海外で人気の焼き芋は?シンガポールではべにはるか、タイではふくむらさきが高評価|アジアの消費者調査の結果を解説

2020年のサツマイモの輸出実績を多い順に見てみると、香港、タイ、シンガポール、台湾が上位を占めています。特に、ここ数年ではシンガポールとタイへの輸出が急速に伸びていることから、現地で焼き芋に関する調査を実施しました。焼き芋を食べる頻度や好まれる品種などについてレポートします。


ベニアズマの焼き芋

写真提供:大槻寛(ベニアズマの焼き芋)
近年、海外で焼き芋ブームが巻き起こっています。特に、日本の品種を加工した焼き芋の人気が高まっていますが、海外ではどのようなサツマイモの品種が好まれるのでしょうか?今回はアジアに居住する一般消費者を対象に実施した、焼き芋の試食調査(以下、嗜好性(しこうせい)調査)の結果について報告します。

サツマイモの輸出が急激に伸びているシンガポールとタイで嗜好性調査を実施

サツマイモ
撮影:上西良廣
財務省「貿易統計」によると、2020年のサツマイモの輸出実績は約5,270トンで、多い順に内訳を見ると香港が約2,710トン(構成比51%)、タイが約1,140トン(22%)、シンガポールが920トン(17%)、台湾190トン(3.6%)となっています。特に、ここ数年ではシンガポールとタイへの輸出が急速に伸びていることから、シンガポールとタイの現地人を対象としたサツマイモ(焼き芋)の嗜好性調査を行いました。

シンガポールでは9割、タイでは約7割が焼き芋を食べた経験がある

焼き芋の喫食および購入に関する回答結果
図:上西良廣
シンガポールやタイの人々は、日ごろどの程度焼き芋を食べているのでしょうか?購入状況などに関するアンケート調査では、シンガポールでは9割以上が焼き芋を食べた経験があり、このうち8割以上が焼き芋を「とても好き」「好き」と回答しました。タイでは焼き芋を食べた経験のある人は約7割で、ほぼ全員が焼き芋を「とても好き」「好き」であり、どちらの国でも焼き芋が好まれていることがわかりました。

焼き芋はタイでは日常的な食べ物。約9割が月2回以上食べている

焼き芋を食べる頻度
図:上西良廣
焼き芋を食べる頻度は、シンガポールでは「月2~3回」「月1回」が多く、タイでは約半数が「週1回以上」、約4割が「月2~3回」と回答しています。
シンガポールでは、いわば非日常的な消費といえますが、タイでは焼き芋を食べる頻度が高く、より日常的な食品として定着しているようです。

購入時に重視するのは「香り」「肉色」「価格」。タイでは「大きさ」「形」を重視する人も

焼き芋の重視項目
図:上西良廣
焼き芋購入時に重視する項目は、どちらの国でも香り、肉色、価格が上位に。タイではこのほかに大きさ、形を重視する人も3~4割程度いました。一方、シンガポールでは生産国や栽培方法を挙げる人も見られ、焼き芋購入時の評価項目には少し違いがありました。

甘みの感じ方は両国共通

焼き芋の糖度の平均値
図:上西良廣
調査で使用したサツマイモはべにはるか、ふくむらさき、ベニアズマの3品種。分析用の焼き芋の糖度の平均値は、どちらの国でも3品種の中でべにはるかが最も高く、次いでふくむらさき、ベニアズマの順でした。

甘みの評価結果
図:上西良廣
甘みに関しての調査では、両国ともに糖度が最も高いべにはるかを「最も甘い」としており、ほかの2品種よりも甘いと評価しました。

シンガポール、タイとも日本産の焼き芋は人気

嗜好性調査の結果
図:上西良廣
焼き芋の好き嫌いを評価した全体評価を見ると、国や品種によって数値に少し違いはあるものの、シンガポールのベニアズマ以外は全体評価が9段階中で6点を超えており、日本産焼き芋の嗜好性は高いといえます。

シンガポールとタイで異なる品種別評価

調査用の焼き芋
撮影:上西良廣(冷凍便で輸送された調査用の焼き芋)

シンガポールではべにはるかの評価が高い

べにはるか
写真提供:大槻寛(べにはるかの焼き芋)
国ごとに品種別の評価を見ると、シンガポールではどの項目でもべにはるかの数値が最も高く、全体評価でもべにはるかが最も高い結果に。シンガポールでは糖度が高く甘みをより感じる品種、べにはるかやふくむらさきがベニアズマより好まれる傾向が見られました。

タイではふくむらさきやベニアズマが高評価

ふくむらさき
写真提供:大槻寛(ふくむらさき)
一方、タイでは色、味、食感、全体評価に関してはふくむらさきの数値が最も高い結果となりました。
甘みをより感じる品種の評価が必ずしも高いわけではなく、べにはるかよりもふくむらさきやベニアズマが好まれる傾向が見られました。

甘みが評価されるシンガポール、糖度が評価に影響しないタイ

各調査項目間の関係
図:上西良廣
シンガポール、タイ両国の違いをさらに検討するため、糖度と各評価項目の相関係数、および甘みとその他の項目の相関係数を確認しました。相関係数とは-1から1までの値を取り、1に近いほど正の相関(一方が増えれば、もう一方も増える)が強いことを意味します。例えば、シンガポールでは糖度と甘みの間に正の相関が見られましたが、これは糖度が増すと甘みの評価も上がることを意味しています。
糖度と甘みについては、両国とも正の相関が見られました。

シンガポールでは糖度が高く甘みをより感じた場合に味や全体の評価が高くなる傾向があり、糖度の高いべにはるかやふくむらさきが好まれました。

一方、タイでは糖度や感じる甘さは全体評価などに影響しておらず、ふくむらさきやベニアズマの方が好まれる傾向が見られました。シンガポールとタイでは焼き芋に対する嗜好性に違いがあり、興味深い結果でした。

サツマイモのさらなる輸出拡大に向けて

サツマイモの収穫
撮影:上西良廣
同じ東南アジアに位置するシンガポールとタイでも焼き芋に対する嗜好性は異なっており、シンガポールではべにはるかとふくむらさき、タイではふくむらさきの受容性が高いと考えられます。海外へサツマイモの輸出を考えている人は、品種選びの参考にしてみてはいかがでしょうか。

ふくむらさきの焼き芋
写真提供:大槻寛(ふくむらさきの焼き芋)
ただし、紫サツマイモのふくむらさきの場合、シンガポールでは味や食感に比べて色の評価が低い傾向にありました。輸出にあたっては、購入時の重視項目の一つである「生産国(表1-3)」や機能性(アントシアニン)などをアピールすることで、紫肉色への抵抗感をどの程度払拭できるのか、今後調査する必要があります。

今回のシンガポール、タイでの消費者調査の概要

調査用タブレット
撮影:上西良廣

調査課題

・1:対象国における焼き芋の喫食・購買行動の特徴を把握する。
・2:対象国における日本産焼き芋に対する嗜好性の特徴を把握する。


対象品種の選定

サツマイモ品種の特徴
図:上西良廣

・特徴が異なる主要品種として、べにはるか、ふくむらさき、ベニアズマの3品種を選定。
※ふくむらさきは農研機構が育成した紫肉色の新品種であり、2018年に品種登録出願が出された。普及品種のパープルスイートロードよりも濃い紫肉色で、蒸し芋や焼き芋の糖度が高く、食味が優れているという特徴がある。


嗜好性調査の実施方法

回答者の基本属性
図:上西良廣

・実施時期:シンガポール 2019年5月、タイ(バンコク)2020年2月。
・焼き芋の加工:2019年1月に日本の専門業者に委託し、両国分の3品種を同じ方法で焼き芋に加工して冷凍保管。


調査協力者について

・性別と年代(20代~50代)が均等になるように、現地の調査会社を通じて募集。
・嗜好性調査とその前段階のアンケート調査は調査会社が用意した会場で実施し、タブレットでの回答を依頼。


調査項目

・性別、年齢、居住地域などの基本属性や焼き芋の喫食・購買状況(好き嫌いの程度、喫食頻度、購入時の重視項目等)。
・試食した3品種の焼き芋に対する評価(甘み、色、香り、味、食感、全体評価)。甘みは5段階(とても甘い5点~甘くない1点)。
・それ以外の項目は好き嫌いに関する9段階(非常に好き9点~非常に嫌い1点)で回答。

ベニアズマとふくむらさき
撮影:上西良廣
調査時には、供試した焼き芋の糖度と回答者の回答結果がひも付くようにし、調査直前に常温の焼き芋を1.5cm程度の幅に輪切りにして、一枚の皿に3種類をのせた状態で提供するとともに、個体別に糖度(Brix値(%))を測定しました。
回答者はまず、基本属性と焼き芋の喫食および購買に関する設問に回答し、次に、提供したサンプルの色と香りを評価。最後に焼き芋を4回に分けて試食し、甘み、味、食感、全体評価の各項目を評価しました。なお、サンプルに関する情報(生産国や品種、品種特性など)は一切提供しませんでした。

今回の調査では、協力者を募集する形であったため、サンプルが実際よりもサツマイモあるいは焼き芋に対して好意的な消費者に偏っている可能性は否定できません。現地での持続的な市場拡大のためには、サツマイモや焼き芋に対して好意的でない消費者も含めた調査・分析が今後必要です。また、今回の調査では消費者の嗜好性を把握しましたが、それに基づく購入価格等の分析は実施できていませんので、さらなる調査・分析が必要です。

より詳しい内容が気になる方は、上西良廣ら(2021)「国産農産物の海外における消費者評価-シンガポールとタイにおける焼き芋の嗜好型官能評価をもとに-」『フードシステム研究』、27(4)、p.189-194をご覧ください。

参考:一般財団法人いも類振興会(2014)『焼きいも事典』いも類振興会.
農研機構(2018)「濃い紫色で食味の良い紫サツマイモ新品種「ふくむらさき」」https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/files/KARC_press_2018_11_15a.pdf(2021年5月閲覧)

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上西良廣

農研機構「農業経営分野」研究者。京都大学で博士(農学)を取得。地域のシンボルとなる生物と関連付けた栽培技術(兵庫県豊岡市の「コウノトリ育む農法」等)に関する調査や、新品種などを対象としたマーケティング調査を行っている。

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