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今、知るべきイノシシの知識と効果的な対策|農産物被害をどう防ぐ?


近年、急増しているイノシシによる農作物被害。農家の傍ら猟師さんのサポートやイノシシの解体もしている筆者の実体験から、農地を守るためのイノシシの知識、電気柵などの対策グッズ、地域で取り組むべき長期的で総合的な対策についてご紹介します!

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はる農園

はる農園 千葉県印西市で無農薬の野菜を作る農家。その他、狩猟、養蜂、木こり、大工仕事など、風土づくりをテーマに活動中。 facebook : https://www.facebook.com/inba.vege.farm/ instagram : harunoen84…続きを読む

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田を荒らすイノシシ

出典:写真AC
近年、イノシシによる農作物被害が急増しています。農家の傍ら猟師さんのサポートやイノシシの解体もしている筆者の実体験から、農地を守るためのイノシシの知識、対策グッズ、地域で取り組むべき長期的で総合的な対策についてご紹介します!

イノシシによる被害の実態

実際、イノシシによる被害はどのようなものがあるのか、その特徴や具体例をご紹介します。

高額で規模が大きくなりやすい

動物の足跡
出典:写真AC
イノシシによる農産物被害は約48億円(2017年)に上り、シカの約55億円に次いで2番目の被害額になります。推定生息数はイノシシの方が少なく、1頭当たりの被害額が最も高い害獣ともいえます。

筆者の暮らす地域では、市内だけで年間900頭以上のイノシシが駆除されています。収穫期の田んぼに入られて稲穂に泥やダニ、イノシシ特有の臭いが付き全く収穫できなかった、収穫しようと思っていたサツマイモが一晩にしてすべて食われた…など、日常的に被害の声を聞くようになっています。食害がなくとも、群れで行動するため踏圧による被害も多く、マルチに穴をあけられたり、定植した苗が踏み倒されたりといったことも起こりやすいという特徴も。

狙われやすい農作物と被害が出やすい時期

倒された稲
出典:写真AC
イノシシは雑食性の動物ですが、特に水稲、タケノコ、サツマイモ、落花生、栗、サトイモ、大豆などを好み、これらの作物のある農地で被害が拡大しています。イノシシは春に出産期を迎え、成長して秋になると冬越しのために田畑に出没するようになります。秋の収穫期の食害は農家にとって特に甚大な被害をもたらし、収穫が全くできないこともあります。当面の経済的な被害額を抑える対策として、これらの品目を作らないという選択もありますが、産地化が進んだ地域ではそのような選択が難しい場合もあります。

農作物被害だけじゃない!都市部では対物・人身事故も増えている

イノシシ出没
出典:写真AC
農産物被害だけでなく、自動車・人との事故も各地で起こり始めています。イノシシは人を襲うような肉食性の動物ではなく、雑食性で、肉を食べるとしても死んだ状態のみという動物です。ただ臆病な性格で、人に遭遇するとパニック状態になり人に向かっていってしまうことも。一般的なイノシシは60~80kgですが、大きいものでは200kg近い個体もいます。それが瞬間時速40km/hというスピードで向かってくるので、大きな事故につながることもあります。夜行性で夕方ごろから活動を始めるため、夕方から夜にかけての外出は特に注意が必要です。

イノシシは、出産・子育て期間にあたる4~7月ごろはすみかに隠れていることが多いのですが、この期間中の雌イノシシは特に狂暴で、知らない人が不用意にすみか周辺に立ち入らないよう注意が必要です。

ライト?犬?唐辛子?本当に効果のある対策とは

おりわな
出典:写真AC
イノシシの対策として、音、光、臭い、物理的柵など多くの方法が出てきています。筆者の実感で、どのような対策が有効かをご紹介します。

対策グッズのなかで本当に効果があるものは限られている

唐辛子
出典:写真AC
ライト、音、唐辛子や木酢液のようにイノシシが嫌う臭いなど、多くの忌避剤や装置が販売されていますが、実際に使った人の話を聞く限りほとんど効果がなかったというのが実態です。

イノシシは臆病ですが、学習能力が高く、光やライトなどは無害とわかるとすぐに侵入してきます。唐辛子などの臭いは嫌がるものの、降雨や風で臭いが拡散すると効果がなくなってしまいます。番犬を飼っている農家さんもいますが、イノシシを威嚇するほど攻撃的な犬種・個体を何匹も飼うのは大変ですし、面積の広い田んぼや畑に犬を配置するのは限界があります。

個人で対応するのは危険!イノシシの性格・特徴からわかる対策のあり方

イノシシは学習能力が高いので、その地域の群れの学習状況により効果のある対策が変わります。対策グッズの中には高額なもの、対策をするのに大変な労力を要するものがあるので、むやみに手を出さないことをおすすめします。

まずは、市町村の害獣対策に対応する部署に相談し、その地域で有効な対策を聞いてみましょう。地域によっては害獣駆除の檻罠や足罠を設置してもらえることがあります。

猟師による駆除が一番効果的

猟
出典:はる農園
イノシシの害を減らすうえで最も効果が高いのは、猟師が設置する足罠、檻罠、または追い込み猟による駆除です。一度同じ群れのイノシシが檻罠や足罠に捕まると、その鳴き声を聞いた残りのイノシシの群れは危険を察知し新しい住処へ移動するといわれます。追い込み猟も同様の効果があります。

害獣駆除はイノシシの頭数を減らすだけでなく、イノシシの群れを人里から離し、棲み分けをする意味でも有効です。

農家ができる対策とは

狩猟以外で、農家ができる有効な対策として柵の設置があります。高価で設置の手間もかかりますが、実際に有効な手立てです。メリットデメリットも含めご紹介します。

1m当たり200~400円:電気柵

電気柵
出典:写真AC
電気柵とは軽い電気ショックを与えてイノシシの侵入を防ぐ柵です。イノシシは鼻先がとても敏感なので一度鼻先に柵線を触ると、電気ショックを嫌がり柵に近付かなくなります。基本的に人が触ってもビリッとするだけで人体に影響はありません。

電池切れに気付かず放置されてしまうことがあるので、ソーラータイプの電気柵がおすすめです。

パワーユニット番兵 B40X-SP

・サイズ :幅320×高さ410×奥行き280mm
・電源:9・12V(バッテリー:20Ah以上、ソーラーパネル)
・エネルギー:0.40J
・消費電流:40mA

電線の高さを40cm以下、2~3段で設置するとイノシシの鼻先に接触する確率が高くなります。ただ、皮や毛の厚いお尻からバックで侵入したり、ヒヅメで電線を踏んで放電させるといった頭のいい群れも存在するので、電気柵を過信せず、ほかの対策も行うことが大切です。

デメリットとしては、草などが電線に触れて漏電するのを防ぐため、こまめに除草を行う必要があるということです。電気柵の周囲をくまなく除草する作業は大仕事です。数年すると管理に疲れて電気柵を維持できなくなる地域も少なくありません。

1m当たり2,000~3,500円:防護柵

防護柵
出典:写真AC
防護柵とは、金網によりイノシシの侵入を防ぐ柵です。設置の際は、鉄製の支柱やパイプを約2m間隔で打ち込み、金網を溶接などで接続します。金網は下からの侵入を防ぐため地面から20cmほど埋設する必要があります。1mあたりの単価は高くなりますが、素材自体は10年以上の耐用年数があるので長期的な対策として有効です。

イノシシ侵入防止柵用金網

・線径×網目:5×150mm
・出荷単位:6枚
・重量:3.0kg/枚

防護柵と併せて便利なグレーチング

防護柵を設置すると、作業用の車両や農機の入り口を作る必要が出てきます。鉄製扉を使用すると下から穴を掘って侵入されることがあるので、グレーチングという格子状または線状のU字溝を用いるのも効果があります。イノシシはヒヅメの大きさと同じサイズの溝があると、そこを歩くことができませんが、タイヤで走行する車両や農機は通れるので、扉の開閉などをせずそのまま防護柵内に入ることが可能です。

グレーチング付きU字溝 害獣対策 わたれません LIGHT

・内容量:1枚
・サイズ:900×790×120mm
・重量:約20kg


農家にもできる対策はありますが、そもそもイノシシはなぜ増えたのでしょうか。

イノシシはなぜ増えた?原因からわかる総合的な対策の必要性

イノシシの親子
出典:写真AC

イノシシが増加した原因

野生のイノシシの数は平成に入ってから25年間で約3倍に拡大し、推定生息数は89万頭、今後も増加が懸念されています。このような増加が続く原因としてイノシシが増えやすい環境を作ってしまったことが指摘されています。
もともと臆病な性格のイノシシですが、中山間地域で耕作放棄地や限界集落が増えたことで、肥沃な田畑や空き家に入りやすくなり、そこにある作物や食べ物などを食べるようになったのです。1年に一度出産するイノシシは、雌豚の栄養条件が良くなったことで、1回あたりの出産数が増加し、毎年4~5頭の子供が育ちます。一部地域に分布するイノブタに関しては、より出産頭数が多く、1年中出産が可能なためさらに深刻な頭数増加が起こります。

猟師の数の減少も一部の要因ではありますが、捕獲頭数が増加しているにもかかわらず被害が拡大しているのは、イノシシの頭数増加に捕獲数が追いついていない状況を物語っています。

バッファーゾーンの回復と囲い込みによる頭数コントロール

燃料や山菜などをとる場所として整備されてきた里山や農地から人がいなくなり、荒廃した結果、臆病なイノシシが侵入し、頭数を増やしたという流れから、被害軽減には農地や宅地の周りの荒れ地を整え、そこに罠などを仕掛け、イノシシの侵入を抑制するバッファーゾーン(緩衝地帯)を作る必要性があるといえます。バッファーゾーンより外の地域はイノシシの頭数が増えないように大きな囲い網などを設置していく対策と併せることで長期的にはイノシシとの共存も可能になるといわれています。

餌場を減らすバッファーゾーン形成の取り組み

森林整備
出典:はる農園
臆病なイノシシにとっては、身を隠せる茂みや荒れた竹林は住みやすい環境となります。また、耕作放棄地や栗や柿などの放任果樹、空き家なども餌場になりやすい場所です。農地や宅地の周りにある竹林、果樹園の整備、放棄地の除草などはイノシシにとっては居心地の悪い場所を作ることになり、群れの定着を予防することにつながります。個別の農家だけでは対策が難しいため、自治体や村の中で重点的にバッファーゾーンを整備していく取り組みが期待されます。

参照:兵庫県野生動物共生林整備

イノシシ問題から見直される農村の価値

イノシシ問題は田舎だけの話と思われがちですが、最近では人間の高カロリーな食べ物の味を知った一部の群れが市街地にも出没するようになりました。一方で、個別のイノシシ対策は農家任せ、頼みの猟師も高齢化していくばかり。抜本的な対策が進まず被害状況は深刻化・広域化の一途をたどっています。里山を整備し、田畑を耕し、猟を行う…そんな農村の暮らし方は、個人の生き方であると同時に、その地域で害獣防止機能を発揮していたともいえます。

農村が衰退していく今、イノシシ被害の軽減には、農家単位のミクロな対策だけでなく、多様な農村機能を再評価し、都市部や農村部周辺に適切なバッファーゾーンを構築していくというマクロな取り組みがより一層必要となってきています。

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