東京の農業の担い手を育成するため、2020年に誕生した東京農業アカデミー。第6期生として学ぶ石谷征彦さんに、就農を目指す理由、研修の印象、将来のビジョンなどを伺いました。
食卓に自分の野菜が並ぶ未来を想像して…
福祉施設の活動で農作業を経験
石谷征彦さんは、大学で幼児教育や福祉を学びました。在学中に幼稚園教諭と保育士の免許を取得しましたが、卒業後は千葉県の福祉施設に就職。施設では、就労継続支援の一環として畑づくりやお墓の清掃などの作業にも取り組んでおり、石谷さんも4〜5年にわたり、農作業に携わってきました。この時の経験が、就農を目指す大きなきっかけとなっています。⽯⾕征彦さん
自分で作った野菜が食卓に並ぶようになればいいな、と漠然と思うようになりました。
自分で考えて動きたいという気持ち
福祉関係の仕事自体は好きだったのですが、自分で考えて動ける仕事がしたいという意欲がわくようになってきたのだといいます。個人事業主として働こうと決めて、当初は古着店のオープンを目指していました。でも、準備していても楽しい気持ちや将来性がなく、これは自分のやりたいことではないと気づきました。
⽯⾕征彦さん
友人に相談したら「福祉施設での畑仕事の話をしていたときキラキラしていたよ」と言われました。そういえば農作業しているときは幸福感があったなと、自分でも思ったのです。
農家への弟子入りも考えた
就農への道を模索
自分の本当にやりたいことは「農業」。そう気づいてから、就農の方法を探しました。生まれ育った小金井市や東京近郊の農家に弟子入りして、いずれ就農することも考えました。でも、それは現実的ではないと説明会の際指導員の方からも言われました。⽯⾕征彦さん
援農ボランティアもやっていたので、その作業を通して自ら道を開くのもいいのでは、と思ったのです。でも、知識がゼロだったので、きちんと学ばないと就農は難しいとも感じました。
家族にも背中を押された
農業の知識を得る方法を探す中で、東京農業アカデミーにたどり着きました。古着店をやろうとしていたときには、定職を離れることに難色を示していた家族も、東京農業アカデミーへの入講には大賛成でした。⽯⾕征彦さん
就農後は、定年退職した父も一緒に農業に携わる予定です。その準備のために、父には援農ボランティアで経験を積んでもらっています。
体で覚える、現場重視の農業研修
春から夏は、思ったよりほ場での作業が多い
入講前は、「学校だからもっと座学が多いのだろう」と思っていました。でも実際は、朝8時50分の朝礼終了後から夕方4時20分の終礼まで、ほ場に出ての作業と作業場での調整作業がほとんど。特に今年は暑さが厳しく、体力は消耗しますが、体で覚えることの大切さも実感しています。⽯⾕征彦さん
農作業は命がけだと身に染みています。農薬は希釈しない状態だとかなり濃いので、扱いに気をつけないと危険です。
農機具も、いい加減な扱いをすると大きなケガにつながることがあります。こういうことも体験してわかることです。そして、就農前にしっかり体力もつけておかなければなりません。
農機具も、いい加減な扱いをすると大きなケガにつながることがあります。こういうことも体験してわかることです。そして、就農前にしっかり体力もつけておかなければなりません。
作業は同期で助け合って
その日の作業は、朝礼で指導員から指示されます。ただ言われたことをするだけではありません。全員で同じ野菜を管理しているのですが、全作物の手入れはできないので、一人2~3品目担当を分けて、各自作物の状態を見ながら自ら動くよう心掛けています。⽯⾕征彦さん
担当分けは、自分たちで決めています。将来、この作物育てたいから重点的にやりたい、などと希望を出し合いました。
作業が終わったら、お互いに担当作物の状態や何をしたかを共有します。自分が担当したものだけ知っていればいいというものではありませんので。
作業が終わったら、お互いに担当作物の状態や何をしたかを共有します。自分が担当したものだけ知っていればいいというものではありませんので。
同期は20代前半から40代後半と年齢や経歴はバラバラですが、上下関係などはなく、和気あいあいと助け合っています。「畑の見学、一緒に行く?」と誘い合ったり、また、危険なことなどがあったらお互いに注意もし合ったり、わずかな期間でなんでも言える関係性が築けました。
わからないことはその日のうちに解決
指導員は明るく楽しい雰囲気づくりを
農場長や指導員はきめ細かく指導してくれます。作業自体はきついことが多いのですが、それを苦痛に感じないように楽しくできるような雰囲気づくりをしてくれています。⽯⾕征彦さん
じゃがいもをS、M、L、2Lのサイズごとに分ける作業があるのですが、1つずつ量りにかけると時間がかかりすぎます。そのため、手に載せた感覚で仕分けていくのです。指導員の方がそのコツをおもしろおかしく教えてくださいました。
時には居残りも
わからないことがあれば、その都度指導員に質問し、その場で答えてもらいます。それでも理解しきれないことが出てきたときは、「作業終了後に農場長や指導員に質問して解決しています」と石谷さん。また、使用した農機具などはその日のうちにきれいに洗って片づけるようになりました。
⽯⾕征彦さん
指導員のアシスタントさんたちの負担を減らすために、できる限り自分たちで道具類の後片付けをしています。
座学ではマナー講座も
ほ場での作業が多い春から夏は、まだ講義は少ないのですが、ポップ作成や獣害対策、マナー講座などを受講しました。⽯⾕征彦さん
獣害対策は初手が大事だと学びました。電気柵は該当の獣に合った高さにする必要があることも知りました。
直売所でも学びがたくさん
アカデミーのほ場で採れた作物を構内の直売所で販売するときには、研修生も接客を行います。お客様に直接感想を聞ける機会は、いい勉強になります。⽯⾕征彦さん
お客様に聞かれたことは正直に答えます。こういう食べ方がいいですよ、ということもお伝えしています。
農業を福祉につなげたい
⽯⾕征彦さん
児童養護施設への寄付は多いのですが、私が働いていた自立支援ホームは自分で働いて稼いだお金を食費や生活費に充てるんです。そのため、洋服などの寄付はあっても野菜の寄付はありませんでした。自分の畑が軌道にのったら、そういうところにも野菜を寄贈したいと強く思っています。
夢に向かって進むために、まずは生計を立てられる基盤を整えることが必要です。そのためにも、しっかり体力をつけて、細かいことももらさず身につけ、苦手なことは克服していく。そんな姿勢が石谷さんには見られました。
きっといい農家になって、子どもたちや施設の人たちにもおいしい野菜を届けられる日がくることでしょう。