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園芸家
Shabomaniac!幼少期から40年以上、世界中のサボテンと多肉植物を栽培している園芸家。栽培が難しい種の播種や育成、新種の輸入にも早くから取り組む。実体験に基づく栽培方法や、自身が所有・栽培する植物の写真、自生地巡りの紀行をブログとInstagramで発信。長年の栽培経験に基づく豊富な知識で愛好家たちからの信頼も厚い。 Blog:http://shabomaniac.blog13.fc2.com Instagram:@shabomaniac 著書:『珍奇植物 ビザールプランツと生きる』(日本文芸社)、『多肉植物サボテン語辞典』(主婦の友社)…続きを読む
そもそも栄養繁殖とは?
栄養繁殖とは植物の生殖方法のひとつで、種子を経由せず、根や茎、葉などの栄養器官から次の世代の植物を殖やす無性生殖です。種子繁殖よりも手軽に殖やせるほか、親株と同じ性質を持ったクローンが得られる、種子が採れにくい植物も殖やせるといったメリットがあります。多肉植物の栄養繁殖に用いられる代表的な方法は以下の5種類です。- 葉挿し
- 挿し木(挿し芽)
- 胴切り
- 株分け
- 根挿し
多肉植物の繁殖作業に必要なもの
多肉植物の繁殖に初挑戦する人は、下記の材料や道具をそろえておくと、スムーズに作業が行えます。- 苗のサイズに合った鉢
- 育苗ポット
- セルトレイ
- グラス・ビン・ペットボトル(水挿し用)
- 多肉植物・サボテン用の土
- 小粒の土(葉挿し用)
- 土入れ
- 割り箸
- はさみ
- カッター
- 厚手の手袋(サボテンの刺から手指を保護するため)
- ラベル(種類がわからなくなるのを防ぐため)
多肉植物の殖やし方1|葉挿し
葉挿しとは、親株からもいだ葉や仕立て直しのときに出た葉を使って発芽させる方法のことです。一般的に葉が落ちやすいものは葉挿しに向いています。同じ属の多肉植物でも種によって葉挿しできるものとできない(根が出にくい)ものがあるので、やってみて根がでなければほかの方法にトライしましょう。メリット: 手間がかからない、一度に多くの株をつくれる
デメリット:挿し木に比べて大きくなるまで時間がかかる、葉挿しできないタイプもある
葉挿しで殖やせる多肉植物
セダム、エケベリア、クラッスラ、ハオルチア、ガステリア、アドロミスクスなど手順
- 親株から成熟した葉を選んで取り外す
発根しやすいよう付け根からそっともぎ取りましょう。 - 用土の上に葉をのせる
土に挿す必要はなく、のせるだけでOK。粒の細かい土を使うと細い根でも張りやすくなります。 - 明るく風通しのよい日陰で管理する
土が濡れていると葉が腐る場合があるため水やりはしません。 - 2週間程度で細い空中根が出る
- 1〜2カ月して芽がある程度の大きさになったら新しい用土に植え付ける
多肉植物の殖やし方2|挿し木(挿し芽)
挿し木とは、親株から切り取った茎や枝を用土に挿し、新たに芽や根を出させる繁殖方法です。木立性(こだちせい)といって茎が直立するタイプの多肉植物の繁殖に向いています。メリット:手間がかからない
デメリット:植物によって不向きなものもある
挿し木(挿し芽)で殖やせる多肉植物
セダム、クラッスラ、アエオニウム、パキフィツム、カランコエ、エケベリア、サボテン、メセン類など手順
- 枝や茎を1cmほど残し、芽先をはさみやカッターで切り取る
なるべく若くてフレッシュな枝を使いましょう。徒長した枝を剪定して使う場合もありますが、根が出にくいなどうまく育たないことがあります。 - 枝の下に葉がついていれば取り除く
枝に葉がついていると土に挿すときに邪魔になるほか、土の中で蒸れて腐ったり、水分が蒸散で失われたりします。葉を取り除いておいた方が挿し木後の枝の体力を長く維持できます。 - 3〜5日切り口を乾かす(水分量の多い植物のみ)
挿し穂の切り口を乾かした方がいいのか乾かさない方がいいのかはケースバイケースです。サボテンをはじめ水分量の多い多肉植物は切ってすぐに植えると切り口から腐りやすいので、風通しの良い場所でよく乾かし、発根してから用土に挿しましょう。水分が少なく挿し穂の断面が小さい場合は乾かさずにそのまま土に挿し、すぐに水をやった方が発根がよくなる場合も。Shabomaniac!さん水分量の少ないものや断面の小さいものは、挿し穂を乾かすと断面にかさぶたのような細胞の膜が作られてしまい、新たに出てきた根はその膜を破ってこないといけなくなります。そのため発根まで時間がかかり、植物にとって負担が大きくなります。 - 新しい用土に植え付け、たっぷりと水を与える
挿し木用土には水はけと保水性の高い土が適しています。小粒の赤玉土や鹿沼土、川砂、バーミキュライト、パーライトなどがおすすめです。
多肉植物の殖やし方3|水挿し(水耕栽培)
水挿しとは挿し穂を水に浸けて水中で発根させる繁殖方法のこと。先端が水分に触れることで発根が促されます。清潔な水を使えば雑菌が入りにくく、いろいろな植物を簡単に殖やせます。ただ、水中で出た根はとても細く、土に植えると活着せずに萎れてしまうことが少なくありません。挿し穂を直接水に入れるのではなく、切り口に水苔などを巻きつけて水に浸け、発根したら水苔ごと土に植え付けると成功しやすくなります。発根後も土に植え替えずに水耕栽培で育てていくのもひとつの方法です。メリット:土も水やりも不要、透明な容器を使えば根の生長度合いが見える
デメリット:土に植え替えるときに根がダメになりやすい、毎日水を取り替える手間がかかる
水挿しで殖やせる多肉植物
セダム、クラッスラ、アエオニウム、パキフィツム、カランコエ、エケベリアなど手順
- 挿し木や挿し芽と同じ手順で挿し穂を作る
- ビンやペットボトルなど口の狭い容器を用意する
- 容器に水と適切な濃度に希釈した液肥を入れ、挿し穂を浸ける
- 水は毎日取り替えて清潔に保つ
- 風通しのよい明るい日陰で管理する
- 2週間ほどで発根したら新しい用土に植え付ける
多肉植物の殖やし方4|胴切り
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胴切りとは、サボテンの球体など植物の胴体を切断して球体の側面などから子を吹かせる繁殖方法です。出てきた子は掻き取って挿し木したり接ぎ穂にしたりするほか、切り取った上部も挿し木に使うことができます。サボテンの場合は幹が太いため胴体を切るような感じになりますが、やっていることは挿し木用に枝や茎を切るのと同じです。繁殖だけでなく形が崩れたときの仕立て直しにも使えます。
メリット:切り取った上部と胴体の両方から繁殖が狙える
デメリット:根が出るまで時間がかかる
胴切りで殖やせる多肉植物
サボテンなど手順
- サボテンの胴体や節(くびれた部分)をカッターなどで切り取る
- 1週間〜1カ月ほど断面を乾かす
サボテンは水分量が多いので、腐り防止のためにもしっかり乾かしましょう 。 - 上部は新しい用土に植え付ける
- 胴体の切断面から子株が出たら親株から取り外して新しい用土に植え付ける
多肉植物の殖やし方5|株分け
株分けとは親株の茎や枝を根と一緒に切り離し、新しい個体を作る繁殖方法です。葉の縁にむかご(芽が栄養をためて球状になったもの)ができるカランコエや、ランナー(地上に伸びる地下茎の一種)を伸ばすセンペルビウム、そのほか子株が吹くものは株分けで殖やすのが一番簡単です。メリット:初めから根がついているので成功しやすい
デメリット:葉挿しや挿し木などと比べて一度に殖やせる苗が少ない
株分けで殖やせる多肉植物
アガベ、エケベリア、ハオルチア、クラッスラ、センペルビウムなど手順(親株の周りに群生するタイプ):アロエ、アガベ、エケベリア、ハオルチア、セダムなど
- 株分けする1〜2週間前から水やりを控える
- 親株を土から引き抜き、傷んだ根や古い葉を取り除く
- はさみなどを使ってそれぞれの株に根が残るように株を切り分ける
- 新しい用土に植え付ける
手順(ランナーを伸ばすタイプ):センペルビウム、セネキオ、オトンナなど
- ランナーをカットして子株を切り分ける
- 新しい用土に植え付ける
多肉植物の殖やし方6|根挿し
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根挿しとは、親株から切り取った根を土に埋めて発芽させる繁殖方法です。ハオルチアなど太い根が出る種に使えるほか、オペルクリカリアなどの塊根でも根挿しができます。ハオルチアは葉挿しよりも根挿しの方が繁殖が成功しやすいのでおすすめです。
メリット:切った根を土に挿すだけなので手間がかからない
デメリット:一部の種でしか使えない
根挿しで殖やせる多肉植物
ハオルチア、オペルクリカリアなど手順
- 親株から株を引き抜き古い土を落とす
- 太い根や健康的な塊根を選び、10cmほどをはさみやカッターで切り取る
古い株よりも若い株の根の方が活着しやすくなります。 - 根先を下にし、根の上部が5mmほど地上に出るように清潔な用土に挿し込む