今回は、ちょっとおしゃれにアニメーション作家・映像監督のWijnand Driessen(ウィナンド・ドリエセン)に仕事のこと、食べもののこと、田舎暮らしについて、いろいろ話を聞きました。Wijnandはオランダの北ブラバント州にあるEindhoven(アイントホーフェン)でMatte! Nande?というスタジオを営み、油絵で背景などの静止画を描くことをメインにアニメ製作をしています。Amazonプライムのundoneシリーズや、Netflixシリーズの背景などにも携わっています。
野菜が大嫌いだった幼少期
Wijnandは、幼少期は野菜が嫌いで、好んで食べていたものはフライドポテト、パンケーキ、BBQ、チキンだと話します。個人的には、これに驚くことはありませんでした。オランダでは、大人でも野菜が嫌いな人にはちょこちょこ出会っていたからです。しかし、今ではパプリカ、ブロッコリー、サラダなどが食べられるようになったそうです。今は、普段は朝食を食べず、まれにパンとコーヒー。お昼はサンドイッチで、チーズかトマト、レタスをはさみます。夜ご飯は、ラーメンなどのアジア料理か、オランダ料理を食べているそうです。
Erwtensoep(エルテンスープ)とは
エルテンスープとは、冬によく食べられる乾燥えんどう豆やリーキ、根セロリ、ニンジン、タマネギ、ジャガイモなどを入れた濃厚なスープです。ベーコンやスモークソーセージを入れることも多いです。ライ麦パンとの相性ぴったり!北ブラバント州のRoggebrood(ライ麦パン)とは
ジャガイモに取って代わられる前は、ライ麦パンがオランダとベルギーの主食でした。オランダでは各地域でライ麦パンの生地の配合や調理方法が異なります。北ブラバント州のライ麦パンの特徴は、挽いたライ麦と小麦を混ぜたものに、酵母やパン種にする発酵生地を使い、低温で4時間程度で焼き上げます。北部では24時間もかけて焼く地域も。オランダの“田舎”で暮らした記憶と日本の“田舎”
Wijnandは、Nuenen(ニューネン)という北ブラバント州にある、人口2万3,000人の町で生まれました。画家のフィンセント・ファン・ゴッホが1883〜1885年に暮らしたことで知られており、「ジャガイモを食べる人々」が描かれたのもこの地です。その後、同州のHeeze(ヘーゼ)という人口9,000人の村で20歳まで育ち、現在は、オランダ第5位で人口21万人のEindhoven(アイントホーフェン)で暮らしています。”田舎”と町を知り、オランダと日本を知るWijnandにいろいろ聞いてみました。
参考:Population of Cities in Netherlands (2021)
オランダの“田舎”で暮らした記憶と日本の”田舎”
もともとジブリや、日本の背景技術監督に影響を受け、アニメの世界に飛び込んだWijnandは、日本へ行く機会も多いそうです。日本の“田舎”の印象も聞いてみました。
北ブラバント州では「農業はそこにあるもの」だった
農業が盛んな北ブラバント州で生まれ育ったWijnandは、農業について何も専門知識はないものの、「そこにあるものだった」と話します。北ブラバント州の農業について
少し話はそれますが、北ブラバント州の農業の歴史にもふれておきます。北ブラバント州は、オランダ最大の農業食品地域で、現在はオランダの農産物生産全体の20%を占めています。砂地で、主は畜産ですが、ニンジンやタマネギ、アスパラガスなどの露地野菜も栽培しています。バターと穀物の時代|堆肥生産も主な仕事に
16〜17世紀にかけて、北ブラバント州では、ライ麦やソバ、オーツ麦、大麦などの穀物のあとにスパーリー牧草(オオツメクサ)を植え付ける作付体系が好まれました。そこで乳牛を放牧するようになり、酪農が発展し、バター生産と肥育牛の販売が重要な収入源になりました。18世紀になると、ストール給餌システムが完成し、定期的にバターを出荷できるようになりました。それに伴い、畜舎でのふん尿を堆肥化する肥料生産も主な仕事の一つになりました。
養豚と飼料作物の時代|複合農業が主流の時代が続く
1850年以降、畜産物の価格の下落や海外市場への提供を見通して、北ブラバント州は養豚業へシフトしていきます。それに伴い、飼料作物としてのライ麦、ソバ、ジャガイモの栽培が拡大します。オランダでは小規模複合農業の時代が長く、北ブラバント州では特に顕著でした。専業化と堆肥分配の時代|他地域でのふん尿の活用も
1960年以降、少しずつ、酪農、養豚、養鶏と専業化していきます。北ブラバント州では、豚の頭数が全国の40%を占め「豚の州」といわれるまでになりました。60〜70年代には、輸入飼料に切り替わり、主要な飼料だったライ麦は姿を消しました。1990年代に入ると、規制の一環として、豚や鶏のふん尿が多い北ブラバント州のような地域から、少ない農業地域へと大型トラックで輸送され、全国へ分配されるようになりました。
養豚生産者の多くは農地を所有しておらず、自家ほ場でふん尿の散布ができないこともあり、近隣または他地域の畑作生産者などへ輸送されています。また、ふん尿の余剰分がほかの農場との定期的な契約によって処理されない場合には、農地面積の拡大ができないので、余剰分を処理するためにも堆肥工場などと契約を締結します。このような背景で、特に養豚比率の高い北ブラバント州では、多くのふん尿処理加工され、輸送または輸出によりほかの地域でも使用されています。
参考:Five centuries of farming, A short history of Dutch agriculture 1500-2000(Jan Bieleman)
オランダ養豚における家畜排せつ物処理の取り組み~持続可能な養豚のために~(独立行政法人農畜産業振興機構)
Animal manure(Government information for entrepreneurs)
食べものの記憶を取り入れたアートの製作にも挑戦したい
そんな北ブラバント州で生まれ育ったWijnandは、現在、食べものを取り入れたアートを製作することも検討中です。紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate