)」に分けられます。それぞれの代表種は以下。そのほかにも、最も原始的な種のテツカエデやヒトツバカエデなどを含むテツカエデ節(Sect.Parviflora)や、日本には生息していませんが、メープルシロップの原料になるサトウカエデなどを含み、カエデ属を代表する最も大きな節のAcer節などもあります。節 | 代表種 |
イロハモミジ節(Sect.Palmata) | イロハモミジ、オオモミジ、ハウチワカエデ、オオイタヤメイゲツ、コハウチワカエデほか |
ウリハダカエデ節(Sect.Macrantha) | ウリハダカエデ、ウリカエデ、コミネカエデ、ミネカエデほか |
ネグンドカエデ節(Sect.Negundo) | ネグンドカエデ、ミツデカエデほか |
イタヤカエデ節(Sect.Platanoidea) | イタヤカエデ、エンコウカエデ、ウラゲエンコウカエデ、ヨーロッパカエデほか |
モミジは赤く紅葉するものだけじゃない!代表的な種類の特徴や見分け方を知ろう
「モミジ」というと、真っ赤に紅葉した姿が思い浮かびますが、カエデ属全体で見てみると、黄色やオレンジ色に染まる種類もたくさんあります。ヒトツバカエデやイタヤカエデは黄葉(こうよう)し、モミジの代表的な種類であるオオモミジやヤマモミジも、個体によって黄色やオレンジ色になります。モミジの代表的な3種類はこれ!
モミジを代表する種類といえば、日本に自生していて古くから庭木としても親しまれているイロハモミジ、オオモミジ、ヤマモミジの3種です。この3種はすべて、深い切れ込みがある手のひらのような小さな葉の形をしています。1. イロハモミジ
小さめの葉が重なり合う様子が美しく、繊細な印象を与える木です。秋に真っ赤に紅葉する姿も美しい種類。京都の寺院などで見られるモミジの多くが、このイロハモミジです。▼イロハモミジの育て方など関連記事はこちら
2. オオモミジ
ほかの2種よりも大ぶりな葉が特徴で、イロハモミジと比べてふっくらとした形をしていることから、ヒロハモミジの別名があります。庭木にすると存在感があり、野趣(やしゅ)あふれる雰囲気が楽しめます。3. ヤマモミジ
オオモミジの変種で、葉や果実の大きさなどはオオモミジよりも小さく、イロハモミジよりも大きい中間型です。もともと北海道や本州の日本海側に自生していることもあり、イロハモミジよりも寒さに強く、丈夫で育てやすい種類です。イロハモミジ、オオモミジ、ヤマモミジの違いと見分け方一覧
この3種はよく似ていますが、ポイントをおさえれば、きちんと見分けることができますよ。紅葉の色 | 葉の大きさ | 果実の形と付き方 | 樹高 | |
イロハモミジ | 赤 | 4~7cm | 翼は水平に開き、枝から上向きに付く | 5~15m |
オオモミジ | 黄~赤(個体差あり) | 7~12cm | 翼は鈍角のV字に開き、葉の下に垂れ下がって付く | 10~15m |
ヤマモミジ | 黄~赤(個体差あり) | 5~10cm | 翼は鈍角のV字に開き、葉の下に垂れ下がって付く | 5~10m |
プロ厳選!シンボルツリーにも庭木にもおすすめのモミジの種類 3選
シンボルツリーなどの庭木にするなら、樹形が乱れにくく、剪定(せんてい)などの管理がしやすいものがおすすめ!また、新緑から紅葉までの葉の変化の美しさなど、季節を感じられる種類を選ぶのもポイントです。庭木におすすめのモミジの種類No.1|ヤマモミジ
モミジの種類の中では最も一般的で、よく植えられているのがヤマモミジです。柔らかな樹形が美しく、雑木の庭など、自然風の庭によく合います。生長が早いので、こまめに剪定をして形を整えると、美しい自然樹形を楽しめます。野添 匠さん
半日陰でもよく育ち、丈夫で育てやすいです。乾燥が苦手で適度な湿気を好むので、定期的な水やりを忘れずに!
おすすめのヤマモミジの苗木
庭木におすすめのモミジの種類No.2|イロハモミジ
ヤマモミジよりも葉が小さく、切れ込み深いので、全体的により柔らかい印象の木です。自然樹形を活かして軽く剪定するのがおすすめ。真っ赤に紅葉する姿はまさに、秋の紅葉を代表する種類です。野添 匠さん
温暖な地域では葉や幹が焼けやすいので、どちらかというと冷涼な気候の地域におすすめです。昼と夜の寒暖差が大きいほど、きれいな紅葉が楽しめますよ!
おすすめのイロハモミジの苗木
庭木におすすめのモミジの種類No.3|ハウチワカエデ
大きくふっくらとした葉が目立つ種類ですが、葉数が少ないので、軽やかで涼しげな樹形になります。株立ち樹形は、現代の洋風住宅やモダンな住宅と相性が良く、シンボルツリーとしても人気があります。野添 匠さん
一回り小さな葉のコハウチワカエデもあり、こちらはより繊細な印象です。子どもの手のような葉がかわいらしいですよ。
おすすめのハウチワカエデ苗木
ヤマモミジ、イロハモミジ、ハウチワカエデの特徴一覧
紅葉の色 | 葉の大きさ | 生長 | 樹高 | |
ヤマモミジ | 黄~赤(個体差あり) | 5~10cm | やや早い | 5~10m |
イロハモミジ | 赤 | 4~7cm | 早い | 5~15m |
ハウチワカエデ | 黄~赤(個体差・地域差あり) | 7~10cm | やや遅い | 10~15m |
秋の紅葉以外にも!真っ赤な葉っぱなど、カラーリーフが楽しめるモミジの種類 3選
江戸時代から庭木として人気があったモミジは、自生していたイロハモミジやオオモミジをもとに品種改良が盛んに行われ、たくさんの園芸品種がつくられました。秋に赤や黄色に色付く品種はもちろん、一年を通して真っ赤な葉っぱのモミジや、斑が入るもの、葉が細いものなどさまざまな品種があります。違う特徴のモミジを植えると、庭の表情がより豊かになりますよ!1. 出猩々(デショウジョウ)|新芽の鮮やかな赤色が目をひく
「猩々(しょうじょう)」は古典書物に登場する架空の動物のことですが、能などで演じられるときに真っ赤な装束を着ていることから、「赤色」の意味で使われることもあります。「出猩々」は文字通り、新芽や新梢(しんしょう)が真っ赤でとても目立つことに由来しますが、その赤い葉は徐々に変化して、夏には緑の葉になります。おすすめの出猩々の苗木
2. 野村モミジ(ノムラモミジ)|落ち着いた印象の深い色合いが特徴
「野村モミジ」と表記されることが多いですが、本来は「濃紫モミジ」の意味で、春先から秋にかけて紫がかった濃い赤い葉をしていることに由来しています。基本的には秋に落葉するまでこの色ですが、地域や環境によって、夏は緑色に変化したり、黄色く紅葉することもあります。おすすめのノムラモミジの苗木
3. 稲葉枝垂(イナバシダレ)|赤く枝垂れる種類の代表
ヤマモミジの改良品種で、比較的鮮やかな赤紫色の葉と、細かく糸のように裂けた葉が特徴です。枝も長く垂れ下がるので、ふんわりとした樹形になり、枝先で風に揺れる葉がとても美しい種類です。おすすめのイナバシダレ苗木
出猩々、野村モミジ、稲葉枝垂の違いと特徴一覧
紅葉の色 | 葉の大きさ | 葉の色の変化 | 樹高 | |
出猩々 | 赤 | 4~7cm | 濃い赤~緑~紅色 | 2.5m |
野村モミジ | 褐色 | 4~7cm | 紅紫~褐色 | 4~5m |
稲葉枝垂 | 濃い赤 | 5~10cm | 鮮やかな赤~緑~濃い赤色 | 2.5m |
これもモミジの仲間!街路樹でよく見かけるモミジの種類 2選
イロハモミジやヤマモミジなどは、横に広がる樹形や湿り気のある場所を好む性質などから、街路樹には不向きであまり植えられていませんが、街で見かけるきれいに紅葉した街路樹の中にも、少し意外な形の葉をしたモミジの仲間がありますよ。1. トウカエデ|チューリップのような形の葉が特徴
乾燥や大気汚染、病害虫などのストレスに強いため、古くから街路樹としてよく利用されている木です。新芽がピンクやクリーム色で、その後、明るい緑から紅葉へと色が変化する「花散里(はなちるさと)」という品種もあります。野添 匠さん
トウカエデは生育旺盛で剪定に強く、どこからも芽吹く半面、樹形が乱れやすいのが難点。大きく育つので、狭い住宅の庭には不向きです。
2. ハナノキ|芽吹き前の花の美しさが目をひく
早春の新芽が開く前に咲く、濃く赤い花が木全体を赤く染める様子から「ハナノキ」と名付けられました。もともと長野県と岐阜県、愛知県の県境地域と、長野県大町市にのみ自生する木のため、この近辺の街路樹としてよく利用されています。野添 匠さん
黄~真っ赤に紅葉する姿が美しい木です。暖かい地域では赤くなる前に落葉してしまうこともありますが、赤くなりきらずに落ちた葉のグラデーションもまた魅力です。
トウカエデ、ハナノキの特徴一覧
紅葉の色 | 葉の大きさ | 果実の形と付き方 | 樹高 | |
トウカエデ | 黄~赤(個体差あり) | 4~9cm | 翼は水平~鈍角に開き、葉の下に垂れ下がって付く | 10~20m |
ハナノキ | 黄~赤(地域差あり) | 4~7cm | 翼はあまり開かず、葉の下に長く垂れ下がって付く | 15~25m |
庭の印象をワンランクアップ!庭師おすすめのモミジの植え方
庭木として定番のモミジは、普通に植えても、新芽や青葉、紅葉の色などの四季の変化や美しい自然樹形など、魅力的なポイントはたくさんありますが、ほんの少し植え方を工夫するだけで、がらっと印象が変化します。いつもとは違う植え方で、モミジの魅力をより引き出しましょう!Point1.斜めに傾けて植える
全国各地にあるモミジの名所は、渓谷沿いや池の周りなどの水辺が多く、水面に向かって差し掛かるように傾いたモミジを良く見かけます。庭に植えるときも、そんなイメージで少し斜めに植えてみましょう。柔らかなモミジの樹形がより自然な印象になります。野添 匠さん
ほんの少し斜めに傾けて植えるだけで、ぐっと雰囲気が良くなり、風情が出てきますよ!手前に傾けたり、常緑樹などの隣で添えるように横に傾けるのもおすすめです。
Point2.組み合わせで植える
種類豊富なモミジは、いくつか違う種類同士を組み合わせて植えるのがおすすめ。葉の形や大きさ、新芽の色や紅葉の色の違いなど、それぞれの個性がより引き立ち、庭に奥行きが生まれます。野添 匠さん
ヤマモミジとハウチワカエデなど、紅葉や新芽の色が似たものでも、並べて植えると葉の大きさや質感など、違いがはっきりして魅力が際立ちますよ。