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繁殖牛経営と肥育牛経営
牛を育てて牛肉として出荷する畜産業を「肉用牛経営」といいます。母牛に子牛を産ませて、育てて、出荷するのが肉用牛経営の仕事ですが、子牛を生産・販売する「繁殖牛経営」と、育てて肉として出荷する「肥育牛経営」のどちらかを専門として行っている農家が多いです。これに対し、繁殖・肥育の双方を一貫して行っている場合を「一貫経営」といいます。子牛が生まれてから出荷されるまでの期間は約30カ月で、体重30kgぐらいの子牛が、出荷されるときには600~700kgになります。
肉用牛の飼育戸数や飼育頭数は?
畜産統計調査によると、2018年の全国の肉用牛の飼育戸数は4万8,300戸で、廃業等により前年に比べて1,800戸減少しました。肉用牛農家は高齢化や担い手不足などから離農が進んでいる状況です。一方、飼養頭数は251万4,000頭で、前年に比べ1万5,000頭(0.6%)増加しています。また、200頭以上飼育している農家が全体の6割の頭数を飼養しています。国内の牛肉の生産量は?
2018年度の牛肉の国内生産量は33万tで、牛肉の自給率(重量ベース)は、近年40%前後で推移し、減少傾向にあります。一方、日本の牛肉の輸入量は57万t(2017年)で、10年間で24%増加していますが、世界的に牛肉需要は急激に伸びており、安定的に牛肉を輸入できる環境が続かないのではという見方もあります。そのため、国内で肉用牛の生産がより盛んになることが期待されています。国では、肉用牛生産の安定を図るため、肉用子牛の平均売買価格が保証基準価格を下回った場合に補給金を交付する制度や売却価格が一定以下の場合に所得税や住民税が免除される制度などを設けています。
肉用牛経営の所得は?
肉用牛経営については、稲作や野菜栽培などに比べて、利益も大きいですがコストも大きいという実態があります。繁殖牛経営の所得
2017年の繁殖牛経営(全国平均)の1経営あたりの農業粗収益は1,258万円となっています。一方、農業経営費は723万円で、農業所得は535万円となっています。肥育牛経営の所得
2017年の肥育牛経営(全国平均)の1経営あたりの農業粗収益は7,517万円となっています。一方、農業経営費は6,524万円で、農業所得は993万円となっています。参考:農業経営統計調査「営農類型別経営統計(個別経営)」
肉用牛の一頭の値段は?
大規模肉用牛経営動向に関する調査報告書(独立行政法人農畜産業振興機構)によると、2017年度の市場出荷の1頭あたりの平均販売額は黒毛和種で118万円、交雑種68万円、乳用種44万円となっています。肉用牛の種類
乳牛と肉牛の違い
牛は体に肉がつきやすい肉用牛と乳をたくさん出す乳用牛に分類されます。乳用牛には、白黒のまだらな毛を持つホルスタイン種や鹿のようなジャージー種があります。一方、肉用牛には、以下のように「肉専用種(和牛)」「乳用種(国産若牛)」「交雑種(F1)」という3種の区分があります。肉専用種(和牛)
もともと牛肉を生産する目的で飼育されている牛をいいます。主に以下の4種です。黒毛和種(くろげわしゅ)
日本の和牛の主要品種で、高級な霜降り肉などを生産できます。和牛の飼養頭数のうち、約95%を占めています。無角和種(むかくわしゅ)
濃い黒色の毛が特徴で、肉質は黒毛和種より劣ります。日本短角種(にほんたんかくしゅ)
岩手県が主産県。体格が良く、放牧適性が高く効率的に赤身肉を生産します。褐毛和種(あかげわしゅ)
熊本県が主産県。肉質の点では黒毛和種に次ぐ品種。耐暑性に優れています。乳用種(国産若牛)
酪農経営の副産物である牡牛を肉向けに肥育したもの。主にホルスタイン種の雄です。交雑種(F1)
黒毛和種の雄にホルスタイン種の雌を交配し肉質の向上を図ったものです。肉用牛の仕事の内容
肉用牛の仕事には、えさやり、畜舎清掃、飼料配合・準備、牛の体調管理(発情等確認)、繁殖、出荷などがあります。繁殖させて安全に子牛を育てることは、経営に直結する大事な仕事です。近年では、発情発見装置や分娩監視装置、哺乳ロボットなど、ICTやロボットを活用して省力化を進め、生産性を向上させている事例もあります。えさは、1頭につき、1日に7~8kg与え、牛の成長過程に合わせて内容を変えることが一般的です。最初のうちは内臓や骨格などを作るため、牧草や稲わらなどの飼料を使います。牛の骨格が十分な大きさに成長した後に、脂肪を蓄えるよう大麦などを増やしていきます。食べるものによって肉質が違ってくるので、どのようなえさを与えたら良いのか各農家で試行錯誤をしながら飼育しています。ほかにも、牛が快適に過ごせるよう、削蹄(さくてい)というひづめを切る作業や、防暑対策の日かげづくりなどもあります。