- AGRI PICK 編集部
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コナガ( Plutella xylostella)(L.)は世界的にアブラナ科作物の重要な難防除害虫の1種として知られています。1雌の産卵数は100~200粒で、主に葉裏の葉脈や凹凸のある場所に産卵します。ふ化直後の幼虫は、葉肉内に食入して1齢期間を過ごします。2齢以降の幼虫は葉裏で表皮を残し、葉肉だけを食害して4齢を経過します。
コナガによる被害拡大と殺虫剤耐性
コナガによる被害は1960年代以降に拡大し、幼虫の発生が最も多いキャベツの周年栽培や栽培面積の拡大が原因の一つとして考えられてきましたが、殺虫剤抵抗性の発達なども原因とされています。コナガの薬剤抵抗性は、1970年代中ごろから有機リン剤の効力低下に始まり、1980年代からはカーバメート剤への抵抗性が顕在化しました。その後も合成ピレスロイド剤、キチン合成阻害剤の抵抗性を発達させてきました。また、近年ではコナガに対して卓効を示してきたジアミド系殺虫剤は効果の低下が全国各地で問題視されています。効果が高い「サブリナフロアブル」
殺虫効果が認められる薬剤が限定される中、微生物殺虫剤であるBT剤の「サブリナフロアブル」は、これまでキャベツの圃場試験でコナガの密度抑制効果が高い結果を得ています。本剤はBT剤のなかでも特異的で、植物由来の油脂成分を含有し、今後、化学成農薬に抵抗性を発達させたコナガの防除資材として利用が期待できます。
そこで、本稿では2016年に鹿児島県農業開発総合センター大隅支場で実施したサブリナフロアブルコナガに対する効果試験で得られたいくつかの知見を紹介します。
サブリナフロアブルの卵期処理での効果
1枚当たり18~23個が産卵されたキャベツ葉を、各種BT剤の薬液に30秒間浸し、処理96時間後に卵及びふ化幼虫の状態を調査しました(試験は3反復で実施)。その結果、サブリナルフロアブルのふ化直後の幼虫死亡率は72%であるのに対して、そのほかBT剤の死亡率は0%でした(表1)。サブリナフロアブルは特異的に卵期処理でふ化直後のコナガに効果を示しました(図1)。一般的なBT剤は若齢幼虫期のみに効果を発揮しますが、サブリナフロアブルは若齢幼虫期だけでなく、特異的に卵期にも効果があることから、複数の生育ステージに有効で、散布敵期がより広いことがわかりました。
供試薬剤 | 希釈倍率 | 系統 | 種類 | 供試卵数 ※a | ふ化直後の 幼虫死亡率(%) |
サブリナフロアブル | 1000 | アイザワイ系 | 生菌 | 61 | 72.1 |
A剤 | 1000 | クルスターキ系 | 生菌 | 63 | 0 |
B剤 | 1000 | アイザワイ系 | 生菌 | 67 | 0 |
C剤 | 1000 | アイザワイ系 | 生菌 | 59 | 0 |
D剤 | 1000 | クルスターキ系 | 死菌 | 67 | 0 |
無処理(水道水) | - | - | - | 65 | 0 |
サブリナフロアブルの3齢幼虫期処理での効果
キャベツ葉を各種BT剤の薬液にそれぞれ30秒間浸漬し、プラスチックシャーレ内に入れました。その後、3齢幼虫を10頭ずつ接種し、処理96時間後までの生死を確認しました(試験は3反復で実施)。その結果、サブリナフロアブルの殺虫効果は高く、処理24時間後の死亡率は90%で、処理48時間後にはすべての供試虫が死亡したことから(表2)、サブリナフロアブルはコナガ幼虫に対して即効的なBT剤であることが明らかになりました。
供試薬剤 | 希釈倍率 | 供試虫数 ※a | 死亡率 | |||
24時間後 | 48時間後 | 72時間後 | 96時間後 | |||
サブリナフロアブル | 1,000 | 30 | 90.0 | 100 | 100 | 100 |
A剤 | 1,000 | 30 | 90.0 | 100 | 100 | 100 |
B剤 | 1,000 | 30 | 66.7 | 93.3 | 100 | 100 |
C剤 | 1,000 | 30 | 73.3 | 96.7 | 96.7 | 96.7 |
D剤 | 1,000 | 30 | 3.3 | 10.0 | 10.0 | 13.3 |
無処理(水道水) | – | 30 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
キャベツ圃場でのサブリナフロアブルのコナガに対する防除効果
供試品種は”金系201号”とし、各種BT剤の葉液をキャベツ定植28日後(本葉7~8葉期)に背負い式噴霧器で100L/10a相当量散布しました。調査は各区から10株を設定し、コナガ幼虫および蛹(さなぎ)の寄生虫数を散布前、散布4日後、散布8日後および散布11日後に3反復で計数しました。各区での処理前の10株当たり寄生虫数は15.3~16.7頭で、無処理では処理4日後には30頭以上、処理8日後には60頭以上に増加しました。これは、キャベツがコナガによって暴食され、コナガの生息場所としては不適な環境となったことが原因として考えられました。
調査結果では、サブリナフロアブルの散布11日後までの寄生虫数はほかのBT剤に比べて少なく推移しました(図2)。室内試験において、本剤はほかのBT剤に比べてふ化直後の幼虫死亡率が高く、3齢幼虫に対しても高い殺虫効果が認められました。キャベツ圃場ではサブリナフロアブルを処理することで、散布11日後までのコナガ密度はほかのBT剤に比べて少なく推移しており、これは卵期および幼虫期における本剤の効果が高いためと考えられました。
おわりに
サブリナフロアブルは植物油脂を含むBT剤で、コナガに対して効果が高いことから、コナガ防除体系の1剤として使用が可能であるとともに、化学合成農薬の使用回数の削減にもつながるものと考えられます。参考文献:福田健『サブリナフロアブルを用いたコナガの防除』(技術と普及9月号[2019年])
[薬剤名] サブリナフロアブル
特長
1.卵期処理でふ化直後のコナガに効果がある
2.JAS(日本農林規格)が定める有機農産物生産にも使用することが可能
3.作物の汚れが少ないフロアブルのBT剤
サブリナフロアブルを使用する農家に聞いた効果や使用方法はこちら。