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橋本將詞社会保険労務士事務所
橋本 將詞2001年に橋本將詞社会保険労務士事務所を開業。農業労務管理、就業条件の作成、労働時間管理、事業継承など農業経営を人事面からサポート。2010年には、特定農作業従事者団体 京都農業有志の会を設立。 https://www.sr-hasimoto.com/…続きを読む
雇用契約に際しては社会保険労務士からのアドバイスも参考にしてください。
特定技能とは
「特定技能」とは、深刻な人手不足に対応するため、2019年4月から導入された在留資格です。この資格が創設された目的は、生産性を上げたり、国内で求人をしたりしても人材を確保することが難しい産業上の分野において、一定の専門性や技能を持った外国人を受け入れる仕組みをつくることにあります。「特定技能1号」と「特定技能2号」|1号は農業、介護、外食など14職種
特定技能には1号と2号がある
在留資格「特定技能」には、特定技能1号と特定技能2号があります。1号に比べて、2号はより熟練した技能を要する業務に従事する外国人を対象にしています。特定技能1号と2号の違い
特定技能1号と2号の違いは下の表のとおりです。農業分野は特定技能1号のみが認められています。特定技能1号の在留資格を持つ外国人が従事する活動は、特定産業分野の業務で、相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務でなければなりません。「相当程度の知識または経験」とは、相当期間の実務経験等を要する技能をいい、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準のものをいうとされています (出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」)。在留期間の上限は通算5年とされていますが、繁忙期のみに雇用し、農閑期などに帰国してもらうことも可能です。特定技能の特定産業分野が14分野あるのに対し、特定技能2号の特定産業分野は「建設」と「造船・舶用工業」に限られています。特定技能2号で定める技能水準があると認められれば、特定技能1号を経なくても特定技能2号の在留資格を取得することができます。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 1年、6カ月または4カ月ごとの更新、通算で上限5年まで | 3年、1年または6カ月ごとの更新 |
技能水準 | 試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) | 試験等で確認 |
日本語能力水準 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認 (技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) | 試験等での確認は不要 |
家族の帯同 | 基本的に認めない | 要件を満たせば可能(配偶者、子) |
特定技能所属機関または登録支援機関による支援 | 対象 | 対象外 |
特定産業分野 | 介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業 | 建設、造船・舶用工業 |
特定技能外国人の求人はどうしたらいい?
特定技能外国人の求人については、外国人技能実習生の受入経験のあるJAや帰国した技能実習生のネットワークなどから紹介を受けるという方法、ハローワーク、民間の職業紹介所を介しての採用活動などが考えられます。また、後述する外国人在留支援センターに相談してみてもよいでしょう。直接雇用する方法のほか、JAや派遣事業者が雇用した外国人材を派遣してもらうケースもあります。
特定技能外国人を受け入れるときの注意点
出入国・労働法令違反がないこと
特定技能外国人を受け入れる機関には、5年以内に出入国・労働法令違反がないこと、労働者を6カ月以上雇用した経験があること(派遣形態の場合には、派遣先責任者講習その他これに準ずる講習を受けた者を派遣先責任者に選任していることでも可)が求められます。また、報酬額が日本人と同等以上など雇用契約が適切であり、その報酬を正しく支払うなど契約を確実に履行する必要があります。
そして、受け入れた特定技能外国人への支援を適切に実施しなければなりません。雇用にあたっては、出入国在留管理庁に受入状況などの各種届出も必要です。
このようなことが守られない場合、出入国在留管理庁から指導、改善命令等を受けることがあるので注意しましょう。
税、労働保険、社会保険などの手続きも適切に
特定技能外国人を受け入れる機関は、原則として2年に一度、税、労働保険、社会保険関係の書類の提出が求められ、各種法令が遵守されていることの確認が行われます。特定技能制度で外国人を雇用するまでの流れ|在留中の場合と海外在住中の場合
特定技能の在留資格で外国人を雇用するためのステップを見ていきましょう。技能実習生や留学生など、日本国内に在留している外国人を雇用する場合
STEP1|外国人が試験に合格または技能実習2号を修了する
特定技能外国人は18歳以上でなければなりません。また、試験に合格し技能水準と日本語能力水準が基準に達していることが必要です。ただし、受け入れる外国人が技能実習2号を良好に修了しており、従事しようとする業務と技能実習2号の職種・作業に関連性が認められる場合には、試験などによる証明は免除されます。STEP2|特定技能外国人と雇用契約を結ぶ
雇用契約は、特定技能外国人の報酬の額が日本人と同等以上の必要があります。契約締結後に、事前ガイダンスや健康診断を実施します。STEP3|特定技能外国人の支援計画を策定する
雇用する場合には、特定技能外国人を支援する必要があり、その支援計画を策定する必要があります。支援や支援計画の策定については、登録支援機関に委託することができます。登録支援機関とは?
受入れ機関(特定技能所属機関)から委託を受け、1号特定技能外国人支援計画の全ての業務を実施する者のこと。出入国在留管理庁のウェブサイトに掲載されています。2021年8月20日現在6,349件の登録があり、株式会社のほか、農協なども含まれています。
STEP4|在留資格変更許可申請を行う
在留資格変更許可申請を地方出入国在留管理局へ行います。原則は外国人本人による申請ですが、地方局長に申請等取次者として承認を受けた場合、取次ぎが可能です。提出書類の中に「受入れ機関の概要」や「特定技能雇用契約書の写し」など受け入れ機関が用意すべきものがあります。申請に必要となる主な添付資料
・受入れ機関の概要
・特定技能雇用契約書の写し
・1号特定技能外国人支援計画
・日本語能力を証明する資料
・技能を証明する資料
など
STEP5|「特定技能1号」へ在留資格変更
「特定技能1号」に在留資格変更となります。STEP6|就労開始
就労を開始します。海外在住外国人を雇用する場合
雇用契約の締結や支援計画の策定は、在留外国人の場合と同じですが、外国人が在外公館にビザを申請する必要があることに注意が必要です。STEP1|外国人が試験に合格または技能実習2号を修了
技能実習2号を良好に修了していれば、申請時点で日本に在留していなくても試験は免除されます。STEP2|特定技能外国人と雇用契約を結ぶ
雇用契約を締結します。(上記、日本国内に在留している外国人を雇用する場合を参照してください)
STEP3|特定技能外国人の支援計画を策定する
支援計画を策定します。(上記、日本国内に在留している外国人を雇用する場合を参照してください)
STEP4|在留資格認定証明書交付申請を行う
在留資格認定証明書交付申請を地方出入国在留管理局へ行います。原則は本人による申請ですが、地方局長に申請等取次者として承認を受けた場合、取次ぎが可能です。在留資格認定証明書交付申請は、外国人が18歳未満であっても行うことは可能ですが、日本に入国する時点においては、18歳以上でなければなりません。
なお、在留資格認定証明書の有効期間は、交付日から3カ月以内のため、外国人が18歳未満で在留資格認定証明書交付申請を行う場合は、在留資格認定証明書の有効期間を考慮して申請する必要があります。
STEP5|在留資格認定証明書受領(受入れ機関から本人への送付)
在留資格認定証明書を受領したら、本人へ送付します。STEP6|在外公館に査証(ビザ)申請
本人、もしくは代理人が各国・地域に所在する在外公館に査証(ビザ)を申請します。STEP7|査証(ビザ)受領
申請を受け付けた在外公館が査証(ビザ)を発行したら受け取ります。STEP8|入国
特定技能外国人が入国します。STEP9|就労開始
就労を開始します。特定技能の試験について
各産業分野の試験
「特定技能」の在留資格を得るためには、各産業分野の試験に合格する必要があります。農業は一般社団法人全国農業会議所が行う「農業技能測定試験」(ASAT:Agriculture Skill Assessment Test)になります。試験には「耕種農業」と「畜産農業」の2種類があり、就職を希望する分野の試験を受験します。それぞれ農業支援活動を行うために必要な日本語の能力を有しているか確認するための試験問題が含まれています。全国農業会議所のウェブサイトにはサンプル問題や学習用テキストが掲載されているので、参考にすることができます。出典:一般社団法人全国農業会議所「農業技能測定試験|学習用テキスト」
日本語試験
全分野共通の日本語試験は、独立行政法人国際交流基金が実施する「日本語基礎テスト」(JFT-Basic:Japan Foundation Test for Basic Japanese)になります。試験は、「文字と語彙」「会話と表現」「聴解」及び「読解」の 4セクションで構成されています。ウェブサイトにはサンプル問題や学習に役立つ情報が掲載されています。出典:国際交流基金日本語基礎テスト「学習のヒント」
登録支援機関や受入機関は特定技能外国人にどんな支援が必要?
特定技能制度で外国人を受け入れる際には、受入外国人が在留資格に基づく活動を安定的かつ円滑に行えるように、日常生活や社会生活を送るうえで支援を行う必要があります。これらの支援については、登録支援機関に委託することが可能です。1. 事前ガイダンスの提供
雇用契約の締結をしたら、受入外国人に係る在留資格認定証明書の交付の申請前あるいは在留資格の変更の申請前に、事前ガイダンスを行います。事前ガイダンスは受入外国人が十分に理解できる言語で、対面もしくはビデオ通話などで行われる必要があります。2. 出入国する際の送迎
受入外国人が出入国する際に、空港や港と事業所との間の送迎をすることが求められます。特に出国時については、保安検査場の前まで同行し、入場することを確認する必要があります。3. 住居の確保・生活に必要な契約に係る支援
住居の確保についての支援も必要です。まず、不動産仲介事業者や賃貸物件の情報を提供し、必要に応じて一緒に行って住居探しの補助を行います。または、受入機関等が賃貸物件を借りたうえで、受入外国人に対して住居として提供したり、受入機関が所有する社宅等を提供したりする方法もあります。いずれも、受入外国人本人の同意に基づいて行います。またこれらの支援は受入外国人が転居する際にも必要となります。また、銀行口座の開設や携帯電話の利用契約、電気・ガス・水道などのライフラインの契約などにに関して、必要な書類の提供や窓口の案内を行い、必要に応じて同行するなど、手続の補助を行います。
4. 生活オリエンテーションの実施
受入外国人が日本に入国したあと、日本における生活が円滑に営めるよう、生活オリエンテーションを実施する必要があります。このオリエンテーションは入国後速やかに、対象者が十分理解できる言語で、概ね8時間以上行われることが求められています。オリエンテーションの具体的な内容は、出入国在留管理庁ウェブサイトに掲載されている「生活・就労ガイドブック」が参考になります。
5. 公的手続き等への同行
社会保障や税などの手続の同行や書類作成の補助を行います。6. 日本語学習の機会の提供
受入外国人の希望に基づき、日本語教室や日本語教育機関に関する入学案内の情報や、日本語学習教材の情報を提供するなど、日本語を学習する機会を提供します。7. 相談または苦情への対応
受入外国人から、職業生活や日常生活に関する相談または苦情の申出を受けたときは、受入外国人が十分に理解することができる言語で適切に応じ、相談などの内容に応じて必要な助言や指導、適切な機関の案内や手続きの補助を行います。8. 日本人との交流促進に係る支援
必要に応じて、地域住民との交流の場についての情報を提供したり地域の自治会などの案内を行います。また、交流の場に一緒に行き、各行事などへの参加の手続や、各行事の注意事項や実施方法を説明するなどの補助を行います。9. 特定技能雇用契約を解除する場合の転職支援
人員整理や倒産などの理由で受入機関が特定技能雇用契約を解除する場合には、受入外国人が他の公私の機関との特定技能雇用契約に基づいて特定技能1号としての活動を行えるよう、転職先を探す手伝いや、推薦状の作成、求職活動を行うための有給休暇の付与や必要な行政手続の情報の提供などを行います。10. 定期的な面談の実施、行政機関への通報
受入機関は労働状況や生活状況を確認するため、受入外国人及びその監督をする立場にある直接の上司や雇用先の代表者などと定期的(3カ月に1回以上)な面談を実施する必要があります。面談は対面で、受入外国人が十分に理解することができる言語で実施します。支援担当者は、面談により労働法令や入管法違反などの問題の発生を知ったときは、労働基準監督署や地方出入国在留管理局に通報する必要があります。上記は、必要最低限の支援を紹介したものです。受入にあたっては、特定技能外国人が日本国内でスムーズに生活できるようきめ細やかに支えていく必要があります。下記ウェブサイトに掲載の「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」には、「任意的支援」として、詳細な支援内容にも触れていますので、参考にしてください。
参考:出入国在留管理庁「特定技能運用要領・各種様式等」
特定技能外国人の受入事例
一般社団法人全国農業会議所のウェブサイトには、特定技能外国人と受入農家のインタビュー動画が掲載されています。長野県の畜産農家と沖縄県の耕種農家の事例で、即戦力となる特定技能外国人を受け入れて、規模拡大など経営にプラスとなる影響があったことがわかります。外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)で相談できる
特定技能外国人を雇用するにあたって、わからないことや相談したいことができた場合にはどうしたらよいのでしょうか。外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)は、4省庁8機関が集まり、外国人を雇用する事業主や外国人に労務管理や労働安全衛生管理、労働条件に関する相談・支援等を行う機関です。予約制の対面相談、電話相談、オンライン相談が選べるので、相談してみましょう。出入国在留管理庁「外国人在留支援センター」
出入国在留管理庁「在留相談(東京出入国在留管理局)」