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日本の年金制度についておさらい
まずは年金制度について確認しましょう。日本の公的年金には、「国民年金」「厚生年金」「共済年金」(2015年10月から共済年金は厚生年金に統一)の3種類があります。企業などで働くサラリーマンは国民年金(基礎年金)と厚生年金に加入しているのに対し、自営業の農家は国民年金にのみ加入しています。そのため老後に受け取れる年金の額に差があります。
厚生労働省の「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金(国民年金を含む)の平均受給額(月額)は146,000円なのに対し、国民年金の平均受給額は56,000円です。総務省の「家計調査報告」(令和元年)によると、夫婦二人暮らしで、夫が65歳以上の高齢者世帯の消費支出は平均239,947円です。この数字を見ると、国民年金だけでは生活が厳しいのが現状です。
農業者年金とは|加入条件や保険料などのポイント
農業者年金は、サラリーマンの厚生年金のような、いわゆる年金の「2階部分」にあたります。以下の条件を満たす農業者であれば、広く加入することができる年金です。・年間60日以上農業に従事している
・国民年金の第1号被保険者(国民年金の保険料納付免除者を除く)である
・20歳以上60歳未満である
農業者年金のメリット・デメリットは?
農業者年金には、大きく分けて3つのメリットがあります。・積立方式・確定拠出型で将来の受け取りが安心
・保険料が控除されるため節税効果も
・若い世代は保険料の国庫補助が受けられる
積立方式・確定拠出型で将来の受け取りが安心
農業者年金は「積立方式・確定拠出型」です。これは、将来の自分のために加入者自身が保険料を積み立てる方式です。年金の受給額は、積み立てた保険料とその運用益を合わせた額で決まります。一方、国民年金などの公的年金は「賦課(ふか)方式」を基本とした財政方式を採用しています。複数の現役世代が受給世代の年金を支えるため、保険料を支払う現役世代と受給世代のバランスが変化すると、将来受け取れる年金の額も変わります。
その点、農業者年金は個人で積み立てた保険料を原資としているので、少子高齢化が進む今の日本でも安心できる制度といえます。
保険料が控除されるため節税効果も
農業者年金の保険料は全額が社会保険料控除の対象になり、税金が安くなります。保険料によって差はありますが、支払った保険料の15~30%程度が節税になります。また、運用益は非課税のため、その分の将来受け取る年金の原資が多くなります。さらに65歳以上の年金受給者は、公的年金などの合計額が110万円までは全額非課税です。
若い世代は保険料の国庫補助が受けられる
農業者の所得は、その年の天候や農作物のできによって大きく変化します。経営が安定しない時期に「毎月20,000円の保険料を支払うのは厳しい…」という人でも、以下の条件を満たせば、国からの助成を受けて保険料の実質負担額を軽減できます。・39歳までに加入
・農業所得(配偶者、後継者の場合は支払いを受けた給料等)が900万円以下
・認定農業者で青色申告をしている人 など
35歳未満から加入すると保険料の国庫補助が受けられる期間は最長20年になります。つまり、若ければ若いほど国からの支援が手厚くなります。
農業者年金のデメリット
農業者年金はメリットがたくさんあります。一方で、こんなデメリットもあります。・脱退一時金はもらえない(年金として支給される)
・国民年金基金に加入していると、農業者年金に加入できない
・個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入していると、農業者年金に加入できない
また、すでに国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入していると、農業者年金に加入できません。この場合は、農業者年金のメリットと比較して加入を検討するとよいでしょう。
農業者年金の受給方法
受給資格|年金はどうやってもらう?支給日はいつ?
受給年齢の65歳から終身(生涯)受け取ることができます(60歳から繰り上げ受給することも可能)。国庫補助のない加入の場合は「農業者老齢年金」を、国庫補助を受ける加入の場合は「農業者老齢年金」と「特例付加年金」の2つを受給できます。受け取りは2、5、8、11月の年4回で、3カ月分ずつ振り込まれます。ただし、受給額の年額が12万円未満の場合は、年1回、11月に支払われます。支払日は各月10日(土曜日、日曜日または祝日の場合は、その直前の平日)です。
受給するためには、「農業者年金受給権者現況届」を毎年6月中に農業委員会に提出し、年金を受け取る資格があるかどうかの確認を受けます。
受給額はいくらもらえる?確定申告は必要?
例えば、30歳から加入し月額保険料2万円を支払った男性の場合、65歳から年間約50万円、月額約4万1千円を受け取れます。国民年金と農業者年金等の合計額が400万円以下であり、かつ、公的年金等以外の所得金額が20万円以下の場合は、所得税及び復興特別所得税の確定申告は不要です。経営移譲した場合や死亡したらどうなる?
経営移譲した場合は「特例付加年金」が受給できる
農業者年金に加入している人で、以下の条件を満たすと「特例付加年金」を受給することができます。・39歳までに加入
・65歳に到達(60歳まで繰り上げ可能)
・経営移譲(経営継承)し、農業を営む者でなくなること
さらに、受給のためには農業経営から引退すること、つまり経営移譲(経営継承)する必要があります。なお、受給開始時期は原則65歳からですが、60歳まで繰り上げて受給することができます。経営継承の時期についての年齢制限はないため、後継者と相談し時期を決めるとよいでしょう。
受給を始めるためには、「農業者年金受給権者現況届」を提出するほか、経営移譲(経営継承)を行ったことを示すために各種名義を変更し、農業委員会に届け出なければなりません。経営移譲(経営継承)を進めているのであれば、名義人の変更も忘れないようにしましょう。
後継者のいない農家が第三者に経営移譲するには?
万が一の場合、遺族年金はいつまでもらえる?
年金を受給する前や受給中に亡くなった場合、80歳未満であれば死亡した翌月から80歳到達月までに受け取れるはずであった年金に相当する額が、死亡一時金として遺族に支給されます。農業者年金を活用して安心して過ごせる老後を
農業者年金は、農業者にとってメリットが多い制度です。とくに若いうちに加入すれば将来受け取れる金額も大きくなります。メリットとデメリットを比較し、老後の資金作りの一つとして考えてみてはいかがでしょうか。加入には独立行政法人 農業者年金基金、または最寄りの農業委員会、JAに問い合わせてみましょう。