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アニメ製作者Wijnandがオランダの食と田舎の記憶をたどる|おしゃれじゃない世界の農業見聞録【2通目】


農業・食コミュニケーター紀平真理子さんが、世界の農業関係者に聞いた話や、自身が見聞きしたりしたことをゆるく、時には鋭くお伝えする連載「おしゃれじゃない世界の農業見聞録」。今回話を聞いたのは、日本にも詳しいオランダのアニメーション作家・映像監督Wijnandさんです。

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紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。…続きを読む

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Wijnand Driessen

写真提供:Wijnand Driessen
前回の「畜産飼料のLCA分析をするLauraが思うこと(1通目)」では、オランダの畜産の状況について友人であり、専門家でもあるLauraに話を聞きました。
今回は、ちょっとおしゃれにアニメーション作家・映像監督のWijnand Driessen(ウィナンド・ドリエセン)に仕事のこと、食べもののこと、田舎暮らしについて、いろいろ話を聞きました。Wijnandはオランダの北ブラバント州にあるEindhoven(アイントホーフェン)でMatte! Nande?というスタジオを営み、油絵で背景などの静止画を描くことをメインにアニメ製作をしています。Amazonプライムのundoneシリーズや、Netflixシリーズの背景などにも携わっています。

野菜が大嫌いだった幼少期

オランダ揚げ物
写真提供:紀平真理子
Wijnandは、幼少期は野菜が嫌いで、好んで食べていたものはフライドポテト、パンケーキ、BBQ、チキンだと話します。個人的には、これに驚くことはありませんでした。オランダでは、大人でも野菜が嫌いな人にはちょこちょこ出会っていたからです。しかし、今ではパプリカ、ブロッコリー、サラダなどが食べられるようになったそうです。
Wijnand Driessenさん
Wijnand Driessenさん
野菜嫌いじゃなくなったのは、いいレストランへ行くようになったからです。シェフがおいしく料理をしてくれるので、大嫌いではなくなりました。

今は、普段は朝食を食べず、まれにパンとコーヒー。お昼はサンドイッチで、チーズかトマト、レタスをはさみます。夜ご飯は、ラーメンなどのアジア料理か、オランダ料理を食べているそうです。
Wijnand Driessenさん
Wijnand Driessenさん
料理は、Fancy(手が込んだ)ではなく、簡単にしたいです。オランダ料理で好きなのは、Erwtensoep(エルテンスープ)!地域の料理はRoggebroodという北ブラバント州のライ麦パンです。子どもの頃の思い出の味だけど、若い世代はあまり食べないかな。

Erwtensoep(エルテンスープ)とは

エルテンスープ
写真提供:紀平真理子(かつて私が作ったおしゃれじゃないエルテンスープ)
エルテンスープとは、冬によく食べられる乾燥えんどう豆やリーキ、根セロリ、ニンジン、タマネギ、ジャガイモなどを入れた濃厚なスープです。ベーコンやスモークソーセージを入れることも多いです。ライ麦パンとの相性ぴったり!

北ブラバント州のRoggebrood(ライ麦パン)とは

オランダのライ麦パン
写真提供:Wijnand Driessen
ジャガイモに取って代わられる前は、ライ麦パンがオランダとベルギーの主食でした。オランダでは各地域でライ麦パンの生地の配合や調理方法が異なります。北ブラバント州のライ麦パンの特徴は、挽いたライ麦と小麦を混ぜたものに、酵母やパン種にする発酵生地を使い、低温で4時間程度で焼き上げます。北部では24時間もかけて焼く地域も。

オランダの“田舎”で暮らした記憶と日本の“田舎”

オランダ田舎
出典:Shutterstock
Wijnandは、Nuenen(ニューネン)という北ブラバント州にある、人口2万3,000人の町で生まれました。画家のフィンセント・ファン・ゴッホが1883〜1885年に暮らしたことで知られており、「ジャガイモを食べる人々」が描かれたのもこの地です。

その後、同州のHeeze(ヘーゼ)という人口9,000人の村で20歳まで育ち、現在は、オランダ第5位で人口21万人のEindhoven(アイントホーフェン)で暮らしています。”田舎”と町を知り、オランダと日本を知るWijnandにいろいろ聞いてみました。

参考:Population of Cities in Netherlands (2021)

オランダの“田舎”で暮らした記憶と日本の”田舎”

Wijnand Driessenさん
Wijnand Driessenさん
オランダは小さい国なので、村のような田舎で暮らしていても、町までが近く、いつでも簡単に行けるので、日本とは田舎の意味が違います。今、町に住んでいて思うことは、田舎の方が地域の友人とつきあい、地域のお祭りに熱を入れ、ソーシャルライフがよりアクティブだということです。

もともとジブリや、日本の背景技術監督に影響を受け、アニメの世界に飛び込んだWijnandは、日本へ行く機会も多いそうです。日本の“田舎”の印象も聞いてみました。
Wijnand Driessenさん
Wijnand Driessenさん
“田舎”は町から本当に遠い場所って意味でいいですよね。それなら、栃木、群馬、長野かな。東京から本当に遠いから。どんなに小さい町でもコンビニがあるのがおもしろいです。まさにコンビニエント!

北ブラバント州では「農業はそこにあるもの」だった

北ブラバント農業
出典:Shutterstock
農業が盛んな北ブラバント州で生まれ育ったWijnandは、農業について何も専門知識はないものの、「そこにあるものだった」と話します。
Wijnand Driessenさん
Wijnand Driessenさん
毎年春に牛の堆肥をまくので、においがするのですが、僕にとってはそれが普通の春。でも、その思い出がない人は「くさい!」って驚きます(笑)。

北ブラバント州の農業について

少し話はそれますが、北ブラバント州の農業の歴史にもふれておきます。北ブラバント州は、オランダ最大の農業食品地域で、現在はオランダの農産物生産全体の20%を占めています。砂地で、主は畜産ですが、ニンジンやタマネギ、アスパラガスなどの露地野菜も栽培しています。

バターと穀物の時代|堆肥生産も主な仕事に

16〜17世紀にかけて、北ブラバント州では、ライ麦やソバ、オーツ麦、大麦などの穀物のあとにスパーリー牧草(オオツメクサ)を植え付ける作付体系が好まれました。そこで乳牛を放牧するようになり、酪農が発展し、バター生産と肥育牛の販売が重要な収入源になりました。

18世紀になると、ストール給餌システムが完成し、定期的にバターを出荷できるようになりました。それに伴い、畜舎でのふん尿を堆肥化する肥料生産も主な仕事の一つになりました。

養豚と飼料作物の時代|複合農業が主流の時代が続く

1850年以降、畜産物の価格の下落や海外市場への提供を見通して、北ブラバント州は養豚業へシフトしていきます。それに伴い、飼料作物としてのライ麦、ソバ、ジャガイモの栽培が拡大します。オランダでは小規模複合農業の時代が長く、北ブラバント州では特に顕著でした。

専業化と堆肥分配の時代|他地域でのふん尿の活用も

1960年以降、少しずつ、酪農、養豚、養鶏と専業化していきます。北ブラバント州では、豚の頭数が全国の40%を占め「豚の州」といわれるまでになりました。60〜70年代には、輸入飼料に切り替わり、主要な飼料だったライ麦は姿を消しました。

1990年代に入ると、規制の一環として、豚や鶏のふん尿が多い北ブラバント州のような地域から、少ない農業地域へと大型トラックで輸送され、全国へ分配されるようになりました。

養豚生産者の多くは農地を所有しておらず、自家ほ場でふん尿の散布ができないこともあり、近隣または他地域の畑作生産者などへ輸送されています。また、ふん尿の余剰分がほかの農場との定期的な契約によって処理されない場合には、農地面積の拡大ができないので、余剰分を処理するためにも堆肥工場などと契約を締結します。このような背景で、特に養豚比率の高い北ブラバント州では、多くのふん尿処理加工され、輸送または輸出によりほかの地域でも使用されています。

参考:Five centuries of farming, A short history of Dutch agriculture 1500-2000(Jan Bieleman)
オランダ養豚における家畜排せつ物処理の取り組み~持続可能な養豚のために~(独立行政法人農畜産業振興機構)
Animal manure(Government information for entrepreneurs)

食べものの記憶を取り入れたアートの製作にも挑戦したい

Wijnand Driessen
写真提供:Wijnand Driessen
そんな北ブラバント州で生まれ育ったWijnandは、現在、食べものを取り入れたアートを製作することも検討中です。
Wijnand Driessenさん
Wijnand Driessenさん
絵を描くときは、いつも自分の記憶と経験を混ぜ合わせます。「あーこのとき、その場所にいたな」と思えて、においがしてくるように、食べものと場所の記憶を一緒に切り取って描きたいですね。

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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