日本の農業が抱える課題


日本の農業の課題について、農業法人の経営支援や企業の事業開発を支援してきた食と農業専門の戦略コンサルタントが徹底解説します。農業の課題と言うと、経営体の減少、農業者の高齢化、TPPによる国産農作物の販売不振、食糧自給率の低下などが頭に浮かびますが、どれも本質的ではありません。では、「日本の農業課題」とは何でしょうか。

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農業の発展に努め、豊かな社会づくりに貢献することを企業理念に、農業専門の戦略コンサルティングに取り組んでいます。企業向けの事業開発コンサルティングから、農業法人の経営支援、全国各地の地域づくり・地域活性にも力を注いでいます。…続きを読む

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日本の農業を取り巻く課題は数多くあります。この記事では、そういった課題の中から代表的なものを紹介していきます。新たな視点から農業の現実を知ることで、農業関連ビジネスのヒントが見つかるかもしれません。興味のある方は是非お読みください。

農業の課題

「日本の農業課題」というと、経営体の減少、農業者の高齢化、TPPによる国産農作物の販売不振、食糧自給率の低下などが頭に浮かびます。まず、おさえておかなければならないことは「日本の農業」とはいったい何なのか、ということです。
農業とは、概念です。概念として表現される「農業」における課題は、実は現実を正しく捉えていません。
農業とは、農場という経営現場を概念的に、集合体としてとらえた言葉です。よって、「日本の農業課題」を正しくとらえるためには、「日本の農場課題」をとらえれば、良いのです。

では、「農場の課題」とはなんでしょうか。
今回は4つの視点からみていきます。

1.水田余剰と収益性の低さ
2.狭小多数分筆による生産効率の低さ
3.農地情報、農場情報(土壌、気候、水質等のデータ)記録が不十分なことによる流動性の低さ
4.労働力不足

 

1. 水田余剰と収益性の低さ

日本の耕地面積439万ha(「令和元年 耕地及び作付面積統計」農林水産省統計部)のうち、水田が一番広く239万haを占めます。その水田で生産される主食用米は年間約750万トンにのぼりますが、米の消費量は年々減少しており、現在550万トン程度であり、米余りといえる状況です。

戦後の食糧確保が急務だった時代、国主導の土地改良事業により、誰でも米を作れるように整備され、農家が作る米は政府が買い上げ、貧しい人にも米が行き渡るようになりました。やがて、米が余るようになり、1971年から、政府は一転して、生産調整(減反政策)をおこないます。

2018年からは、そのような政府主導の減反政策から、地域主導の水田活用に切り替えられました。近年は、主食用米の価格が低下していることもあり、新潟などの大規模な米生産地を中心に、水田の利活用が始まっています。

水田の利活用の後押しになっているのが、「水田活用の直接支払交付金」です。米の場合、反当たり約10万円の収益があがりますが、麦や大豆に転作した場合、反当たり約3万円と収入が減ってしまうため、その不足分を賄う補助金にあたります。

しかし、補助金はいつまで続くか保証されておらず、補助金に依存した農場経営は危険であることから、①作業時間を減らすなど補助金がなくても経営できるようにする、あるいは、②土を作り直して反当たり売上が高い野菜を作れる畑にすることが今後求められます。

水田活用レポート


2. 狭小多数分筆による生産効率の低さ

日本は国土が狭いうえに山林も多く、人口も多いため農地に割ける面積が少なくなります。そのため、世界的に見ると戸あたりの耕地面積は下位に位置しています。少ない面積にヒト・カネをかけて農業をするため、集約農業ともいわれています。

また、農地を貸し出す場合、反あたり数万円/年と、二束三文にしかなりません。そのため、いつか企業や国からの農地の買取依頼が来れば高く売れるのではないかと手元に残しておこうとする農地地権者がいて、農地がまとまらないのです。農地がまとまらないことで、小さい圃場間の機械や人の移動や出入りに時間がかかり、農作物の生産効率が低くなる問題がおこります。

今後、高齢化が進むと余剰農地が増えることが予想されます。空いた農地を地域にとって有効に活用することが求められるため、地域の実情に合わせて農地集約のキーマンが中心に立ち、まとめていくことが必要になります。

加えて、平成24年から「人・農地プラン」により、農地の将来を国や県でなく地域ごとに考える方針としましたが、自治体職員や自治体コンサルティング会社が当たり障りなく描いたものが大半のようです。「人・農地プラン」を描いたものの進行していない自治体も多く、農林水産省としても実質化できていないと危惧しています。

地域と並走してくれるキーマンとしてふさわしいのは自治体なのか、企業なのか、地元住民なのか、など地域特性を踏まえて検討するべきだと考えます。

3. 農地情報、農場情報(土壌、気候、水質等のデータ)記録が不十分なことによる流動性の低さ

農地を貸し出したいと考えても、貸し手と借り手がマッチングできない問題があります。
『農地バンク』などがあるので、農地が欲しい人とすぐにマッチングはするのではないかとお考えの方もいるかも知れません。しかしながら、掲載されている情報は「住所」「農地用途」「地権者の意向」程度のものになります。このような情報は、農地をただの土地、場所として把握するだけであり、農場で経営を行う農業法人や農家にとっては有益な情報ではありません。農場を経営するには「過去にどのような作物を作ってきたか」「栽培にどのような肥料や農薬を使ってきたか」という土壌状態に関する情報や、「売買や賃貸借の価格」「周辺道路、農道に進入できる車(トラック)の大きさ」などが必要最低限の情報になりますが、これらが一切掲載されていません。このように、農場経営をやる前提になって、借り手、買い手の判断に必要な情報と紐付けられていないため、『農地バンク』は想定の3割程度しか利用されていない現状があります。

また、日本の土壌は世界的に見て肥沃であると言われていますが、一方で栄養過剰の懸念もあります。隣り合っている圃場であっても土壌の状態は異なるため、肥料もそれぞれの圃場で設計し直さなければならないはずです。しかし、多くの農家は肥料袋の裏に書かれている通りに施肥したり、JAや普及員、肥料屋の感覚を頼りに施肥したりすることが多いのが現状です。そのため、農地保有者自身も土壌の状態を意識していたいため、貸し出す際に土壌情報が掲載することができていません。

企業は土壌の重要性を認識しており、多くの土壌分析サービスがリリースされていますが、土壌分析の重要性を理解していない農家や、分析結果をどのように活かすかがわからない農家が多いために、サービス利用者が増えないというジレンマを抱えています。

しかし、レベルの高い農家とともに仕事をしていると、土壌に関するサービスへのニーズは大きいと感じています。「農林業センサス」のデータを元に弊社独自に推計したところ、2025年には農業経営体上位5%で農業販売額65%を生産するようになるとみています。言い換えると、1農業経営体が大規模化していくということです。このような方々が求める農地情報を公開するシステムが求められます。

4. 労働力不足

農業者も労働力不足が続いています。移住によって労働力不足の補おうと動いている自治体もありますが、全国の人口が減っていくことが予想されているいま、移住による労働者確保には限界があるといえます。

海外では農業労働者比率は1~1.5%ですが、日本は3.8%と農業労働者が多いといえます。これは先述したように狭小多数分筆により農業者自体が多いことも影響していますが、これまで人海戦術で規模拡大を進められてきましたが、人口減少を前提とすると省力化が喫緊の課題です。労働時間もコストと考え、機械とのコスト比較をする必要があります。

省力化のために機械化を進めることになりますが、機械化するポイントを間違えていることで各地に無駄な資源が増えていると感じています。例えば、地域内のすべての農業者がトラクターを保有し、それぞれ稼働している期間よりも、車庫にしまわれている期間の方が長いような場合もあります。

一般的な産業がそうであるように、分業化を進めることで、専門化・標準化も進み、質の高い生産を行うことが可能になります。そのため、これからは、地域内の資源活用の効率化を目指していくことが必要です。

農業法人・農業経営の課題

続いて、農業法人・農業経営の課題として、大きく3つあると考えています。

1. 経営/資本/労働のバランス
2.天候リスクのマネジメント
3.人材の確保


1.経営/資本/労働のバランス

まずひとつは、経営/資本/労働のバランスに対する経営者の理解です。
健全な経営とは、経営/資本/労働の均衡を保ち、それぞれを拡大していくことを目指すため、不得意なところや欠損しているところは、外部から補ってバランスを取ることが必要になります。一般的な企業であれば経営者と労働者は異なりますが、農業者は外部化しづらい慣習があり、経営者自身が経営を行いながら、労働も行うことが多い特徴があります。そのため、経営者が経営に注力できない環境になりやすいです。

これからは農業法人も、労働者を外から連れてくる(社員の雇用等)、資本を外から入れる(民間からの融資等)、経営を外から雇う(経営者のスカウト等)ことが必要になっています。

2.天候リスクのマネジメント

もう一つは、天候リスクのマネジメントをどのように行うかです。
近年では台風や豪雨、長雨による日照不足、暖冬などが増えており、農業経営における大きなリスクになっています。例えば台風にあった場合、時期によっては、その時栽培している品目による売上が見込めないだけでなく、ハウスや圃場などを使用できるように整備するために日数や費用がかかります。

それらのリスクをカバーするためにできることとして、①保険への加入、②技術の導入、③生産地域の分散、④経営の多角化、⑤環境制御が考えられます。これまでも自治体やJAによる補償がありましたが、民間の損害保険会社でも天候デリバティブ商品が一般的になってきています。農業者は、天候リスクを理解した上で、どのようにマネジメントするかを考える必要があります。

3.人材の確保

最後に、人材の確保です。
農業は一般教育の中で学ぶことが少なかったり、学問として学ぶ時期が遅かったりすることから、若い人材は、農業界や農業法人経営、農政の魅力を知らないままキャリアを考え、就職活動に取り組みます。
農業界の産業的魅力が十分に広報できていないことから、大学を卒業した新卒や第二新卒などのいい人材が入ってこないことが問題だと感じています。そこで弊社では2013年から、農業と食の就・転職フェア「Agric(アグリク)」を行っています。

今後、農業法人の大規模化が進むことで、人材の確保・教育・定着は重要なカギになります。引き続き、農業界の魅力をPRすることは前提ですが、農業法人の視点でみると人材の採用・教育等への支援に期待があります。農業法人も、自社で目指せる成長やキャリア、生活、交流など、若者が考える幸せをどう実現できるのかを明確に示していく必要があり、その伝え方を検討するフェーズに入っていると感じています。

新規参入の課題|新規就農、企業参入

事業はヒト・モノ・カネ・情報で出来上がります。そこで4つの視点から課題を整理したいと思います。

1.ヒト

これまで多くの新規就農希望者、農業参入検討企業の方々と議論してきましたが、農業ビジネスが続かないケースにおいては、「志がない、足りない」ことが共通の課題であると感じています。
新規就農であれば「他の仕事は続かなかったけれど、農業くらいだったら自分でもできるかな」「会社務めに疲れたから一人でできる農業をしよう」、企業参入であれば「これからのSDGs、ESGというテーマに基づいている業界だから手をつけておこう」「社長から、経営陣から、農業事業を何か考えるよう指示が出たから」など、自身が新事業として農業ビジネスを成功、持続させる挑戦の想いがない、あるいは低いことが多いです。
農業生産であれば収穫まで収入はなく、昔ながらのしがらみや慣習も多く、投資回収までには5年~10年かかることを念頭に置いた、中期的な思考が必要です。そのように簡単ではないからこそ、「どうして農業をするのか」「なぜ農業事業なのか」を掘り下げた「志」がなければ、途中で挫折してしまうのです。

2.モノ

新型コロナの拡大を受けて、一般家庭でも家庭菜園が広がりましたが、種自体に育つチカラがあるため、野菜を作るだけであればそれほど難しいことではありません。しかし、経営においては、顧客のニーズをとらえることに始まり、ニーズにあった商品を、安定収量・安定品質、安定価格で提供し続けねばなりません。そういう意味では、日本においては、まだまだモノ(農作物)を作る技術が軽視されています。海外の農業者においては、植物整理、土壌学、気象学、化学、科学、様々な学問を学んで、農場を運営しています。
もっとモノづくりが上手になるための、食材製造業としての研究、学び、投資が必要になります。

3.カネ

補助金から発想して事業を考える方もいますが当社ではおすすめしませんし、補助金獲得のためのコンサルティングも行っていません。補助金の活用には条件があり、「やりたいことができない」「途中で方向切り替えしたくてもしづらい」ということが起きやすく、「やるべきことが増える」という課題もあります。そのため、やりたい事業から発想し、条件に合う補助金を探すことが得策であると考えています。

4.情報

特に企業参入において、事業性を評価するための情報を収集することが難しく、不確かな情報や、断片的な情報から参入領域を見誤ることも多いように感じます。事業の段階によって必要な情報や接するべき農業プレイヤーが異なります。農業界を広く俯瞰してから、深く絞り込むことがポイントになります。

まとめ

今回は、「農業の課題」「農業法人・農業経営の課題」「新規参入の課題」についてみてきました。課題があるということは、そこにはビジネス機会があるということです。みなさんの企業が持つリソースで解決できる課題もあるのではないかと思います。それぞれの立ち位置から農業界の発展に努められたらと考えています。

アグリコネクト株式会社 コンサルティンググループ
執筆者:山口ひとみ
大学では地域経済学を専攻。大学外で自治体や地域団体とともに活動を行う。
卒業後はマーケティングリサーチ会社に就職し、調査を通じて新事業・新商品開発、プロモーション戦略構築などの支援を行う。その後、アグリコネクト株式会社に入社。
これまでは、「地域活性事業の事業戦略構築・実行支援」「地域リーダーの人材育成」「移住をともなう就農プログラムの策定・実行支援」「農業法人における加工事業部の商品開発・販路開拓支援」などに従事。
マーケティングリサーチの経験を活かしながら、生活者志向の持続可能な農業経営/地域づくりの支援を行っている。

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