イノシシによる被害の実態
実際、イノシシによる被害はどのようなものがあるのか、その特徴や具体例をご紹介します。高額で規模が大きくなりやすい
筆者の暮らす地域では、市内だけで年間900頭以上のイノシシが駆除されています。収穫期の田んぼに入られて稲穂に泥やダニ、イノシシ特有の臭いが付き全く収穫できなかった、収穫しようと思っていたサツマイモが一晩にしてすべて食われた…など、日常的に被害の声を聞くようになっています。食害がなくとも、群れで行動するため踏圧による被害も多く、マルチに穴をあけられたり、定植した苗が踏み倒されたりといったことも起こりやすいという特徴も。
狙われやすい農作物と被害が出やすい時期
農作物被害だけじゃない!都市部では対物・人身事故も増えている
イノシシは、出産・子育て期間にあたる4~7月ごろはすみかに隠れていることが多いのですが、この期間中の雌イノシシは特に狂暴で、知らない人が不用意にすみか周辺に立ち入らないよう注意が必要です。
ライト?犬?唐辛子?本当に効果のある対策とは
対策グッズのなかで本当に効果があるものは限られている
イノシシは臆病ですが、学習能力が高く、光やライトなどは無害とわかるとすぐに侵入してきます。唐辛子などの臭いは嫌がるものの、降雨や風で臭いが拡散すると効果がなくなってしまいます。番犬を飼っている農家さんもいますが、イノシシを威嚇するほど攻撃的な犬種・個体を何匹も飼うのは大変ですし、面積の広い田んぼや畑に犬を配置するのは限界があります。
個人で対応するのは危険!イノシシの性格・特徴からわかる対策のあり方
イノシシは学習能力が高いので、その地域の群れの学習状況により効果のある対策が変わります。対策グッズの中には高額なもの、対策をするのに大変な労力を要するものがあるので、むやみに手を出さないことをおすすめします。まずは、市町村の害獣対策に対応する部署に相談し、その地域で有効な対策を聞いてみましょう。地域によっては害獣駆除の檻罠や足罠を設置してもらえることがあります。
猟師による駆除が一番効果的
害獣駆除はイノシシの頭数を減らすだけでなく、イノシシの群れを人里から離し、棲み分けをする意味でも有効です。
農家ができる対策とは
狩猟以外で、農家ができる有効な対策として柵の設置があります。高価で設置の手間もかかりますが、実際に有効な手立てです。メリットデメリットも含めご紹介します。1m当たり200~400円:電気柵
電池切れに気付かず放置されてしまうことがあるので、ソーラータイプの電気柵がおすすめです。
電線の高さを40cm以下、2~3段で設置するとイノシシの鼻先に接触する確率が高くなります。ただ、皮や毛の厚いお尻からバックで侵入したり、ヒヅメで電線を踏んで放電させるといった頭のいい群れも存在するので、電気柵を過信せず、ほかの対策も行うことが大切です。
デメリットとしては、草などが電線に触れて漏電するのを防ぐため、こまめに除草を行う必要があるということです。電気柵の周囲をくまなく除草する作業は大仕事です。数年すると管理に疲れて電気柵を維持できなくなる地域も少なくありません。
1m当たり2,000~3,500円:防護柵
防護柵と併せて便利なグレーチング
防護柵を設置すると、作業用の車両や農機の入り口を作る必要が出てきます。鉄製扉を使用すると下から穴を掘って侵入されることがあるので、グレーチングという格子状または線状のU字溝を用いるのも効果があります。イノシシはヒヅメの大きさと同じサイズの溝があると、そこを歩くことができませんが、タイヤで走行する車両や農機は通れるので、扉の開閉などをせずそのまま防護柵内に入ることが可能です。農家にもできる対策はありますが、そもそもイノシシはなぜ増えたのでしょうか。
イノシシはなぜ増えた?原因からわかる総合的な対策の必要性
イノシシが増加した原因
野生のイノシシの数は平成に入ってから25年間で約3倍に拡大し、推定生息数は89万頭、今後も増加が懸念されています。このような増加が続く原因としてイノシシが増えやすい環境を作ってしまったことが指摘されています。もともと臆病な性格のイノシシですが、中山間地域で耕作放棄地や限界集落が増えたことで、肥沃な田畑や空き家に入りやすくなり、そこにある作物や食べ物などを食べるようになったのです。1年に一度出産するイノシシは、雌豚の栄養条件が良くなったことで、1回あたりの出産数が増加し、毎年4~5頭の子供が育ちます。一部地域に分布するイノブタに関しては、より出産頭数が多く、1年中出産が可能なためさらに深刻な頭数増加が起こります。
猟師の数の減少も一部の要因ではありますが、捕獲頭数が増加しているにもかかわらず被害が拡大しているのは、イノシシの頭数増加に捕獲数が追いついていない状況を物語っています。
バッファーゾーンの回復と囲い込みによる頭数コントロール
燃料や山菜などをとる場所として整備されてきた里山や農地から人がいなくなり、荒廃した結果、臆病なイノシシが侵入し、頭数を増やしたという流れから、被害軽減には農地や宅地の周りの荒れ地を整え、そこに罠などを仕掛け、イノシシの侵入を抑制するバッファーゾーン(緩衝地帯)を作る必要性があるといえます。バッファーゾーンより外の地域はイノシシの頭数が増えないように大きな囲い網などを設置していく対策と併せることで長期的にはイノシシとの共存も可能になるといわれています。餌場を減らすバッファーゾーン形成の取り組み
参照:兵庫県野生動物共生林整備
イノシシ問題から見直される農村の価値
イノシシ問題は田舎だけの話と思われがちですが、最近では人間の高カロリーな食べ物の味を知った一部の群れが市街地にも出没するようになりました。一方で、個別のイノシシ対策は農家任せ、頼みの猟師も高齢化していくばかり。抜本的な対策が進まず被害状況は深刻化・広域化の一途をたどっています。里山を整備し、田畑を耕し、猟を行う…そんな農村の暮らし方は、個人の生き方であると同時に、その地域で害獣防止機能を発揮していたともいえます。農村が衰退していく今、イノシシ被害の軽減には、農家単位のミクロな対策だけでなく、多様な農村機能を再評価し、都市部や農村部周辺に適切なバッファーゾーンを構築していくというマクロな取り組みがより一層必要となってきています。